
『無抵抗』でリズムを狂わせ、勝負どころで仕留める
東カンファレンスの首位攻防戦となったブルズvsセブンティシクサーズは、第1クォーターだけで3ポイントシュート8本を含む45得点とシクサーズのオフェンスが大爆発。最大24点ものリードを得るも、後半は36得点とオフェンスが沈黙して111-113の逆転負けとなりました。
シクサーズの自滅にも見えますが、そこにはブルズのニコラ・ブーチェビッチが仕掛けた巧みな駆け引きがありました。
今シーズンのNBAは従来以上にファウルコールが軽くなり、延々とフリースローが続く退屈な試合が増えています。少しでもオフェンス側がバランスを崩したらファウルがコールされることもあり、派手なリアクションをする選手も増えています。これに対し、徹底してファウルをしない作戦を採用するチームも出てきました。
この試合のブルズがまさにそれで、特にジョエル・エンビードがボールを持った時のブーチェビッチは『無抵抗』と表現してよいプレーをし、ポストアップでの押し込みにこそ抵抗するものの、両手を下げて絶対にブロックには飛ばない姿勢を明確にしてきました。
試合序盤こそドライブもしていたエンビードですが、あまりにも無抵抗なブーチェビッチの対応に気が付いたのか、途中からはファウルを狙う素振りを全く見せなくなり、ミドルシュートをノープレッシャーで打っていきました。これでエンビードは前半だけで18得点を奪い、シクサーズに試合の流れが傾きます。
しかし、第3クォーターになると少し異変が起きます。無抵抗なのは変わらないものの『打たされている』感覚が強くなったのか、エンビードのシュートが決まらなくなっていったのです。ほとんどどプレッシャーがないにもかかわらず、エンビードのフィールドゴールは5本中1本の成功とシクサーズの得点が止まり、ブルズの追い上げが始まりました。
シクサーズが7点リードの第4クォーターの残り5分半にエンビードがコートに戻ると、ここからブーチェビッチは溜め込んだエネルギーを発散するかのように、全力のディフェンスを始めます。ポストアップするエンビードにパワーで対抗し、振り向かれたら巧みに手を出してボールを叩き、ターンオーバーを引き出します。さらにミドルに対してもしっかりとチェックの手を上げてプレッシャーを掛けました。
シュートファウルを避ける方針は変わらず、ブロック狙いのジャンプは自重しましたが、明らかに強まったプレッシャーに戸惑ったエンビードは、第4クォーターに放ったフィールドゴール5本をすべて外します。残り2分半でブーチェビッチのスティールからジョシュ・ギディーの速攻が生まれ、試合は1ポゼッション差の攻防へと移り変わりました。
こうして迎えたブルズのラストポゼッション。ギディーがドライブでゴール下に侵入するとエンビードがブロックに飛んできます。これを見てコーナーにキックアウトパスを通すと、そこに待ち構えていたのはブーチェビッチでした。
すべての結末がブーチェビッチに向かっているかのような試合展開の結末は、残り3秒で放たれた彼の3ポイントシュートであり、ブルズが鮮やかな逆転勝利をつかみました。
前半は驚くほどに無抵抗なディフェンスをしておきながら、それを続けることで気が付けばエンビードはファウルドローを狙わなくなり、しかもシュートミスが増えていく。そして勝負どころでは全力のプレッシャーで守り抜く。あまりにも見事な駆け引きを見せたブーチェビッチの活躍で、ブルズが首位をキープしています。