福岡県久留米市の祐誠高校は、創立58年目にして初のウインターカップ出場となる。全国でも屈指のバスケ強豪県である福岡では、福岡大学附属大濠と福岡第一を破らなければ全国大会には行けない。それが今回、ウインターカップの出場校が男女各10校ずつ拡大されたことで、福岡県の3位まで出場できることに。思いがけないチャンスをどう生かすのか、三笠富洋監督に聞いた。
監督になって22年目、初めてのウインターカップへ
──まずは三笠先生の自己紹介をお願いします。
久留米の城南中学校でバスケットを始めて久留米高校に進み、指導者を志して当時日本一強かった日本体育大に進みました。私が1年生の時の4年生には福岡第一の井手口孝先生、開志国際の富樫英樹先生がいらっしゃいました。卒業後はとびうめ国体(1990年)の事務局で働くことになり、すぐ福岡に戻りました。福岡市の行政の中での仕事で、1年目はバレーボールを、2年目の本国体の時には高校野球を担当しました。バスケットボールは、今は白鴎大の佐藤智信が担当していました。
国体が終わって保険会社に就職して、イベント会社でも勤務しました。ですが、中学校1年の時から高校バスケの指導をしたかったので、サラリーマンは社会勉強のつもりでした。27歳でこの学校に講師として入り、最初はアシスタントで、監督になって22年目です。
──祐誠はどんな高校ですか?
普通高校と工業高校を合わせた学校です。久留米工業大学附属高校と呼ばれていた昔はヤンチャでしたが、私が入って何年かで校名を変えて、イメージはだいぶ変わりました。ヤンチャな子が多かったのですが、この高校には当たり前のことを当たり前にやるのを妥協しない厳しさがありました。この指導が根付けば変わると思っていて、その通りになりました。
私が来た頃のバスケ部は、この南部地区でベスト4に入るぐらいのレベルでした。福岡は中部が強く、南部地区は下に見られています。そこを変えたいという思いはずっと持っていました。20年前に創部以来初めて南部地区で優勝して県大会に出場しました。9年前に初めて県のベスト4まで進みましたが、そこから大濠と福岡第一を倒さないと全国に行けない難しさがあります。
個人としては13年ほど前に井手口先生の下で福岡県の少年男子のコーチを4年間やらせてもらいました。そこで得られた経験、考え方はものすごく大きかったと思います。
「進路をちゃんとしないと親御さんに申し訳が立たない」
──それが今年、大濠や福岡第一を倒さなくても県3位でウインターカップに出場できることになりました。これは大きなチャンスだと感じましたか?
実はそうでもないんです。私として重きを置くのはインターハイで、ウインターカップにしても県の3位になるより大濠か第一のどちらかを倒して行きたいという思いでした。
もともと、私はウインターカップにあまり思い入れがなかったんです。生徒たちは進学も就職もあって、特に就職はもろに当たります。7月には就職先を決めなくてはいけないし、勉強も進路指導もあります。9月になれば試験があります。全国大会に行くチャンスではありますが、進路をちゃんとしないと親御さんに申し訳が立ちません。だからやっぱり進路が優先だし、その狭間でバスケットをするのは難しいです。だから一度は進路に集中して、練習は週に1回か2回だけ。就職を決めてまた集まろう、県予選まで1カ月ちょっとでやり直そうという感じでした。
──ウインターカップ出場を決めた福岡県の3位決定戦を見て、技術面はともかくフィジカルの強さは大濠や福岡第一にも引けを取らないと感じました。そこはかなり鍛えていますか?
そうですね。トレーナーを入れたことで、フィジカルがどれだけプレーに影響するかを勉強させてもらいました。今年の3年生で試合に出ている選手は、中学時代に県大会に誰も出ていません。今回は準々決勝で当たった九産大九州にはジュニアオールスターを経験した選手が多くいました。そこに勝つにはフィジカルしかない、技術は後からでも伸びていくと考え、フィジカルを重視したチーム作りをやってきました。
──ウインターカップへの思い入れがあまりなくても、3位決定戦は「勝てば初の全国大会」という試合でした。やはり気持ちが入ったと思うのですが、どんな心境で臨みましたか?
正直に言えば選手よりも私がビビってました(笑)。もちろん全国大会に行きたいという思いはあります。ただ、天から降って来るものではなくて、日々の練習、準備がすべてですから、選手を信じるしかないんですよね。そう思いながら、ビビっているのを隠していました(笑)。
「福岡県の名に恥じないバスケットをしたい」
──祐誠のバスケットの強みはどの部分かを教えてください。
ディフェンスからのブレイクですね。大濠や第一のようなサイズはなく、強いリバウンダーがいないチームですから、先走りができません。その中でどれだけ速くできるかを練習しています。河村勇輝くんのようなガードがいるわけではないので第一と同じことはできませんが、真似はできます。そうやってブレイクのパターンを増やしたことが強みになりました。
ブレイクのやり合いでは全国でも負けたくないですね。私は「前半は我慢、3ピリになったら走ろう」と言います。相手よりもウチの方が練習しているから、後半になればウチのブレイクにはついてこれないぞ、と。
──もう「ウインターカップに思い入れがない」ということはなさそうですね。
実際はインターハイで変わりました。インターハイの準決勝、第一が開志国際に勝ったら福岡県の枠が3に増えるということで、「全国への道を開いてくれる第一を応援するのは当然だ」とアシスタントコーチに伝えて、マイクロバスで部員全員を鹿児島まで連れてきてもらいました。そうしたら第一の河村くんが「明日は祐誠のために頑張ります」と言ってくれるし、試合が終わったら井手口先生が私にハグを求めてくるんですよ。私にとってはずっと「4年生の先輩」ですから、ハグなんかして大丈夫なのかなって(笑)。でも、そこで井手口先生が福岡県を背負ってインターハイに臨んだことがすごく伝わるとともに、福岡県の3位は後輩である私が死守してウインターカップに行かなければ、と思いました。
福岡県はバスケット王国です。でも、大濠と第一は知っていても福岡の3位はみんな知らない。そこでウチは福岡県の名に恥じないバスケットをしたいです。それはウチらしいバスケット、ディフェンスを頑張ってのブレイクです。
キャリアがなくても高校で頑張れば全国大会に行ける。身体を鍛え、心も鍛えて、ディフェンスからブレイクを増やしていけば勝てる。雑草魂ですね。キャリアがない選手ばかりの福岡県3位がウインターカップでどこまで通用するか、そのワクワクが一番です。