文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

『苦手意識』のある秋田に要所でビッグプレーを連発

3日の秋田ノーザンハピネッツ戦、千葉ジェッツは相手の粘りに苦しみながらも集中力を切らさず接戦を制し、連勝を7に伸ばした。

この試合で抜群の存在感を見せたのが富樫勇樹だ。第1クォーターは激しくファイトする秋田のディフェンスに勢いを削がれ、彼自身は2得点1アシスト、チームも14得点と不発。第2クォーターはベンチスタートの西村文男に攻撃の舵取り役を託したが、ここでもチームの得点は14と伸びない。

中2日でのゲームという過密日程の影響もあっただろうし、大野篤史ヘッドコーチは「オフェンスの選択が悪く、強いところをこじ開けに行ってしまった」と分析するが、富樫は素直に秋田のディフェンスを称えた。「秋田が相手だと毎回ロースコアの展開、オフェンスのリズムが良くない試合になるんです。秋田に良いオフェンスができているイメージが今シーズンはない」

それでも、やられっぱなしで黙ってはいない。迎えた第3クォーター、秋田のゲームプランで進んでいた試合をひっくり返したのは富樫だった。プレースピードを上げ、『相棒』であるヒルトン・アームストロングとの息の合ったピック&ロールから多彩な攻めを演出。チームは一挙31得点を挙げ、富樫自身も15得点と爆発した。

前半とは打って変わったパフォーマンスの理由を質問すると「何かを変えたわけではないです」と言う。「ボールをしっかりシェアして回す意識がそれぞれできたことはあります。それと、ディフェンスが良くなったことが良いオフェンスにつながりました」

激戦に終止符を打ったクラッチシューターの一発

秋田はなおもあきらめず、第4クォーター終盤までクロスゲームを演じるが、残り時間1分を切ったところで混戦に終止符を打つ3ポイントシュートを決めたのも富樫だった。ビデオ判定で秋田が24秒バイオレーションを取られ、千葉ボールでの再開。富樫は「ヘッドコーチがボードに描いたプレーを2回連続で使いました。試合が止まっている間に話し合って、動きを確認できました」と明かす。アームストロングのスクリーンを受けて右に流れた富樫は、シュートフェイント一発で飛び込んだ安藤誓哉をかわし、余裕を持って3ポイントシュートを沈めた。

「あそこで自分が打たなくてもいいと思っていた場面、モリソン選手が近くにいて、踏み切った時には『打ちづらい』という状況でした」と富樫は振り返る。スイッチして間合いを詰めていたモリソンを意識して、そのまま打たずにフェイントを入れたことで、追いかけてきた安藤を飛ばすことができ、その時にはモリソンはアームストロングのマークに戻っていた。

「安藤選手が来て打たなかったというよりは、モリソン選手を意識して打たずにフェイントしたらオープンで打てたんです」。73-73、残り時間43秒──。緊迫した場面ではあるが、クラッチシューターは転がり込んだ好機を見逃さなかった。この試合の後半、アリーナを沸かせる場面は何度もあったが、「最後に3ポイントを決めた場面、そこのシュートが一番です」と富樫自身も会心のプレーに挙げた。

注目を集めれば集めるほど、パフォーマンスが向上

観客動員数では常にトップを走る千葉だが、3日の千葉ポートアリーナでの試合はホーム最終戦ということもあり、いつも以上に集客に力を入れていた。座席数も普段より増やし、7327人の動員記録を作っている。観客が増え、注目を浴び、大舞台になればなるほど、富樫のパフォーマンスは向上する。

「これだけの観客の前でプレーできるというのは、開幕戦やオールスターを除くレギュラーシーズンではないことですし、すごく楽しんでプレーできました」と富樫。「楽しんでできた」からこそ生まれたクラッチシュートなのだろう。

その富樫は、レギュラーシーズンのホーム最終戦ということで試合終了後にいつもの何倍も長いファンサービスを行い、我々の取材に丁寧に応じた後、個別のテレビ取材も立て続けに2件こなしていた。サバサバした性格でストレートに感情を出すタイプの富樫だが、ファンやメディアの対応は自然体でありながらも、手を抜くことなくしっかりと行う。

疲れていないはずはない。疲労がプレーに影響を与えたのではないかとの質問に対し「そんなことはないです」と否定した富樫だが、「でもプレーオフの1週間前にこのスケジュールっていうのは、ちょっとなんとかしてほしかった」と本音を漏らしてもいる。

ワックスで固めた髪型へのイジりにも、楽しみながら応じている。激闘の試合に終止符を打ったあの3ポイントシュートから2時間が経過しているが、疲れた素振りは一切見せない。「『一般』に認知されているのは田臥勇太だけ」と言われるバスケ界の状況を変える存在として、やはり一番に挙げられるのは富樫だろう。