白井英介

横浜ビー・コルセアーズは今シーズンの売上目標を前年比から約3億円増の23億円、1年度のBプレミア初年度は25億円を掲げる。来年3月には最大収容人数1万5千人の横浜アリーナで初のホームゲーム開催を予定し、Bプレミアではホームアリーナを横浜BUNTAIに変更。いろいろな動きがある中、収益力強化のカギとなるチケット収入増とファンベース拡大について意識していることを白井英介社長に聞いた。

横浜アリーナ開催の理由「大舞台で戦う経験が足りていない」

──今シーズン、ビジネス面の大きな改善点といえば2億円減収となったチケット収入を取り戻すことだと思います。試合に勝って上位進出すること以外に意識している部分を教えてください。

ファンマーケティングをしっかりやり、適切なタイミングで、適切なチャネルを通してお客様に試合の情報を伝えていくことが何よりも重要です。そこは今、社内でも体制を変えたり新しくシステムを導入したりと、ある程度のコストをかけて改善しています。そういった意味でも2024-25シーズンが黒字に終わったことは大きいですね。ファンベースを作るための投資に回せる余力、というほどではないのですが、多少そういうことをやっても良いかなと思える筋肉質な経営ができています。

──横浜アリーナでのホームゲームは、いつごろから計画されていたものなのですか。

選手には2年くらい前から「横浜アリーナで試合したい」と言っています。ファイナルの舞台である横浜アリーナでその前哨戦ができるのは、横浜市をホームタウンとする我々の特権です。リーグとしてもBプレミア以降はファイナルをホーム&アウェーでやることになり、我々としては横浜アリーナを積極的に活用していきたいと思っていました。そして今回、その機会を得ることができました。

──横浜アリーナは規模が大きく、人気もある施設なので使用料も高額だと思います。観客が集まらなかったときのリスクは大きいと想像しますが、それでもチャレンジしようと思ったのはなぜですか。

我々にはファイナルのような大舞台で戦う経験が足りていないと思ったからです。2022-23シーズンにチャンピオンシップのセミファイナルに進出しましたが、8000人を超える観客が集まったアウェーの沖縄アリーナで、全員が本当に100%の力を発揮できていたか、と今でも考えることがあります。琉球ゴールデンキングスさんや宇都宮ブレックスさんなど、安定した成績を残しているチームは大舞台での経験値が他のチームと違うのだと思います。

この点は編成面でもすごく意識しています。安藤誓哉選手にベットしたのは彼が大舞台で活躍した経験を持っていて、それをみんなに伝えてチームを引っ張ってくれる選手だからです。同じく新加入の兪龍海選手、谷口光貴選手もそういった経験を持っています。クラブに長期間所属してくれる選手が増えてきたことはこれまでの歴史を考えると良いことですが、大舞台での経験を多く積ませてあげることはできていません。全員が1万人を超える大きな会場でヒリヒリする舞台を経験しないと、チームがもう一皮むけない。次のステップに進むために横浜アリーナで試合をやりたいと思ったのが決め手です。

──Bプレミアより、ホームが横浜国際プールから横浜BUNTAIに変更した理由を教えてください。また、収容人数5000人規模と決して大きくないBUNTAIでチケット収入を上げていくために、どんな施策を考えていますか。

ホームがBUNTAIに変わるのは、横浜国際プールがBプレミアで求められる基準を満たしていなかったからです。行政をはじめ関係各所とコミュニケーションを取り、BUNTAIを使わせていただけることになりました。

チケット収入については、まずはBUNTAIを常に満員にするところからです。今は残念ながら座席が余っている状態。河村選手が在籍していた2年前は、何もしないでも売れたとは言わないまでもオーガニックでチケットを買ってくださったお客様がかなり多く、利益率も高かったですが、昨シーズンは我々から積極的にプロモーションを仕掛けたり、割引する機会も増えました。まずはオーガニックで買ってもらう人を増やし、満員のアリーナを常に作ることがファーストステップです。それができるまでは、座席の構成上から一部の例外はあるにしても、全体としてチケット価格を上げる方針はありません。お客様が観戦に来やすい状況を作ることを最優先にしたいです。

ビーコル

「心を動かすプレーをすることが大切」

──横浜BCの試合を取材に行くと、コアファンの裾野は確実に広がっている印象を受けます。その上で新規ファンを増やしていくためのきっかけとして重要視していることはありますか。

これは難しい問題です。結局は友達など近しい人に誘われて行ったらハマった、みたいなことが多いというのがスポーツ業界の定説です。やはり試合を見に来た人たちが、他の人を誘いたくなるような心を動かすプレーをすることが大切だと思います。そこは選手やチームの力を信じるしかないですし、そういう試合ができると信じています。

ただ、上記のようなきっかけで興味を持ったり、少しでも心を動かされたお客様に対して、これまで適切なアプローチができていたかと言えば、正直できていませんでした。マーケティングのセオリーに沿って、当たり前のことを当たり前にやり続けられれば、ファンを増やし、バスケットボールの面白さを伝えられるチームになると思っています。

──当たり前のことを当たり前にやり続けるのは、難しいことだと思います。今の横浜BCは組織としてそれを遂行できる体力がついたのでしょうか。

そうだと思います。社内のメンバーは本当に頑張ってくれていますし、採用もかなり進んでマンパワーはかなりつきました。ひと昔前に他のクラブの体制を見せてもらった時は、「川崎ブレイブサンダースや宇都宮ブレックスってこんなにスタッフがいるの?」って驚いていましたから(笑)。まだリーグ上位のクラブには追いついていませんが、近づける体制になってきた。社員の給料を上げること、そもそもの人数を担保していくことはここ1〜2年でしっかりできつつあると思います。

──横浜BCはどんなチームであってほしいですか。

チャンピオンシップ出場、優勝を目指すために、編成にはもちろんしっかりとお金をかけていきます。その上でどんな形でも勝てば良いのではなく、お客さんが見ていてワクワクするバスケットボールをしてもらいたいです。ラッシ・トゥオビヘッドコーチが来て「ビーコルのバスケットは面白いね」と多くの人に言ってもらえたのは私にとって大きいことでした。ラッシヘッドコーチの下で、ビーコルでプレーすることで選手としての価値が上がっていくと思われるチームを目指していきたいです。そういうチームを作っていかないと競技面、そして事業面でもうまく行き続けることはない。見ていて面白くないバスケットで勝っても、そこに発展性はないと思います。