昨年大会を制した岐阜女子だが、チームを率いる安江満夫監督はあくまで挑戦者の姿勢を崩すことなく、今年のウインターカップに向けた準備を進めている。今回も、最大のライバルである桜花学園にどう挑むかがテーマになるが、「日頃どう積み重ねてきたかがゲームに出る」が安江監督の持論。ウインターカップに向けて特別な気合いを入れるのではなく、長い時間をかけて積み重ねたチームの総合力で、今大会にも臨むつもりだ。
「基礎と基本をしっかり作り、方向性を見据える」
──新チームになってからここまでの歩みはどんなものでしたか。
高校のバスケット界は12月のウインターカップが区切りで、1年前に優勝させていただいて、1月から新たなチームで動き出しました。毎年新たなチーム作りは、前年から残るメンバーに新たな選手をどう組み込んで使っていくかを考えます。センターに留学生のエスター(イベ・エスター・チカンソ)がいて、ガードの藤田(和)、シューターの林(真帆)という3本柱を中心にチームを作って、残るポジションのメンバーを入れ替えながらチームを作ってきました。昨年のウインターカップでケガをしていた藤田が復帰してから安定した戦いができるようになっています。
──今の女子は岐阜女子と桜花学園の『2強』です。ライバルについてはどう意識しますか。
毎年、桜花学園さんにどう挑戦するかを意識しながらチーム作りは始まります。今年の桜花学園さんは隙がない布陣ですね。東海新人では勝ちましたが、怖いもの知らずのような状態で挑んだ結果で、6月の東海総体とインターハイの決勝では負けています。ここまではがっぷり四つの戦いでしたが、今回は機動力を生かしてかき回した戦い方をしようと考えています。
井上眞一先生は全国大会で60回以上優勝してきて、後にも先にもこんなチームが出てくることはないでしょうね。高校の女子チームの多くが「桜花学園にはかなわない」とあきらめてしまっている。でも私は、そんな声を聞くたびに「それじゃダメだぞ」と自分に言い聞かせます。桜花学園さんにはいずれ日本代表の中心になっていく選手が集まってきますが、同じ高校生だし同じルールで戦うわけですから、簡単には引き下がれないぞ、という思いです。
──そんな岐阜女子が、桜花学園と競り合うチームになれている理由は何でしょうか?
岐阜女子の選手は夏から冬にかけてすごく伸びる、と言っていただいたことが何度かあります。ウチにはそんなに高い能力を持ったスター選手が来ているわけではありません。でもバスケットは、基礎と基本をしっかり作り、方向性を見据えて一歩一歩進んでいけば、技術もメンタリティも必ず成長していけます。特に16歳から18歳という成長期だからこそ伸びます。方向性の定まった夏から冬の3カ月か4カ月はすごく大事な時間で、そこで選手たちは成長します。
基礎作り、脚作りを意識するのは1年常に変わりませんが、その中で大きな大会に向けて仕上げていく。チームを分解しても岐阜女子としての力が落ちるわけではないので、インターハイが終わると一度チームを分解して、1カ月ちょっとはファンダメンタルを徹底して練習します。
「選手が自分で答えを出せるまで我慢するのが大事」
──基礎が大事と言うのは簡単ですが、そこには粘り強い指導が求められますよね。
高校3年間と言いますが、実質2年半しかありません。限られた時間の中で選手たちを成長させるには、そのための環境作りが非常に大事になります。選手たちにもよく話しますが、ただ種を撒けば育っていくわけではなく、そこにはどれだけ良い土があるかが大事だし、水をやり、日に当て、周りの雑草も取らないといけない。「そういった環境は当たり前のことじゃないんだよ」と言ったら昭和的な発想かもしれませんが、でも大切なことは何年経っても大切です。ずっと歴史がある中に未来があるということは、私は指導者として生徒たち、若い世代に学ばせたいと思います。
種を蒔いて、芽を出すところは彼女たちが自分たちでやらなきゃいけない。選手たちが必死にもがいている様子を、指導者は我慢して見届けなければいけません。彼女たちが芽を出す、芽を出したくなるようにどう仕向けるか。芽が出ると思ったのに出なかったり、思いがけずニョキニョキと出て来たりと、なかなか思い通りにはいきませんが、それぞれの状況を指導者はちゃんと見て、どうしようもない時は手を差し伸べなくてはいけない。その加減は難しいです。すべて答えを出してしまっては何もならないので、選手が自分で答えを出せるまで我慢する。それには時間が必要だし、選手が厳しい練習に耐える様子を見届けるのが大事です。
──『アメとムチ』ではないですが、選手たちへの厳しさと優しさのアプローチはどうバランスを取っていますか?
