「ブレックスという素晴らしいチームでプレーできて幸せ」
5月27日、宇都宮ブレックスは琉球ゴールデンキングスとのリーグ史上に残る熱戦を制し、リーグ創設以来最多となる3度目のBリーグ王者に輝いた。
昨シーズンの宇都宮はレギュラーシーズンでクラブ史上最多となる51勝9敗という成績を残しながら、チャンピオンシップクォーターファイナルで千葉ジェッツに敗れ、早々にシーズンを終えた。だが、今シーズンはローテーション入りしていた全員が残留し、チームのさらなる熟成を図ったことでレベルアップを遂げ頂点へと返り咲いた。
昨シーズンからの大きな変化は戦力の底上げだ。比江島慎、D.J・ニュービルのガードコンビはBリーグ最強の爆発力とクリエイト能力を誇るが、1年前の宇都宮は2人への依存度が高すぎた。しかし、今シーズンはグラント・ジェレットが1試合平均10.7得点から14.2得点と得点面を向上させ、2人の負担を軽減した。さらにスタメンに大きく偏っていたプレータイムが、小川敦也や高島紳司の台頭によって分散できるようになったことも大きい。
特に小川はレギュラーシーズン後半戦からどんどん存在感を増していった。その結果、昨シーズンのチャンピオンシップではわずか1試合1分13秒だった出場時間が8試合平均17分21秒と急上昇。スタッツでも平均6.9得点、2.3リバウンド、1.4アシスト、3ポイントシュート成功率42.1%を挙げて主力の一員となった。
また、千葉ジェッツとのセミファイナルゲーム3ではエースの富樫勇樹を激しいディフェンスで抑え、ファイナル第1戦では15得点を挙げた。小川のステップアップなくして宇都宮の優勝はなかったと言ってもいい貢献を見せた。
現在22歳の小川は、「ブレックスという素晴らしいチームでプレーできて幸せです」と優勝の喜びを語り、大きな飛躍を遂げた今シーズンについて次のように振り返った。「ブレックスは素晴らしい先輩方がいるので、頼ろうと思えば自分は何もしなくても大丈夫です。でも自分がドライブでクリエイトすることで周りを生かすなど、自分が起点となるところでステップアップできたと思います」
小川はさらに「自分のためにたくさんアドバイスをくれたり、ミスをしても『自分たちがカバーするから』と言ってくださる。そういう先輩方がいるチームに出会えて幸せだと思っています」とチームメートについて話した。
急逝したブラスウェルHC「お前は絶対にビッグになれる」
この日に限らず、小川は常日頃に経験豊富な先輩たちへの敬意を語っている。だからこそ昨年のチャンピオンシップで自分がチームに貢献できず、絶望に打ちひしがれた先輩たちの姿を見守るしかできなかったことへの大きな後悔があった。小川は1年前の苦い思いを払拭できたことに笑顔を見せる。
「去年のチャンピオンシップで、先輩たちが疲弊して足を攣りながらもプレーしていたり、ファウルアウトしてきつい思いをしたのを見てきました。今年は先輩たちにそういう思いをさせない、これまでの恩返しをしたいという気持ちでプレーしてきました。自分の力を少しでもコート上に出しながら優勝できて幸せでした」
チャンピオンシップでは堂々としたプレーを見せていた小川だが、シーズン序盤は安定したプレータイムを得られずに苦しんだ。しかし、今年2月に逝去したケビン・ブラスウェルヘッドコーチの次の言葉が、彼を覚醒させるきっかけになった。
「(試合に出られなかった)12月の横浜戦の前くらいに、ケビンから『自分に試合で使わせたいと思わせるくらい練習からアピールしろ。そのためには自信が必要だ』と言われました。そして『お前は絶対にビッグになれる。まずは自信を持つことで、それができたら何倍も大きくなれる』と声をかけてもらいました。それを信じ続けて自信を持つことで、こういう舞台でもシュートを決められました」
そして、ブラスウェルヘッドコーチの見立てが間違いでなかったことをこの大舞台で証明した。
ちなみに小川は、こどもの頃から比江島の大ファンであることを公言している。ファイナルはゲーム1から不調だったが、土壇場のゲーム3の第4クォーターで大爆発した憧れの先輩を次のように絶賛している。
「自分は比江島選手を尊敬しているので、一緒にプレーできて幸せですし、マコさんは日本一のエースかなと。本来の力を出せていなかった、シュートの調子が悪かった中、この大舞台で後半だけで17得点を決められた。やっぱり素晴らしいです。改めて格好よかったです」
まだ本人にその自覚はないかもしれないが、190cmのサイズと抜群の加速力を持ったドライブ、さらに3ポイントシュート力を身につけた小川は、比江島の後継者として宇都宮、そして日本代表をけん引できる才能の持ち主であることを示した。今夏は代表のユニフォームを着て躍動する彼の姿を見てみたい。