MVPに選ばれた岸本に匹敵するパフォーマンスを披露
ヒルトン・アームストロングの価値は、昨シーズンの千葉ジェッツを見た方ならよくご存じだろう。彼は得点やリバウンドといった『数字』以上の貢献を見せるチームプレイヤー。NBA通算292試合というキャリアは華やかだが、持ち味はタフで渋いプレーだ。
そんな彼が今シーズンは琉球ゴールデンキングスに加入した。ヒルトンの『らしさ』はアーリーカップ関西大会からしっかりと表現されていた。
決勝戦でMVPに選ばれたのは岸本隆一。勝負どころで3ポイントシュートを3連続で決め、チーム最多の14得点を挙げた結果を見れば納得だ。ただしヒルトンも11得点11リバウンド4アシスト3ブロックを記録。『影のMVP』に相当する働きをしていた。
大会を終えたヒルトンはリラックスした様子で、フレンドリーな雰囲気で取材に応じてくれた。彼は優勝をこう喜ぶ。「トーナメントのサイズは関係なく、僕自身は勝つことが大好き。だから結果に対して喜んでいる。どんなミスが起きても、チーム全員で戦えたことがすごく良かった」
フィッシャーとの211cm対決を鮮やかな動きで制す
滋賀レイクスターズとの決勝戦でポイントになったのが彼とディオー・フィッシャーとのマッチアップ。いずれも身長は211cmで、さらに身長以上のウイングスパンを持つB1屈指の『ハイタワー』だ。琉球はアイラ・ブラウンの加勢が強力だし、もちろんすべてが個人と個人の戦いだったわけではない。ただ『五分五分』のボールが収まるのはなぜかヒルトンで、ボールや相手の動きに対する予測は鮮やかだった。
フィッシャーは序盤からファウルトラブルに苦しみ、第4クォーターにはファウルアウト。一方でヒルトンは被ファウルが7つ、自らのファウルは1つという『黒字』で試合を終えている。彼はそんなインサイドの攻防をこう振り返る。「同じような身長な選手とやり合うのは自分にとっても楽しいこと。相手がいろいろと文句を言っている場面があったけれど、そういうシーンを見て自分が上回っていると思えた。そこもすごくうれしい」
「個人に走らないのが自分のスタイル」を徹底
第3クォーターの攻勢を生んだ岸本隆一の3ポイントシュート3連発も、1本目はヒルトンのパスから生まれたもの。「オープンな選手がいたらボールをシェアする。個人に走らないのが自分のスタイル」という言葉通りのプレーを見せていた。
試合の分かれ目になったのは残り23秒で見せたヒルトンのディフェンス。琉球は71-68と3点差に迫られ、相手ボールのオフェンスに対していた。3ポイントラインの外から隙をうかがう並里成に対して、琉球はヒルトンがスイッチして対応。並里の強引な3ポイントシュートを、長い腕で悠然とブロックして見せた。
このプレーをヒルトンはこう説明する。「時間が迫っていて点数も3点差だから、相手はスリーを打ちたい。そこでコミュニケーションをチームメートと上手くとれた。本当は自分がガードを守ったら、ドライブさせて2点で抑えようという考えだった。並里選手がスリーを打ってきたので、結果としてブロックになった」
センターの選手が外に出て中を空ける選択は一見すると思い切ったものだが、点差や時間帯を考えれば間違いなく妥当。ヒルトンの能力とは別に、彼と周囲のコミュニケーションという部分でも、琉球の収穫になったプレーだった。
沖縄に惚れ込む「自分が海外で暮らした中でも最高の街」
琉球というチーム、沖縄という土地については、良い印象を持っているようだ。それは「I love it」の言葉だけでなく、満面の笑みからも伝わってきた。
ゴールデンキングスに対する第一印象を尋ねるとこんな答えが返ってきた。「ウェルカムな気持ちでチームメート、組織に迎えてもらったことはうれしい。言葉の壁は多少あるけれど、同じことを一緒に笑えたり、そういう気持ちを共有できているチーム。すごくうれしく思っている」
沖縄の住み心地は言葉を尽くして絶賛していた。「今までいろいろな国でプレーしたけれど、自分が海外で暮らした中でも最高の街。パラダイスとしか言いようがない。ビーチがあんなにあって、1年を通して温暖な気候というのも、自分は経験したことがない。みんなが自分に対してフレンドリーだし、チームメートや組織が自分を受け入れてくれていて、そんな姿勢も自分を住みやすくしている。すごく楽しく過ごしています」
スタッフが着用しているウエアも気に入った様子だった。「かりゆしみたいなカッコいい服を着られるのも沖縄くらいだね。帰ったら早く試したい」
琉球はB1でも最高レベルの人気があり、戦力も揃った。ヒルトンも楽しくプレーしている。そんなチームの次なる問題は──。211cmのヒルトンに合う特製サイズの「かりゆしウエア」を用意することかもしれない。