
B2に所属するライジングゼファー福岡は今年で19シーズン目を終えた。その歴史は順風満帆とはいかず、オーナーや経営トップの交代は複数回に渡りバスケットが盛んな地域で長きにわたって苦戦を強いられてきた。それでも今シーズンは昨シーズンの平均観客動員数を大幅に超える4170人を達成。2029年には新アリーナが開業予定で、Bプレミア参入も視野に入っている。その福岡で15年に渡ってアリーナMCを務めるU-LAWにアリーナMCという仕事の魅力について語ってもらった。
手探りで始めた『会場MC』という仕事
──まずは自己紹介をお願いします。
U-LAW(ユーロウ)と申します。ライジングゼファー福岡の会場での『声』を担当する会場MCを務めています。普段は『サムライボーラーズ』というバスケットボールを使ったパフォーマンスチームと、MC業を運営する会社、3×3チームの経営をしています。バスケのイベントや育成年代の試合を企画することもあり、バスケ漬けの生活をしています。
──会場MCとは主にどのようなお仕事になりますか?
試合中のオフェンスやディフェンス、選手がシュートを決めた際のコールといった、いわゆる賑やかしでお客さんのテンションを盛り上げることがメインです。その他に、試合前などに読み上げるスポンサー各社の紹介アナウンスも担当しています。クラブによっては分業制ですが、福岡では僕が一人ですべてを担当しています。
──どのような経緯で福岡の会場MCを担当することになったのでしょうか?
ライジングさんの創設1年目で行われた開幕戦のハーフタイムショーでサムライボーラーズがパフォーマンスをさせてもらったことがきっかけで、チームとは繋がりを持つことができました。それからライジングさんは毎年のようにオーナーが変わる時期が続いて、興行のオペレーションも安定していなくMCを準備するところまで手が回っていない状態でした。
そんな状態の球団から連絡をもらったのですが僕はそれまでMCの仕事なんかしたことがなくて、まさかそこでMCの打診をされるとは思わなくて良い意味で期待を裏切られたというか、僕の想像を超える話をされて試されるているような気持ちになり、即答で「やります」って言ってしまったのが始まりですね(笑)。
──それでも昔から福岡の各カテゴリーのバスケットに精通していたとのことで、飲み込みも早かったのではないでしょうか?
実はオファーをもらったのがプレシーズンマッチの1週間前で準備という準備はできませんでした。まずは会場を盛り上げなくてはいけないという気持ちが先行して、とにかくワーワー喋っていましたね。でもしばらくして『2ちゃんねる』という掲示板サイトを覗いた時に「福岡のMCがうるさい、やめろ」といった僕のことしか書かれないぐらいの有様でした。実際に当時は、迫力を出す時に使う『がなり声』を試合の最初から最後までずっとやり続けるという、今思えばそう言われてもおかしくないMCをしていました。
今は自戒の念として、その当時の酷い有様を収めたDVDを毎シーズンの初めに見てシーズンを迎えるルーティンの素材として役立っています(笑)。
──その時から学んだことはありますか?
お客様の立場からすると、さっき言ったようにずっとうるさいとか、ずっとイケイケな陽キャラでMCを聞かされてもやっぱり疲れるのかなと感じました。一人でMCをやっている以上、どうすれば聞き取りやすく、試合の状況に合わせたトーンを出せるのか、お客様は応援に集中できるのか、といった声の使い分けやグラデーションの付け方が必要であることを学びましたね。

「間の使い方は結構こだわっていますね」
──お話をうかがっている今の声と、会場で聞く声にギャップがあって驚いているのですが、自分の声に自信は元々あったのでしょうか?
それはゼロですね!地声も試合会場では、ほぼ使わないです。スポンサーさんの紹介アナウンスの時に使っている声を聞いた友達からは「あれはお前じゃないだろ?」って言われますね(笑)。MC業を教わったことは一度もなくて、独学で研究をしてわかったことで大事なのは、「お客様だったらこういう声が聞き取りやすいだろうな」というイメージをすること。足し算や引き算をしながら声色を変えて、4種類くらいの声を使い分けています。
──その学びから心がけていることもあったようですが、そのほかにもMCとして心がけていることはあるのでしょうか?
