加藤真治

バンビシャス奈良は現在14勝18敗でB2西地区の4位につけているが、今回はそこではなく経営がテーマ。B2ライセンスを維持するためには2020年6月決算で債務超過を解消する必要があるものの、まだ目処が立たない。前期実績で売上2億6000万円、利益が1100万円のクラブにとって、約4000万円の債務超過の解消は決して簡単ではない。さらに困難は重なり、今シーズンは大手スポンサーの撤退によりマイナス3000万円からのスタートとなった。際どい立場にいるクラブの現状と今後の見通しについて、代表取締役の加藤真治に話を聞いた。

「自分の街をもっと好きになる、プロスポーツで誇りを」

──加藤代表はもともと仙台89ERSの立ち上げにかかわっていました。そこから奈良を作った経緯を教えてください。

ちょうどbjリーグが始まる時で、日本でバスケットをプロ化するぞと気負って仙台に行ったのを覚えています。仙台はもともとベガルタ仙台があり、東北楽天ゴールデンイーグルスができた年に仙台89ERSもスタートしました。プロ野球とJリーグと比べたらマイナーな存在ではありましたが、仙台の人たちは横並びで扱ってくれました。東京大阪を除く日本の地方都市で3つのプロスポーツが揃ったのが仙台が最初ということで、仙台の人たちの感情としては相当にうれしかった、地域の人が自慢できるものが増えたと受け止めてもらえたんです。仙台と言えば、牛タン、笹かま、伊達政宗がよく出てきますが、今だと「プロスポーツの街」と答える人も結構いると思います。お国自慢が一つ増えて、そこに住んでいる人が「自分の街が好きだ」と言える、そうやって地域の方に幸せを感じてもらえることにプロスポーツが役に立つんだと体験させてもらいました。

私は奈良の出身で、2011年の正月に帰省して読んだ新聞の特集で「地方都市のプロスポーツが盛り上がっている」という記事がありました。全国の地図に、各都道府県に何のプロスポーツがあるかが書いてありました。野球の独立リーグとかも含めて、日本地図のほとんどが埋まっている状態でした。しかし、奈良と山口と鹿児島の3県だけが何もない。赤字でスタートした仙台89ERSでしたが、6シーズン目に何とか収支が安定してホッとしたところでした。そこで奈良でもプロスポーツを創れないかと。奈良には鹿や大仏、世界に誇れる寺社仏閣がありますが、プロスポーツでも地域の方々に誇りを持ってもらいたいと思い、チーム立ち上げの活動を始めました。

──2013年からbjリーグで3シーズン、BリーグになってB2で今が4シーズン目です。ここまでの経営はどうでしたか?

7年前にbjリーグでスタートした時は売上1億円で4000万円の赤字でした。次が1億4000万円の1700万円の赤字。3年目が1億8000万円で赤字が400万円ぐらいでした。そこでBリーグが始まり、1年目は売上が2億3000万円で赤字が40万円となり、収支がほぼトントンのところまでいきました。しかし、翌シーズンは2700万円の赤字を出して、会社としては瀕死の状態に陥りました。

Bリーグの3シーズン目(18-19シーズン)にクラブライセンスの審査のためにBリーグから担当者が来られました。これは審査のためでもありますが、クラブ経営のコンサルタント的な立場でクラブを指導し、リーグに集まった情報をフィードバックするためでもありました。第三者的な立場から改善案をいただいたことが大きく経営改善に繋がりました。

それと同時に選手にも危機的な状況であることを話して、フロントとチームが一丸となって乗り越えていきたいと伝えました。選手たちは勝つことでチームを盛り上げたいとの思いが第一にあるのですが、選手たちも集客のための企画を一生懸命考えてくれました。また、ファンの皆さまにも決算状況を発表していくことにしました。

バンビシャス奈良

「共鳴がクラブの価値を広げていく」

──「バンビシャス奈良 決算」で検索すると過去のものも出てきますね。悪い情報を公表するのは気が重いと思います。

2700万の赤字を出して、自分たちがもがくだけでは黒字化は難しいと感じていました。多くの方々に協力してもらいたい。そのためにはまずバンビシャス奈良の現状を知ってもらうことが重要と考えました。記者会見をして経営情報はできる限り出すことにしました。昨シーズンも出だしは集客が伸びませんでした。社内の危機感も高まって、11月の決算発表に合わせて、ライセンス審査に向けて何が足りないのか、何をしないといけないのか、ファンの方たちにも伝えました。3月の審査に向けて2月までに集客が伸びないとライセンス審査がまず通らないので、お客さまにホームゲームに来て欲しいとお願いしたんです。

