アルバルク東京の渡邉拓馬アシスタントGMに聞く2017年夏のチーム作り(後編)「Bリーグを引っ張るクラブになりたい」

アルバルク東京の渡邉拓馬アシスタントGMに聞く2017年夏のチーム作り(後編)「Bリーグを引っ張るクラブになりたい」

2017/08/31 12:00

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

トヨタ自動車を中心に長くトップレベルで活躍してきた渡邉拓馬は、Bリーグ開幕を直前に控えた2016年春に現役生活にピリオドを打った。プロフェッショナルのお手本のような存在としてチームメートやファンから尊敬された彼は今、アシスタントGMとしてチームをサポートする側に回っている。

昨シーズンのアルバルク東京はチャンピオンシップ準決勝で敗退。優勝候補として期待され、上々のレギュラーシーズンを送りながらもタイトルには手が届かなかった。そんなBリーグ初年度をどう総括し、どのように変えて2年目のシーズンに臨むのか。「取材を受けるのは久々ですよ」と笑う渡邉に、2017年夏の編成を語ってもらった。

アルバルク東京の渡邉拓馬アシスタントGMに聞く2017年夏のチーム作り(前編)
「中長期の土台を作るために改革路線へ」

企業チームからプロに変わった明確な成果

──昨シーズンのチームの特徴は、ディアンテ・ギャレットを起用して、正統派ポイントガード不在であることでした。ギャレットの大活躍でエンタテインメントとしては大成功だったと思いますが、バスケットボール的な判断は難しいところかと思います。

おっしゃる通り、インパクトはありました。開幕戦をああいう形でやれて注目されたこともあって、A東京にとってはものすごく大きなプラスです。その一方で、やはりディアンテ頼みで安定感を欠く部分も少なからずあったと思います。

去年の編成に僕は全くかかわっていないのですが、チームを評価する立場として「1年目としては成功」と考えています。チャンピオンシップでは川崎(ブレイブサンダース)に負けましたが、アウェーであれだけの戦いができました。もちろん負けたことは悔しいのですが、あの結果でまずは良かったんだと思います。

トヨタ自動車の企業チームからBリーグのプロチームになって、チームもフロントも方向性を模索しながらのスタートでしたが、あのセミファイナルでチームの方向性が明確になりました。それは負けたから分かったことです。勝ったら勝ったで良かったのですが、負けたから今年足りないところを補強しているわけです。選手もスタッフもいろんなことを経験して、人間的に成長できたことを実感しています。チームとフロント、チームとファンの結び付きもグレードアップしました。そういう意味で1年目は成功だったと見ているんです。

──ファンとの関係性、結び付きはどのように変化しましたか?

開幕当初はスタイルもないまま進んでいたのですが、ホームゲームをやるにつれて距離が縮まって、最後はアウェーゲームにもたくさんのファンが来てくれました。これまではそういうことがなかったですから。そのファンの動きに選手たちも反応して、伊藤ヘッドコーチを含め「応援してくれる人たちのために頑張ろう!」という感情が芽生えてきました。それは企業チームからプロに変わった明確な成果です。僕が現役の頃は、あんな感じはありませんでしたから。

日本代表がほぼA東京の選手で埋まるのが理想です

──次に、外国籍選手を選んだ基準について教えてください。

ジャワッド(ウィリアムズ)選手とは、彼がレラカムイにいた時に僕は対戦しているんです。ルカのスタイルに合っていること、同じポジションの竹内(譲次)選手に良い影響を与えられるということですね。競争ができて経験もある、賢いハードワーカーという条件での人選です。

(アレックス)カーク選手も同じです。ルカが目指すスタイルを考慮しつつ、何人かリストアップした中から意見を聞いて決めました。バスケIQが高く、サイズがありますけどパスもシュートもうまい。ルカがやるハードなディフェンスへの理解度も高いです。そういうところも映像をよく見て、意見交換をして決めました。

──最後に決まったのがランデン・ルーカス選手で、日本育ちの23歳。日本代表入りも期待されています。日本国籍を取ることがポイントだったんですか?

いや、それは全然意識していないです。後々そういう方向になればいいと思いますが、普通に外国籍選手としてリストアップして、ルカが目指すバスケットに合うことと、若いので中長期を考えて一番良い選手だと判断しました。外国籍選手も含め、できれば同じメンバーで長くやるのがベストです。それで良いチームが続くのであれば、変える必要はないので。

──ルーカス選手についても「日本のために」という意識があったのかと思いました。

情報としてはありましたが、それを理由に取ったわけではありません。それでプレーがダメでは意味がないので。ただ、「日本のために」は常に考えているつもりです。日本代表がほぼA東京の選手で埋まるのが理想ですが、そうじゃなくても日本を引っ張っていく存在にならないといけないと思っています。そのためにも常に強化をして、上位争い、優勝争いをして、Bリーグを引っ張るチームになりたい。そこまで意識することが日本のためになるし、チームとしては当たり前の発想だと思っています。

──当たり前の発想とは言っても、「日本のため」と考えるところまで手が回らないクラブも多いのが現実です。その中でA東京が「日本のために」と言えるのは、本拠地が東京だからとか、親会社がトヨタであることが大きいのでしょうか。

どちらもあると思います。A東京をバックアップしてくれているトヨタはもともとグローバルな会社で、オリンピックとパラリンピックに向けて積極的に活動している企業でもあります。自然とそういう考えのチームではありましたが、今はそれがより明確なものになりつつあります。

──レベルの高い競争をすればまたレベルは上がっていきます。それを引っ張る存在をA東京は目指すわけですよね?