ホームチームの選手は毎試合会うのでその特徴やプレーも理解しているのですが、アウェーチームの選手はそうではありません。だからこそ彼らの特徴をとらえるために、他のチームの試合もほぼフルで見ています。福岡のビデオコーディネーターの方よりも見ているんじゃないですかね(笑)。
その他にも実は福岡のお客様はバスケット経験者よりも、そうでない方のほうが多いんです。だから初めて来た人にも分かりやすいアナウンスを心がけています。何が何だかわからない状況で得点が入っていて、それが「ゴールテンディング」と言われても理解できないと思うので、その部分を説明したり、お客様に寄り添ったアナウンスをするようにしています。
──様々なテクニックがあるのですね。
試合観戦、応援をしてもらうことに集中してもらうためには、プレーとプレーの間など限られた時間の中で伝えることが必要になってきます。だから僕は、審判の方の『間』の作り方っていうのはすごく見ています。審判の方もそれぞれ特徴があるんですよね。『今日の審判さんは、割とリスタートに時間をかけられる方だな』と思ったら、その間に今の状況説明ができるなと。「アウトオブバウンズ、サイドライン福岡ボールで再開です、ショットクロック14秒」。『今日の審判だったら、ショットクロックの残り時間まで言えるなとか、「ゴーゴーライジング!」はこのタイミングで言えるな』といった余白というか、間の使い方は結構こだわっていますね。

「僕のところに来てくれたら全部教えます(笑)」
──福岡の試合に行った時は、MCのそういったテクニックを楽しむのも良さそうです。
でも僕のMCに注目してほしい気持ちは全くないです。個人的に理想とするのは、MCがあまり喋らなくていい会場の雰囲気です。福岡の会場でも体験したことがあるのですが、ブースターの方々から声が上がっていく。それに対して僕は邪魔をせず、皆さんが主役だという思いを持って楽しんでもらう。それのお手伝いをするのが役割で「U-LAWのMCはこうだ!」というのは必要ないんですよ。
──自発的に声が出るようになったらMC冥利に尽きますね。
特に琉球(ゴールデンキングス)さんのファンやクラブのカルチャーは理想形に近いのではないでしょうか。僕も沖縄アリーナに行かせてもらったことがあるのですが、沖縄の方はルールを分かっていて応援だけでなく、ブーイングも出る。ファウルがコールされた時に、アナウンスがすべてを伝えなくても理解していて試合に没入している。盛り上がるタイミングを熟知している雰囲気は圧倒的ですね。
──これまでにMCをしていて大変だったことはありますか?
福岡がリードしている時は盛り上げもスムーズですが、逆に2、30点差をつけられて負けている試合の時に、悔しい感情を出してはいけないのでフラットに保たなくてはいけないのが難しいです。むしろ、そういった時こそ、お客様が選手に声援を送ってほしいので、その誘導を感情に任せずにしなくてはいけないことが難しい部分でもあります。その点はチアさんと似ていますよね。彼女たちは本当にどんな時でも笑顔を絶やさずチアアップしているので素晴らしいと思います。
そういった感情の起伏を見せられない部分は、感情過多な僕にとっては苦労するところで、最近では長く活躍してこられた選手の引退セレモニーに携わることがあったのですが、もうただただ泣きたい。喋ってなんかいたくなかったというのが本心で、正直言うと今後は担当したくないですね(笑)。
──経営する会社の企画で、いち早く高校生の試合にMCを取り入れたと、うかがいました。
今となっては高校生の全国大会レベルになればMCが入ることも当たり前になっていますが、当時は県協会の皆さんも初めてのことで、「部活動たるものはこうだ」といった雰囲気もあったのでバランスを取ることと、Bリーグとは違い中立な立場でのアナウンスをすることは今も心がけていますね。こういった環境でプレーする経験が将来の大舞台で役に立てばうれしいと思ったのが始まりです。
──これから会場MCを目指す人たちのために、やっておいたほうが良いことはありますか?
僕のところに来てくれたら全部教えます(笑)。これまでの経験から細かいところまで、しっかりと教えられますよ!というのは、本気半分、冗談半分で、MCを目指すのであれば専門学校に行くことも一つの手ですね。でも、まずは自分の声帯の使い方や声の出し方を勉強することから始めるのが良いと思います。そして実際に声を使う仕事にチャレンジすること。経験を積み重ねて、専門的な知識を付け、キャラクター作りをすることも大事だと思います。
特にスポーツの現場で働きたいなら明るい性格になることをオススメします。ホームチームに力を送りたい時に皆さんの声を集めなくてはいけません。そこで声を出してもらうためにはポジティブな感情にさせなくてはいけないので、明るい性格であることに越したことはないですよね。実は意外と各所から「良いMCはいない?」と聞かれることがあるので、チャンスはあると思います。ぜひチャレンジしてみてください。