社内で話し合いをしている時に、女性スタッフの一人が『共鳴』の話をしました。理科の実験でやったと思いますが、音叉を鳴らすと音が伝わって、鳴らしていない音叉も鳴り始める。我々自身の活動がまだまだ大きな力には届いていません。もっと大きな力にしていくためにも、バンビシャスに共感して行動してくれる人が増えないか考えて行動しようと。

そこから、お客さまがご両親や親戚一家、会社の同僚、同級生や友人一家を連れてきてくださるようになりました。また新聞社も「これは何とかしなきゃ」と特集記事を組んでボランティアの方やファンの方などバンビシャス奈良を支えていただいてる方々を取り上げてくれるようになりました。それで年が明けてから観客数が伸びて、2月17日が審査に向けた最後の試合だったのですが、それまで1000人ほどだったのに1700人を超えるお客さまが来てくれました。実際は目標とする数字には少し届かずに審査が1カ月伸びましたが、「これだけ増えれば大丈夫」ということで4月にB2ライセンスのOKをもらいました。

──『音叉が共鳴』した結果、クラブ初の黒字化を達成しましたが、今もまたライセンス基準をクリアできるか危機的な状況にあります。現在の状況はいかがでしょうか。

今シーズン、2020年6月の決算で債務超過を解消する必要があります。過去の累積の損失からできた4000万円の債務超過の解消に加えて、大口スポンサーが落ちたことで収支がマイナス3000万円のスタートとなりましたから、合計で7000万円を埋める必要があります。増資で4000万円、収支改善で3000万円を埋める方針でスタートしました。増資についてはほぼ行ける見込みまできましたが、収支は1000万円ほど改善しただけで、あと2000万円足りない状況が残っています。

バンビシャス奈良は、地域にとって必要な価値を創り出して始めています。企業経営者の皆さまには、そのようなクラブを100年続くクラブに成長させるための支援をいただけないかと思っています。奈良の未来を作るための支援をしたんだ、という価値は創っていきたいです。また、今シーズンも2月までのホームゲームの集客が大きなヤマになります。ファンの方々には来てくださいと訴えるだけじゃなく、楽しんでもらえるものを準備していきます。支えてくださる皆さまの気持ちに我々も応えるべく、連れてきていただいた友達や家族の方々が「楽しいね」と言ってもらえる会場を作り、欲しくなるグッズなどをしっかり準備していきます。

バンビシャス奈良

「奈良の皆さんの気持ちを一つに、一喜一憂できるクラブに」

──仙台の時代も含めてbjリーグを長く経験してきました。Bリーグの時代、クラブ経営はどう変わりましたか?

メリットもデメリットも両方ありますが、総論では明らかにプラスです。bj時代はクラブの成長がゆるやかでしたが、BリーグになりB1では集客が倍増しているし、売上規模も3億円だったクラブが17億円になったり、1億円プレーヤーも生まれました。これは大きなメリットです。しかし、我々はB1クラブほど売上を伸ばせてない中、選手獲得の予算は毎年上げていかないとBリーグで戦っていけない。これは正直、苦しいところです。Bリーグになったメリットをどう掴むかも経営としてもっと考えていかなければいけません。

──まだまだ大変な状況で、ライセンス取得に向けていよいよ正念場を迎えます。どんな心持ちで臨みますか。

仙台の時代から苦しい中で15年間やってきました。そこで感じたのは、下世話な話かもしれませんが、苦しい顔をしてやっているところにお金は集まらないということです。我々が前を向いてポジティブでいなければいけないと思います。我々がまず何かをする、そこに価値があるものを作り出す。これを未来に繋げていくことに対してご支援いただきたいです。

今も選手たちには経営状況を定期的に伝えています。ユニフォームからスポンサー名がなくなったのは大きなショックだったようですが、「応援したいと思えるチームになる」という気持ちで頑張り、クラブ初の7連勝もしてくれました。選手が頑張ってくれているのだから、その勢いを集客に繋げて私たちフロントも結果を出さなければいけません。

──前を向く、というのはチームの明るい未来を見ることだと思いますが、B1昇格を目指すとかですか?

私は、気持ちを一つにして一緒に一喜一憂できる人がどれだけいるかがクラブの価値だと思っています。来ていただいた方々に楽しんでもらう、喜んでもらう、多くの方々に興味を持ってもらうため勝たなければいけないと思っています。当然、上のステージで強いチームと戦って勝てばもっと喜んでもらえます。B1を目指すのはそのためです。B1に上がる、優勝争いをする、大きなアリーナを持つというのは、皆さまに喜んでもらうために重要だと思っていますし、目標にしています。