そのスタンスでやっています。今後、他のチームのお手本になれればいいと思います。先を見据えた活動をして、選手にもそのことをちゃんと伝えて、世界を目指してやっていく。そうやってチームが強くなっていけば、他のチームも自然と僕らを見本にしてやっていくことになります。

──話はそれますが、トヨタ社長の豊田章男さんはA東京がかなりお気に入りだという話を聞きます。実際はどれほどなんですか?

大好きですね。それは僕が現役の頃から何回も来ていただいていて、(ドナルド)ベックさんの優勝の時には胴上げさせてもらいましたから。今も会場に来ては選手に激励の言葉をかけてくださるので、非常にありがたいです。その点で、A東京が日本のため、世界と渡り合うためにトップを目指すというのは、豊田章男さんの意思でもあります。「そのためにはサポートする」と言っていただいています。

いつも会場に足を運んでいただいていますが、VIP席ではなく普通の席に座ってユニフォームを着て応援されるんですよ。多分、皆さんが想像されるのとは全然違って、失礼ながら「本当に社長なんですか」というぐらい気さくです。僕は試合を一緒に見ることもあります。突然いらっしゃって「渡邉くん、ちょっと解説してよ」という感じで(笑)。選手の名前もちゃんと知ってるし、本当にバスケットボールのことをよくご覧になっています。

個々の選手の立場でのビジョンの話は必ずします

──編成の話に戻ります。予算がある中での編成だとは思いますが、そのバランスはどう取っていますか?

他のクラブと変わらないと思います。「トヨタだから金があるんだろう」と見られているかもしれませんが、チャンピオンシップ出場チームと比較してもそこまで差があるわけではないと思います。実際、今季の新加入選手は若手が中心ですので、他のチームのような大きな買い物はなかったと思います。見え方はともかく、実際予算があって、その範囲内でやっています。予算の推移については、プロクラブになって各選手の年俸が上がっているのは事実です。私自身、お金の部分はタッチしてないので、この選手はこれぐらいの年俸というのは把握していますが、いずれにしてもウチはお金だけで選手を呼ぶのではなく、クラブのビジョンや将来性を含めて総合的に判断してもらっていると思っています。

──マネーゲームからは距離を置いている?

距離を置くどころか、マネーゲームはやっていないつもりです。金額ではなくて選手の役割や環境であったり、選手側の立場に立って考えるということを大事にしています。選手に対しては、それぞれ持っている個の部分を生かして成長してほしいとか、日本代表や日本バスケ界のため、あるいは世界を目指してほしいというクラブの意思も伝えています。その目指すところが明確な選手が、ウチのやり方に納得してくれているんだと思います。

だから、お金の話ではなく、クラブ側としての要望でもなく、個々の選手の立場でのビジョンの話は必ず聞きます。選手がどんな目標を持っていて、A東京がクラブとしてどんな形でその実現を手助けできるか、そこは全選手それぞれ時間をかけてじっくり話しますね。A東京になってコミュニケーションの部分は特に大事にしています。

──新加入選手については聞きましたが、残留した選手のことに触れていませんでした。彼らとはどんな話をしたんですか?

例えば正中(岳城)選手、菊地(祥平)選手、伊藤(大司)選手には「厳しいシーズンになるよ」と一番最初に伝えました。ただ、いよいよ何か大きなもののために戦うシーズンの正念場には、長く在籍している彼らの力が必要になってくるはずです。その時のために頼む、ということは伝えてあります。もちろん、彼ら一人ひとりの立場に立っての話もしています。

──お金の話になりますが、リーグの掲げる『1億円プレーヤーの創出』について、今どのあたりまで来ていると思いますか?

確実に近づいていると思います。Bリーグであれだけメディア露出があって、注目されるようになりました。それで選手の収入が付いてこないのであれば、今後もBリーグを盛り上げなきゃいけないというモチベーションにならないし、強化もできないです。1億円プレーヤーが生まれる状況に少しずつは近づいていると思います。ただ、そんなにすぐには出ないんじゃないですか。本当に毎年結果を出して、毎年優勝に絡んでメディアにも出て、というクラスでないと。加えて代表で結果を出す必要もあります。当然、A東京としてそういう選手を早く輩出したいと思っています。

──そんな流れの中で人件費、つまり選手に支払う年俸の予算は上がっているんですか?

NBL時代よりは上がっていますが、他のクラブほど大幅に上がってはいないんじゃないでしょうか。この夏に加入した選手は、そもそも若い選手です。馬場選手はルーキーなので年俸の上限もあります。どの選手もお金を理由に来たわけではありません。環境面で言うと、設備はこのトヨタスポーツセンターが自由に使えて、冷暖房完備です。体育館はあくまでトヨタ自動車の施設で、A東京専用ではありませんが、他と比べたら整っています。また海外のコーチが来たり、海外に勉強に行ける環境があったり。そういう意味で環境は整っています。

──では最後になりますが、新シーズンの目標を教えてください。

もちろん目指すのは優勝です。それと同時に、中長期を見据えてA東京の土台を作りつつ、今いる選手を日本のために成長させていきます。若手だけでなく既存の選手も含め、Bリーグを引っ張っていけるような土台を作って、その先にタイトルが見えてくればいいですね。

僕は練習から試合まで、しっかりチームをチェックして、コミュニケーションを取って。土台作りは少しずつ、毎日の積み重ねだと思います。チーム内競争にはこだわりたいですね。練習を見れば、昨シーズンと変わっているのが分かります。今のところはすごく良い練習ができているので、大丈夫だと思います。

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