「今のスタイルを強みとして、これからも伸ばしていければ」

今年の『全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)』で、早稲田大は決勝で白鷗大に敗れ、あと一歩のところで57年ぶりの日本一を逃した。ただ、秋の『関東大学バスケットボールリーグ戦』を制したアップテンポな展開から、大量得点を奪う超攻撃的バスケットボールをインカレでも存分に発揮した。

留学生などサイズのあるビッグマンがいない不利を逆手に取り、早稲田大のオフェンスは5アウトでスピードに特化。セットオフェンスもなく、各選手がトランジションから打てると思ったタイミングで次々と3ポイントシュートを打っていく。シュート力だけでなく、ハンドリングなど基礎スキルが高く、正確な状況判断ができるバスケットIQを持った選手が揃っているからこそできるスタイルは、他のチームとは一線を画す強烈な個性で観る人を魅了。今年の大学バスケットボール界に大きな爪痕を残した。

決勝で36得点を挙げた1年生の松本秦という傑出した個もいるが、早稲田大は誰もが3ポイントシュートを打てるのが最大の強みだ。そして、このハイパワーオフェンスの肝となっていたのが司令塔の下山瑛司だ。

下山が圧倒的なスピードによるボールプッシュで一気に敵陣へと侵入。そこから次々とオープンになっている選手に正確なパスを供給していたからこそ、早稲田大の爆発的なオフェンスが生まれたと言っても過言ではない。

下山は決勝で敗れた悔しさをにじませながらも「留学生がいない中、スモールラインナップでもここまで戦えたこと。リーグ戦をしっかり勝ちきれたことにはすごい手応えがありました。今のスタイルを強みとして、これからも伸ばしていければ良いと思います」と充実のシーズンを振り返る。

元々、スピードには定評のあった下山だが、それでも昨シーズンまではここまで相手ディフェンスを速さで切り裂いていくことはなかった。だが、早稲田大の新たなスタイルが、下山の持ち味にしっかりとフィットし、彼を新たなレベルへと引き上げた。

「自分としてもプレーしていて楽しいです」

下山はこう語る。「大学に入ってから、いろいろな試合にからませてもらって『自分のスピードは通用するな』と思っていました。そして今年のバスケ改革といえる新しいスタイルによって、スピードを最大限生かせるようになりました。マークマンを抜いてヘルプを引き寄せてパスを出し、それによって味方がノーマークで気持ちよく打てるのは自分としてもプレーしていて楽しいです。クリエイトできているということは、ガードとしてやるべきことをできている証拠だと思います」

決勝で6得点9アシスト6リバウンドを記録するなど、インカレでも下山の高速ドリブルからの変幻自在なパスさばきは会場を沸かせ、味方の得点チャンスを次々と生み出していた。だが、本人は納得していない。「インカレは初戦から昨日まで、自分としても思うようなプレーができず、チームの流れも作れていなかったです。そこに消化不良な思いがあったので、決勝では自分でどんどんプッシュしてオフェンスの流れを作ることができましたが、それを全試合でできなかったのは悔しいです」

早稲田大は1部に復帰した今シーズンに関東大学バスケットボールリーグ戦で優勝と、まさに快進撃を続けた。来年は下山に加えてインカレ決勝で36得点の松本、優秀選手賞の三浦健一とコアメンバーは残っているが、岩屋頼、堀陽稀、堀田尚秀、高田和幸とローテーションの半分を占めた4年生が抜けることに「全然予想できないくらい、大きい穴だと思います」と下山は気を引き締める。

だからこそ、下山は攻撃の起点として、より大きな責任を背負ってチームを引っ張っていく覚悟を持っている。「新しくできた文化をしっかりと強みにして来年も発揮していきたいです。ただ、足りない部分はまだまだ多いです。そこはガードの自分を中心に詰めていって、来年はもっと強い早稲田を見せたいです」

相手も十分に対策を練れる来シーズンは最初から厳しいマークを受けることが予想されるため、今シーズンと同じハイパワーオフェンスを展開するのは簡単なことではない。ただ、それができた時、下山は名実ともに大学No.1ポイントガードの地位を確立することになる。

また、下山は「今の日本代表ガードにも求められているペイントタッチをするために、河村勇輝選手のようにガードがどんどんアタックしてアシストするプレーはすごい参考にさせてもらっています」と語っている。河村のスピード満点のプレーを見るのが楽しみだったバスケファンの人にはぜひとも、下山のプレーを見てもらいたい。