デリク・クイーン

チームメートがクイーンに『使われる』のを楽しむ

怪物ルーキーのクーパー・フラッグがポイントガードとしてのプレーを学び、ディラン・ハーパーは切れ味鋭いドライブでシックスマンとして信頼をつかみ、VJ・エッジコムは爆発的な身体能力で強力ガードコンビを結成し、コン・クヌッペルは正確なプレーでフィニッシャーとしてオフェンスチームを支える。豊作の呼び声が高いルーキーたちは、それぞれのチーム戦術の中で重要な役割を担い始めています。

そんな中、チーム戦術そのものを変える勢いを見せているのが、ペリカンズのデリク・クイーンです。スターターの座すら手に入れておらず、第3センターの扱いですが、クイーンがコートに出てくるとチームは明らかに上手く回り始め、試合終盤に欠かせない存在となりつつあります。

ペリカンズのセンターは開幕からケボン・ルーニーが離脱し、戻ってくる頃にはイブ・ミッシが離脱。苦しい状況でもクイーンがスターターに据えられることはなく、緊急補強したディアンドレ・ジョーダンが優先されることさえあり、信頼をつかんでるようには見えません。

その理由は明確で、クイーンは206cmとセンターにしてはアンダーサイズで、ドラフトコンバインでは軒並み最低レベルの数字ばかりと身体能力はNBAプレーヤーとは思えぬ低さ。ミッシのようなフィニッシュやリムプロテクト能力の高い選手をメインに据えてきたペリカンズのセンターとして、求められた役割をこなせるとは思えない選手です。

実際、ここまでのクイーンはフィールドゴール成功率は44.4%しかなく、8.9得点、0.7ブロックとペリカンズにおけるセンターに求められる本来の役割はこなせていません。しかし、ザイオン・ウイリアムソン、デジョンテ・マレー、ジョーダン・プールとオフェンスの中核を担うはずの選手たちが次々と離脱する中で、クイーンのポイントセンターとしての才能はチームの危機を補って余りあるほど機能し、勝利をもたらすキーポイントになっています。

起点役としてポストアップからの展開をしたかと思えば、ハンドオフでチャンスを作り、カットプレーには完璧なパスを通す。3ポイントシュートで相手センターを引き出してスペースも作れれば、ポイントガードのごときハンドリングスキルでプレッシャーディフェンスをかいくぐり、ロブパスでアリウープを完成させる。ニコラ・ヨキッチを彷彿とさせる多彩さで、一人でディフェンスを崩してしまいます。

何より開幕直後はクイーンを普通のセンターとして『使っていた』はずのチームメートたちが、起点役としてボールを預け、パスを引き出すオフボールムーブを繰り返し、クイーンに『使われる』のを楽しんでいます。それまではザイオンのアタックからパスが来るのを待つのが基本だったはずのチームオフェンスは、開幕から10試合もたたないうちに、このルーキーの色に染まりつつあります。

初勝利となったホーネッツ戦、2勝目となったマブス戦、そして接戦を落としたスパーズ戦。いずれもクイーンは3番手のセンターとして登場したにもかかわらず、第4クォーターはフル出場し、緊迫した場面でもルーキー離れした判断能力でディフェンスを攻略しています。まだまだプレー精度には課題がありますが、多彩なプレーを適切に使えることこそがクイーン最大の魅力になっています。

主力の離脱によりプレータイムを得たこともあり、ペリカンズがクイーン中心に生まれ変わるかは、まだ分かりません。それでもクイーンがコートに入ることでペリカンズ全体が活性化しているのは間違いなく、早くもチームを自分の形に変え始めていると言えます。