6月中旬、沖縄出身のBリーガーが数多く集うイベント『OKINAWAN HOOP SUMMIT』が開催された。そこには桶谷大(仙台89ERS)、伊佐勉(サンロッカーズ渋谷)と、かつて琉球ゴールデンキングスで指揮を執った2人も参加。桶谷が2008-09シーズンから琉球のヘッドコーチを務めた際に、伊佐がアシスタントコーチとして支えてから、2人の親交はずっと続いている。プロバスケ創世記から10年以上に渡り現場の最前線で奮闘する2人に、今のバスケ界を語ってもらった。
伊佐「離れて7年経ちますけど、居心地が良いですよ」
──まずは、お2人にとってお互いがどんな存在なのかを教えていただけますか。
桶谷 なんだろう、お兄ちゃん?(笑) 僕はムーさん(伊佐)の包容力にいつも助けてもらっています。ムーさんと違うチームになって、細かいところをいろいろ支えてもらっていたんだと実感しました。フラストレーションが溜まっていた選手がいたら気付いて話をしてくれて、ちゃんとチームの方に矢印を向けていたんだとか、すごく感じるところがありました。
伊佐 僕からしたら最初にキングスで上司だったわけで、桶さんとやっていた時のことがコーチングの土台となっています。僕は4人のコーチの下でアシスタントコーチをやらせてもらいましたが、一番影響を受けたのは、一緒に過ごしたのが4年と長かったこともあって桶さんです。だから、ライバルという感じは全くありません。試合をする時は、もちろんどんな相手に対しても勝ちたい。桶さんだから特に勝ちたいとかにはならない。本当に『同志』といった感じで、相談できる存在です
桶谷 同じ空気感です。今、こうして自分の隣にムーさんがいて全然違和感がない。
伊佐 それはありますね。離れて7年経ちますけど、居心地が良いですよ。やっぱり最初に上司と部下だったので、僕にとってその立場はあんまり変わらないです。やっと年相応の顔になってきて、今はよりこの関係に違和感がない。あの頃は本当に年下かなと思いながらでしたけど(笑)。
──別々に仕事をするようになってから、お互いの活躍ぶりをどう見ていましたか。
桶谷 キングスで4年間ヘッドコーチを務めて、2回優勝するのはすごいことです。1回勝つのは運が良ければできるけど、2回となると相当いろいろなことが上手くいくようにしないと勝てないです。それをムーさんはやってのけました。すごく思うのが、知識を持っているだけじゃ勝てなくて、月並みな言い方だけどチームをいかにまとめられるか。これが一番難しいですが、それをちゃんとやっていたから勝ったんだと思いますね。
伊佐 僕がヘッドコーチになって、同じ指揮官の立場で敵として試合をさせてもらうのですが、やっぱりどのチームに行ってもちゃんと桶さんのチームになっています。桶さんもチームをまとめるのは簡単でないと言っていますが、そこに独特なやり方があるんだと思います。
──2人ともbjリーグ当初からプロリーグの世界にいて、Bリーグ誕生による様々な変化をどのように感じていますか?
桶谷 JBL、NBLの存在もありますけど、若いタレント性のある選手が今こうして出てきているのは、bjリーグができて日本の多くの地域にプロチームができて、バスケットボールを間近で見られる子供が増えたことも影響していると思います。bjリーグの功績はすごく大きいんじゃないかな。
伊佐 Bリーグになって特に企業チームにいた能力の高い選手たちがしっかりとしたプロ意識を持つことになりました。そうしてトレーニングに取り組むことで、もともとあった能力が形になりレベルが相当上がってきた。そして、成長した選手のパフォーマンスを見たお客さんがより盛り上がるようになってきた感覚はあります。
桶谷 正確な割合は分からないですけど、会場に女性が増えたと感じますね。富樫勇樹君とか田中大貴君とか、バスケットが上手くてルックスも良い選手が増えている。それをメディアさんが取り上げてくれるので、若い女性が増えていると思いますね。
伊佐 僕も今、桶谷さんが言ったように20代から30代の女性が増えたと感じます。綺麗な格好をされて来て、会場でチームTシャツを着る姿を多く目にします。
伊佐「コーチの立ち居振る舞いが選手により見られている」
──最近だと富樫選手の年俸1億円、B1選手の平均年俸が1000万円を超えたことが話題になりました。選手の年俸はこの2、3年でかなり上がっていますが、その変化をどう見ていますか。
伊佐 今の子供たちにとって、夢があるプロスポーツになっていることはうれしいです。ただ、年俸の上昇と同じく選手のプロ意識もより高くなっていくように、僕らがもっと引っ張っていかないといけないとも思います。
──昔に比べたら選手の移籍はかなり活発になってきました。
伊佐 プレータイムを求めたり、年俸の面を重視して移籍を決断する選手もいて、それはプロとして良いことだと思います。また、それだけでなくヘッドコーチが誰とか、環境をかなり気にすると言われることもあります。そういうところでは、コーチも勝敗だけでなく、日頃の練習からの立ち居振る舞いが選手により見られているとは思いますね。
