エイドリアン・グリフィン

『マンネリ化』を避けたいバックスに、若く情熱的な指揮官

バックスは2年前にNBA優勝を果たした。ヤニス・アデトクンボを中心に、ドリュー・ホリデー、クリス・ミドルトン、ブルック・ロペスが支え、PJ・タッカーにボビー・ポーティスと泥臭いタスクを厭わぬ仕事人がいて、堅実かつ機能的なチームがハードワークに徹したことで優勝を成し遂げた。

その2年後、優勝コーチのマイク・ブーデンフォルツァーが、プレーオフのファーストラウンド敗退という一つの失敗で解任されたのは意外だった。レギュラーシーズンの58勝24敗はリーグトップの成績。それでもバックスは指揮官交代に踏み切った。

来シーズンからバックスの指揮を執るエイドリアン・グリフィンは、就任会見の席で「夢がかなった。新人のヘッドコーチがバックスを率いる、これがどれだけ大きなことか分かっているから謙虚でありたい」と語る。

それと同時に彼は「準備はしてきた」と言い切る。「私は選手として9年、コーチとして15年をNBAで過ごしてきた。常に素晴らしい選手とともに働き、素晴らしいコーチに教えを得てきた。牧師である父からは『小さなことに誠実になりなさい』と教えられてきたし、家族からはずっと『準備の時間は決して無駄にならない』と励まされてきた。バックスを率いる、この仕事は15年待つ甲斐があるものだよ」

グリフィンは現役時代に大きな実績を残したわけではない。コーチに転身したきっかけを「私のような選手は引退しない」とグリフィンは言う。「2008年に引退したんだが、その前からブルズであまり試合に出ていなかった。自分ではまだまだ活躍できるつもりだったけど、ベテランはしばしばチームで居場所を失う。その時、若手の練習を手伝うことが自分にできるチームへの一番の貢献だった。それを続けているうちに、『引退したらいつでも仕事を用意するぞ』と言われるようになった」

「キャリア10年目にバックスにトレードされて、トレーニングキャンプを経て開幕を迎えた。シカゴでのブルズ戦だったよ。もうすぐ試合が始まるタイミングで、当時のヘッドコーチだったスコット・スカイルズから電話で『アシスタントコーチにならないか』と言われた。それは引退宣告だったが、貴重なチャンスでもあった。2、3日考えてオファーを受け入れた。そう決めた日からコーチとして働き始めたんだ」

今のバックスは勝てていないチームではない。むしろレギュラーシーズンでは最強のチームだった。グリフィンは「基礎は出来上がっている」と言う。「このチームには特別な力があり、私が来たからと言って根こそぎ変えるつもりはない。実際には、ただ積み上げて構築していくことになる。すべての選手と会った時に、私はハングリーであることを求めた」

チーム編成についても意見を出す立場になったグリフィンは、欲しい人材の条件に「性格が良く、職人肌で、クリエイティビティがあること」を挙げている。

「私はデリック・ローズ、ラッセル・ウェストブルック、カワイ・レナードというMVPと一緒に働いた。彼らには一つの共通点がある。それは毎日成長し、試合における自分の影響力を強めるための努力を惜しまないことだ。一つ例を挙げると、ラプターズ時代に新しいディフェンスを試したくて、それはカワイの負担をさらに増やすものだったんだが、彼の返事は『よし、教えてくれ。やってみよう』だった。2度のMVPを受賞したヤニスにも会ったが、『すぐに一緒に練習したい』と言ってくれた。ヤニスに限らず多くの選手が非常に乗り気で、その姿勢はありがたかった」

「私は選手たちに、常にオープンで一生懸命に働き、自分よりもチームを優先し、素晴らしいチームメートであることを要求する。同時に、選手に課すのと同じ基準を自分自身にも課す。選手たちにはベストを尽くしてもらうが、それは私自身から始まる。リーダーシップとは、そういうものだと思っている」

就任会見から分かったことは、バックスはすでに強力なチームを大きく変えるつもりはないが、『マンネリ』を避けるためにヘッドコーチ交代に踏み切ったということだ。グリフィンは、そういう意味では適任に思える。より選手たちに近い距離感で、強いパッションを持ち、ハングリーにバスケに向き合う。ヘッドコーチとしてはルーキーであっても、今のバックスに必要な人材ということだ。