女子の選手は見てあげることですね。同じ空間に存在してあげること。今も朝のシューティングにも立ち会います。もちろん指導することもありますが、基本的には見届けています。その空間にいることが大事で、「これやっとけよ」というのはやらないようにしています。女子の選手を育てるには大事なことです。
もちろん、問題があればそのままにはしておけないので指導しますが、基本的には言いません。言いたいけど我慢して、その選手がどういう傾向に今あるのかを見届けてあげる。ちょっと曲がっていても、私が手直しするより本人が気づいて修正できるのが一番ですから、放っておくこともあります。ここが難しいところですが、教えすぎないことは大事です。
──もう高校生だから、自分で気付いて判断してほしい、ということですね。
小学生だから、中学生だからというのは関係ない気がします。年齢にかかわらずダメなものはダメなので、それは指摘するようにしています。
──寮は今年から新しくなりました。環境も良くなっていますね。
部員が44名もいるので狭いところもありますが、食堂もこれまでは今の半分ぐらいの大きさでしたから、新しくなってゆったりとしています。今日は選手たちのお母さんが夕食のサポートに来てくれています。基本的には学校で食事を用意するのですが、副菜をプラスするのをアシスタントコーチがやっています。それを今日はお母さん方が手伝いに来てくれています。ウチは選手の親御さんを含めてファミリーなんです。
家族というのは「家族になろう」と言ってなるものではありません。お互いの思いを分かり合うことが大事だと思います。選手たちも親御さんも必死になってそう取り組んでいます。若い指導者と話す時によく言うのは、「応援してくれ」と言うのではなくて、応援したくなるようなチームを作るべきだということです。必死にやっていれば見てくれる人はいます。自分が何もやらずして要求しても人は動いてくれません。ウチの選手はそう考えてやっています。
「桜花学園さんにどう挑めるのかがすべて」
──いよいよウインターカップですが、今回の組み合わせをどう見ていますか?
桜花学園さんが第1シードで、ウチが第2シードです。同じサイドには第3シードの大阪桐蔭さんがいます。今年は東海勢と関西勢が強い印象で、実際にインターハイのベスト4もそうなりました。他に注目しているのは京都精華さんで、能力が高いし頑張っているチームです。準決勝で当たることもあるのではないかと思っています。
基本的にはインサイドを使ってディフェンスから走る展開、シンプルな岐阜女子の戦い方を目指しています。ただ、ディフェンスについては準備をしていかなければいけないので、組み合わせを見ながらやっていきます。
──その準備も最終段階かと思います。
以前は大会前に大学や実業団のチームと対戦させてもらうこともありましたが、選手たちのレベルも上がっているので、自分たちのチーム練習の中で十分な準備ができます。今年はインターハイの時には合宿で高地トレーニングをして、岐阜に降りてきてそのまま鹿児島に行きました。ここ3年はずっとそうしていますので、今回もチーム内で良い状態を作って東京に向かいます。
──学校スポーツの大会とはいえ、これだけ大きな注目を集めますから、プレッシャーもあると思います。
悩んで寝られないことも、もちろんあります(笑)。ですが、やはりバスケットは日頃どう積み重ねてきたかがゲームに出ます。「大事な試合だからしっかりやろう」と言ってできるものではありません。だから1年間ずっとファイナルを考えた取り組みをしています。決勝戦の状況でどう戦うか、そのためにはここを我慢しなきゃいけないぞ、という考え方ですね。選手起用も含めて、桜花学園さんの牙城をどう崩していくかをいつも考えています。こうすれば勝てるという特効薬があるわけではないので、毎年が試行錯誤の連続ですけど、それを積み重ねるのが大事だと思ってやっています。
──ウインターカップの舞台で岐阜女子のここを見てもらいたい、というのを教えてください。
例えば林は中学校では県大会にも出ていません。そういう子でも3年間必死に取り組めばチームの一員になれるし、主力になって全国大会のファイナルまで行けます。バスケットというのは本当に正直なスポーツで、自分が手を抜いたらそれだけの答えしか出ないし、一生懸命に取り組めばそれなりの答えが得られます。それは特にディフェンスに出てくると思います。
オフェンスは個の身長や能力がなければ練習で解決できない問題もいっぱいありますが、ディフェンスになれば身長という要素は大きくても、意識をしっかり持って練習をすれば十分にできる可能性があります。
バスケット的に言えばオフェンスの方が面白いです。でも、私は2点を取ることも2点を守ることも同じ価値だと考えています。最後ここの2点をねじ込んだら勝つ、ここの2点を守りきったら勝つ、それは一緒なんですよ。今回もウインターカップも、桜花学園さんにどう挑めるのかがすべてだと考えています。桜花学園さんの素晴らしいオフェンスを、岐阜女子の積み上げてきたディフェンスがどう捕まえるのか。そこを是非見ていただきたいです。