
「優勝できるとすれば、それは僕一人の力じゃない」
第4クォーター残り1分47秒でトレ・ジョーンズがフリースロー2本を決め、ブルズが122-116とリード。接戦ではあったがほとんどの時間帯でリードしてきたブルズが、あと一押しで勝利を決めるところだった。
しかし、そこから試合終了までブルズがフィールドゴール5本をすべて外して無得点に終わったのに対し、キャブズは12得点を挙げて、最終スコア128-122の逆転勝利をつかみ取った。
ブルズの失速はジョシュ・ギディーが第3クォーターに右足首を捻挫し、プレーを再開したものの本来のキレは戻らなかった。第3クォーターまでに15得点5アシストを記録したギディーは、勝負の第4クォーターで0得点1アシストと沈黙。彼から速い展開のオフェンスが生み出されることもなくなり、ブルズは失速した。
だが、それ以上にインパクトがあったのはドノバン・ミッチェルのクラッチ力だ。最後の12-0のうちミッチェルは3ポイントシュート2本とニコラ・ブーチェビッチを抜き去るレイアップによる8得点を記録。アイザック・オコロの速攻を身体で防ぎきる堅守も見せた。キャブズの残る4点はファウルゲームでのフリースローで、事実上ミッチェルが一人で試合を決めたようなものだ。
前半のミッチェルはフィールドゴール10本のうち1本しか決められない絶不調だったが、試合の中で立て直して29得点6リバウンド6アシストを記録。得点能力と勝負強さを見せ付けた。
「前半も悪いシュートではなく、ただ入らなかっただけ。(デアンドレ)ハンターや(エバン)モーブリーの2人が点を取ってくれていたから、僕はただ自分のシュートを打ち続けるだけだった。完璧な試合は存在しない。常に改善できる点はあるし、試合の流れの中でやれることを探し出すんだ」とミッチェルは言う。「僕について言えば、時にはちょっとしたきっかけが必要で、エンドワンのファウルコールが鳴らなかったことが闘志に火を付けたんだと思う。あの2人が試合を繋ぎ、チームのエネルギーレベルを引き上げてくれたおかげだ」
そしてミッチェルは「得点王も狙えるのでは?」との問いに対し「それは必要なんだろうか。僕に何ができるかより、チームが何を必要としているかが大事だと思っている」と答えた。
それは個人の活躍を抑えてでもチームプレーに徹する、つまり『犠牲』と呼ばれるものだが、彼はそれを言葉通りにはとらえていない。
「みんな犠牲という言葉を使うよね。他の選手と同じように評価されないという意味では犠牲かもしれないけど、それは優勝すれば議論は様変わりするはずだ。僕はドノバン・ミッチェルとして何をするのかじゃなく、キャブズとして何を達成できるかを考えている。優勝できるとすれば、それは僕一人の力じゃない。チームとして成し遂げるものだよね。だから僕はチームを追求したい」
キャリア9年目を迎えたミッチェルは、29歳になった。もう若手ではなく、NBA全体で見ればレブロン・ジェームズやステフィン・カリーが今なお健在で、若い世代ではシェイ・ギルジャス・アレクサンダーやビクター・ウェンバニャマが急速に台頭している。スター選手ではあるが『NBAの顔』ではないミッチェルは、ある意味では中途半端な立ち位置にいるのかもしれない。
しかし、彼が言うように「優勝すれば議論は様変わりする」はずで、逆に言えばチームにフォーカスする以外に現状を打破する道はない。キャブズ在籍4年目で、今の東カンファレンスには大きなチャンスが開かれている。『勝負の年』に彼は静かに闘志を燃やしている。