取材=小永吉陽子 文=鈴木健一郎 写真=(C)JBA、小永吉陽子、鈴木栄一

日本を救った水島「一生懸命、気持ちを作って臨みました」

アジアカップ決勝のオーストラリア戦、日本は苦戦を強いられながらも粘り強く、しつこく食らい付いた。そうは言っても世界ランキング4位の相手、ただ粘るだけではいずれ振り切られてしまう。後半に入って日本が逆転するに至った武器は町田瑠唯の強気のボールプッシュであり、そして何と言っても『ゾーン』に入った水島沙紀が3ポイントシュートを決め続けたことだ。

町田と水島、2人とも決勝まではとりわけ目立たなかった。26歳の水島は今回のアジアカップが日本代表初選出。Wリーグでの大活躍が認められ招集を勝ち取ったが、アジアカップ準決勝までの5試合(うち出場4試合)で水島が残したインパクトは決して大きくはなかった。シューターとして期待された3ポイントシュートは2本しか決めていない。

「ベンチで見てる時はすごい悔しい思いもあったし、でもチームが勝利していくからうれしい気持ちもあって、でもそこに自分がコートに立てなかったっていうのは悔しかった」と、水島は躍進するチームの中で乗り切れない自分にもどかしい思いを感じていた。

「チャンスをもらった時には自分のプレーができるように、そのためにチームに何ができるかっていうのを自分で一生懸命、気持ちを作って臨みました」と言う。

そのオーストラリア戦、先発起用されるも相手のフィジカルなプレーに対応できず、すぐに町田と交代させられた。その町田と藤岡麻菜美のツーガードで日本は持ち直し、後半開始から水島に再び出場機会が巡って来る。トム・ホーバスヘッドコーチの頭には、「ポイントガードを休ませる間、何とかつないでくれ」という気持ちがあったのではないか。

ところが水島は最初の3ポイントシュートを決めると勢いに乗った。「今日の前半もシュートをポロポロ落としたり、その前の試合もあまり貢献できなかったので、次に出たら空いたらしっかり打とうという気持ちは作っていました」と水島は言う。

ホーバスHCは「決まり始めると熱くなる選手」と評する水島がノッたことで、その3ポイントシュートに活路を見いだそうとした。当の水島は「入って良かった、よっしゃーって感じですけど、終盤になるにつれチームが厳しいときにシュートが決まった時はやっぱり熱くなりましたね」と語る。「ネオ(藤岡)のマークがすごい厳しいのは最初の段階から分かってて、自分が空くだろうとは思っていて、空いたところにしっかり動けて打てたかなって」と、7本決めたどの3ポイントシュートを思い出したのかは分からないが、水島は笑顔を見せた。

町田「しっかり走り切ってスピーディーなバスケットを」

水島の『大当たり』を演出したのは町田だった。正ポイントガードの吉田亜沙美がケガで使えない状況、本来であればリオ組の2番手だった町田が出るところ、実際にプレータイムを得て結果を出したのは初招集の藤岡だった。町田は状況に応じたプレーでチームを支えていたものの、スポットライトが当たっていたわけではない。

だがこの大一番で、序盤の劣勢をツーガードで立て直したのは間違いなく町田だ。「準々決勝からネオがフルで出て、疲れるのが見えていて、出だしから重いのもあったので、自分が出た時はしっかり走り切ってスピーディーなバスケットができるようにと考えていました」と町田。

「やること自体はツーガードでも一人でのポイントガードでもあまり変わりません。ネオがすごく良かった分、2番で出た時にはなるべくネオがボールを持つようにして私が走るようにしていました」。ベスト5に躍進した藤岡のパフォーマンスは突出していたが、その背後には町田の巧みなサポートがあった。

そしてオーストラリア戦の後半、水島に当たりが出た時点で、その効果を最大限に引き出したのは町田のゲームメークだった。「トムさんからも水島のシュートのフォーメーションを言われていたので、セナさんになるだけボールを集めるようにしていました。私も狙ったんですけど、アタックしていくのが大事だと思ったし、リュウさんもベンチから『打ってけ』と言ってくれたので、入らなくても強気で打つようにしていました」

町田は強気でボールをプッシュし、自らもシュートを狙うことでオーストラリアを受け身に回し、水島にボールを配給し続けた。

水島「みんなの力があったからこそ、接戦をモノにできた」

「終盤になるにつれ熱くなりましたね」と語る水島だが、大会全体を振り返るとまだ満足はしていない。「結果的に優勝できて、優勝の瞬間にたずさわれたことはすごく自分にとってプラスになります。だけど試合でシンデレラガールじゃないですけど突発的に出てきた選手みたいになっているので、コンスタントに名を残せるようになれたらいいなと思います」

町田と水島に勝因を聞くと、ともに「チームバスケ」と口を揃えた。町田は「点差が離れててもみんな我慢して粘り強くディフェンスしたり、しつこく走ったり。出た選手が役割を果たすチームバスケができました」と言う。そして水島も「流れが悪い時にこそチームだなっていう、一人ひとりじゃなくチームで戦うっていう気持ちが伝わってきていて、今日勝てたのもみんなの力があったからこそ、接戦をモノにできたと思います」

若い世代の躍進を支えた2人が、最後の最後で難敵オーストラリアを撃破するキーマンとなった。「リュウさん(吉田)がいないだけでチーム的にはピンチだったんですけど、ネオも頑張っていたし、私も負けていられないと思いました。もう自分たちのことを信じて強気でプレーするだけでした」と町田は振り返る。このチームの結束力、一丸となって戦う気持ちこそが、今回のアジアカップを制した日本代表の魅力と言えよう。