今野翔太

10月26日、ウインターカップ大阪府予選を勝ち抜いたのは箕面学園だった。ここ数年で着実にチーム力を伸ばしながらも、あと一歩のところで全国大会出場を逃していただけに、本命と見られた阪南大学高校を撃破してのウインターカップ初出場は喜びもひとしお。おおきにアリーナ舞洲の歓喜に沸くベンチには、今野翔太の姿があった。箕面学園を率いるのは、大阪エヴェッサで長く活躍し、引退後の今はGMとしてチーム編成を担う今野だ。『ホームアリーナ』で大きな勝利を手にした今野に、高校のバスケ部を率いることになった経緯と、目指すべきバスケを話してもらった。

「選手たちのために、と考えると断ることはできない」

──大阪エヴェッサの今野翔太さんには何度も取材させていただいていますが、今回は箕面学園の今野コーチです。激戦の大阪府予選を勝ってウインターカップ初出場を決めましたが、そもそも今野さんが高校の指導者をやっているのを存じ上げませんでした。

ヘッドコーチとしてベンチに入るようになったのは今年の8月からなんです。3年半前から外部コーチとして箕面学園バスケ部に携わらせていただいていました。

もともとは西宮ストークス(現・神戸ストークス)で引退する前に、箕面学園とお付き合いのある方から「バスケ部を一緒に見に行きませんか」と声を掛けていただいたのがきっかけです。当時は大阪府でベスト32ぐらいだったと記憶していますが、本当に練習熱心で挨拶とや礼儀がとてもしっかりしていて、明るく気持ちの良い選手たちばかりだという印象でした。そこから週2、3回ぐらい外部コーチとして教えに行くようになって、引退してからも指導をさせていただいていました。

──それが、この8月からコーチになったのですか?

インターハイ予選では決勝リーグに進出したのですが、阪南大に延長で敗れ、近畿大学附属には21点差で敗れて、関西大学北陽には勝ったのですが、1勝2敗で2枠あるインターハイの切符を勝ち取ることができず、チームみんなで本当に悔しい思いをしました。
近畿大会でもチームの歯車が合わず、悔しい思いをしました。

そんな中、私にヘッドコーチの声をかけていただきました。エヴェッサのGMのスケジュールも見返して「これならどちらも全力で取り組める」と判断した上で、引き受けることを決めました。どんなところでも必要とされる場所で自分の仕事を全力で全うしたいと思っていますので、今後も依頼がある限りは全力で続けていきたいと考えています。

今野翔太

「GMの仕事に手を抜くつもりはありません」

──エヴェッサでチームメートだった畠山俊樹さんが仙台大学附属明成を指導しているように、プロ選手が部活動の指導者に転身するケースはいくつか見られます。ですが、エヴェッサのGMを務めながらの兼任は前代未聞ですよね。エヴェッサのファンは応援したい気持ちを持ちながらも、「ちゃんとやれるのか?」という疑問もあるかと思います。

エヴェッサではヘッドコーチを始め選手たちに「ハードワークするチームを作ってほしい」、「手を抜かず最後まで戦うチームを目指して欲しい」と言っているので、私もGMの仕事に手を抜くつもりはありません。高校の指導についても同じように全力でやりたいと考えています。

昔であれば一つのことに集中することが美学の時代だったかもしれないですが、できるのであれば『両方を全力でやればええんちゃう』と思っています。そもそも、できないと判断していたら引き受けていません。両方ともハードワークしていくので、そこを見て応援してもらえたらうれしいです。

それに、やっぱり高校生のエネルギーはすごいです。この間のウインターカップ予選の決勝もそうですけど、ああいう姿を見ていると自分も高校時代の真っ直ぐで純粋な気持ちを取り戻せるというか、どんなことがあっても弱音なんか吐けへんよな、と思えます。そういうエネルギーを高校の選手から感じ取って、エヴェッサのGMとしての仕事にも生かしています。

──教員をやっているわけではないので、夕方まではエヴェッサのGM、それから箕面学園の体育館に行く、という毎日ですか?

そうですね。週によって若干変わるところもありますが、平日は午前中におおきにアリーナ舞洲に行って、15時までには舞洲を出て放課後の16時には箕面学園に着いて、そこから20時ぐらいまでは体育館にいるといった日々です。

箕面学園

「目標を達成できるだけのことをやって優勝しよう」

──年の途中のコーチ交代で、最初は苦労したのでは?

校長先生を始め、顧問の先生も実務的なところから本当にたくさんサポートしてくださいました。本当に温かったです。選手も保護者様も不安を感じていたと思いますが、選手は練習を再開したら普通に無邪気に、真っ直ぐバスケに打ち込んでくれました。

最初のミーティングで選手たちに目標を聞いたら「大阪制覇」と言うんです。みんなの気持ちを覚悟と受け止め、私も覚悟を決めました。そこからみんなで「大阪制覇」をするための準備をして、選手たちと一緒にここまでやってきました。たった2カ月ですが、1年分ぐらいの濃い時間を選手たちと過ごさせていただいて、選手のみんなには本当に感謝しています。

──今野コーチがチームにもたらしたもの、変化はどんなものですか?

自身の経験から、私の指導スタイルは自主性や主体性を重んじるタイプなので「コーチに言われてやる選手、チームではなく、みんなで自分たちの行動に責任を持ち、自分たちで考え、自分たちで行動する」というテーマを持ち、ここまでやってきました。

1人ひとりがオーナーシップを持って行動をする集団こそが本当の厳しさのあるチームであり、選手としても人間としても成長があると私は信じています。プレーするのは選手たちですし、みんなバスケットボールが大好きでやっているので、ハードにプレーしながらも思う存分楽しんで3年間を過ごしてほしいです。

もともとのしっかりとした土台があり、そのおかげでスムーズに選手が自主性を持ち、自分たちで厳しさもある意識の高い環境を作れるようになったと思います。一番の変化は選手たちが楽しくも意識高くハードにバスケをするようになったことですね。バスケットに必要なトークをコート内外で自分たちでするようになって、そのエネルギーはチームに本当に良い変化を与えてくれました。自主性という部分はたった2カ月ですごく変化したと感じています。

インターハイ予選で勝てず、近畿大会でも負けたことで、選手たちにもネガティブな部分があったかもしれません。でも、私としては選手たちが「大阪制覇」と本気で思っているのであれば、覚悟を決めて戦おう、目標を達成できるだけのことをやって絶対に優勝してやる、というマインドでやりました。

対戦する可能性のあるチームさんの試合は何度も見返し分析をしました。その中で今の選手たちのレベルに合った戦術と戦略を重ね合わせて準備をし、何度もミーティングを重ねて大会に臨みました。