──選手も自分の立ち位置についてよりシビアになってくることで、起用法とか将来的なプランを聞かれることは増えた実感はありますか。
桶谷 起用法は割とあります。僕は結構、自分から選手に「どんな使われ方がベストだと思う?」と聞く方です。それを受けて選手の言った通りに変えるわけではないですけど、相手がどう思っているのかは聞くように心がけています。
伊佐 起用法に不満を持っていれば態度や顔つきで分かります。そういう時には、こちらの考えを素直に伝えます。選手は第4クォーター残り5分でプレーしたいですよね。そこで使わなかった時、不満そうな顔をしていたらどんな意図があったのは言います。
──外国籍選手のレベルも上がったと思いますが、変化について感じるものはありますか。
桶谷 レギュレーションには左右されることはかなりあります。今のままだと、ペリメーターの選手はなかなか取れません。ポジションの面以外だと、点数を取るだけではなくて、チームとしてちゃんと一致団結できるような外国籍選手がより求めている。ほとんどのチームがそういう点も意識しているような気がしますね。
──SR渋谷は早々にロバート・サクレ、ライアン・ケリーとの契約延長を発表しました。実力に加え、そういった人柄の部分も大きいですか。
伊佐 そうですね。みんなプロですし意識は高いですけど、ウチの2人に関しては、実力だけでなく人間性やリーダーシップの面でも抜群です。
──選手に使うサラリーが増える中、外国籍選手の獲得の選択肢も広がったと感じますか。
桶谷 サラリーが増えたことで、より安定感のある選手を連れてきやすくなった。これくらいの結果は残してくれるよね、という数字は計算しやすくなったと思います。ただ、レギュレーションの問題で、ケガ人で一気に変わるので、そこは本当に気を付けないといけない。リスクマネージメントをしないといけないところです。
桶谷「シーズンを思い出して、自分を成長させる時間」
──桶谷さんは、B1とB2の両方でヘッドコーチを務めています。様々な違いがある中でも大きな違いはどこにあると思いますか。
桶谷 B1の選手の方が、代表に入りたい、世界で活躍したいとより高い目標設定をしていると感じることはあります。B1とB2でレベルは違っても、そういった姿勢は一緒でなければいけないと僕は思っています。そして、仙台でB1に昇格したいですし、昇格した時も考えると、常にB1のレベルを意識してやらないといけないですね。また選手獲得で言うと、一度でもB1でプレーするとやっぱりB2ではなく、B1に留まりたいとほとんどの選手は思います。その中で今回、片岡大晴を獲得できたのは本当に大きいです。
──仙台は昇格しても過酷な東地区になるわけで、そこは意識しますか。
桶谷 小舟が荒波に立ち向かう感じになりますね(笑)。ただ、だからこそ装備をしっかりしておきたいし、小舟でもできるところを見せたい。それは昨シーズンからずっと言っていて、今年はそれをしっかり作り切ってB1に行きたいです。
──チームを勝たせるための要素として絶対に欠かせないものはどんな部分だと思いますか。
桶谷 組織がしっかりしているチームが勝つ。そうなってきたことが見えてきたと思います。確固たるカルチャーを作ったチームが勝っている。お金儲けも大事ですけど、そこにビジョンやミッションもないといけないと感じます。
伊佐 チームだけではなくて、しっかりしたスタッフ、会社がというのは、絶対にあります。そこは繋がっていますよね。
「SR渋谷も仙台と一緒で、ファンはとても大きな存在」
──シーズン中は気の休まる暇もないと思いますが、この時期はどう過ごしていますか?
桶谷 僕はシーズンを思い出して自問自答しています。あの時、ああしておけば良かったとか、ここで選手に無理をさせていたなとか。そういう場面を思い返して、何がベストな選択だったのかを考える時期と捉えています。シーズン中にはなかなかできないですが、そういう時間は僕にとって絶対に必要で、自分を成長させる時間かと思います。
伊佐 僕にも、もちろんその時期はあります。その上でシーズン中は単身赴任なので、今は家族とリラックスしています。それが終わると、シーズンの反省と新たに何をしないといけないかをミックスしてまとめる感じです。
──開幕はまだ先ですが、新シーズンに向けてファンへのメッセージをお願いします。
桶谷 ファンの皆さんは、僕にとって忘れてはいけない存在です。常にサポートして、応援してくれている方たちにハードワークで成長している姿を見せることは最低限やらないといけない。そして、しっかり目標に到達することで、自己満足ではなくてみんなを巻き込んでチームを強くしていく。そこを見てほしいです。
伊佐 SR渋谷も仙台と一緒で、ファンはとても大きな存在です。特に2年連続でチャンピオンシップにも出ていない、本当に中間ぐらいの成績ですが、それでも変わらずに応援してくれる温かいファンの方たちです。今シーズンこそチームに変化をもたらし、まずは最低でもチャンピオンシップ出場を果たし、60試合プラスαの試合を皆さんと一緒に戦いたいです。
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