文=大島和人 写真=B.LEAGUE

「連敗のない栃木に2つ勝てたのがすごく大きかった」

栃木ブレックスは東地区の首位に立ち、あと1勝で地区優勝が決まるという状況でこの週末を迎えていた。しかしホームアリーナでの優勝決定を阻止したのが千葉ジェッツの連勝だった。富樫勇樹は2試合を終えて得た収穫をこう口にする。

「連敗のない栃木に2つ勝てたのがすごく大きかった。60試合近くやってきて、連敗がないというのは、なかなかできることではない。その栃木に勝てたというのはチームとしてすごく自信になった」

29日の初戦は84-77で千葉が取っている。富樫は「自分の中では昨日も別に調子が悪かったとは思わない」と振り返るが、プレータイムは20分強。勝負どころの『主役』を西村文男に譲る展開となった。しかし30日の再戦は富樫が勝負どころでその得点力を存分に発揮し、主役の存在感を見せた。

前半を2得点で終えた富樫が牙を剥いたのは第3クォーター。残り8分25秒にまず速攻から、マイケル・パーカーのイージーなシュートをアシストする。残り6分23秒にも自らリバウンドを確保してドライブ。石井講祐の3ポイントシュートをお膳立てして、この試合4つ目のアシストを決めた。残り3分59秒には高速ドライブから自らレイアップを決める。

速攻に迫力を見せた富樫は第3クォーターだけで8得点2アシストの活躍。千葉はこのクォーターを22-14とし、71-54とリードを広げた。

栃木の追い上げムードを断ち切る、要所での働き

第4クォーターの開始とともに、富樫は一旦ベンチに下がる。チームは栃木に差を詰められる展開となり、大野篤史ヘッドコーチも「ゲームクローズの仕方が問題」と悔いる時間帯だった。富樫が残り5分57秒にコートへ戻った後も悪い流れは続いていたが、それを断ち切ったのが彼の連続3ポイントシュートだった。

栃木の7連続得点で79-72まで詰められた残り1分59秒。富樫はヒルトン・アームストロングとの連携からこの日2本目の3ポイントシュートを成功する。82-74で迎えた0分57秒にも、再び2人のコンビから3ポイントシュートを沈めた。

いずれもアームストロングが外側に出てきてスクリーンで富樫のオプションを増やす、鮮やかなピック&ロールだった。富樫はこう振り返る。「1本目はスクリーンで、アンダーにディフェンスが行って空いたのでうまく打てた。2本目は1本入ってたということで、1対1の形を取って3ポイントを打った」

1本目は栃木のトミー・ブレントンと渡邉裕規が2人をマークしていたが、アームストロングのスクリーンが絶妙だった。富樫は仲間の助けを得て裏へ抜け出すことに成功。完全にオープンな状態からシュートを放っていた。2本目はアームストロングのマークがロシターに変わっていたが、今度は彼がゴール下に動いてロシターを引っ張った。富樫は1on1の形から、正確に3ポイントシュートを沈めてみせた。

コート外でも『通訳代行』として勝利に貢献

ピック&ロールは富樫の代名詞と言っていいプレーだが、もちろん単に彼の個人能力によるものではない。富樫はアメリカの高校を出たというバックグラウンドもあるのだろうが、外国出身選手との連携が素晴らしい。千葉はこの栃木戦に廣瀬慶介コーチが帯同できず、通訳不在で臨んでいたが、代役としてヘッドコーチの指示などを通訳していたのは富樫だ。実はオフ・ザ・コートでも大きな貢献をしていた2連戦だった。

そして第4クォーター、特に試合の大詰めは富樫も「任されている」と口にする時間帯。30日の栃木戦もまさにそこで彼の価値が出た。それも特にガツガツとプレーをしていたとか、強引に点を取りに行ったのではなく、純粋に流れの中で確率の高いプレーを選択した結果。彼も「自分でシュートを打つのでなくクリエイトでもいいんですけど、チームのためにしっかりゲームをクローズできて良かった」と胸をなでおろす。

富樫は最終的に28分20秒のプレータイムで17得点4アシストを記録。ファウルオンはチーム最多の「7」を記録し、栃木ディフェンスを大いに苦しめた。

この連戦を迎える前は栃木が「3地区間の2位」で、千葉は「ワイルドカードの最上位」という立ち位置だった。そのままシーズンが終われば、チャンピオンシップのクォーターファイナルは栃木と千葉の再戦だった。しかし千葉は連勝でアルバルク東京との1ゲーム差を維持して東地区2位浮上の希望をつなぎ、さらに栃木を「3地区間の3位」に引き摺り下ろした。栃木は富樫が「正直なことを言うと、各カンファレンスの1位の中では一番個人的にはやりたくない」という難敵。最短での再戦を回避するためにも、大きな連勝だった。