サンズ低迷期、『バブル』のシーズンをともに戦った絆
キャバリアーズのタイ・ジェロームにとって、サンズはルーキーシーズンを過ごしたチームだ。2019年のNBAドラフト1巡目24位でセブンティシクサーズに指名されたジェロームは、交渉権がセルティックスを経てサンズに移り、ルーキー契約を結んだ。
1年目の2019-20シーズン、サンズはまだドアマットチームだったが、新型コロナウイルスのパンデミックによるリーグ中断の後、『バブル』での8試合を無傷の8連勝で終えて、その後の飛躍へのきっかけを作った。
しかし、ジェロームにとっては苦難のシーズンだった。リッキー・ルビオに次ぐ2番手のポイントガードだったはずが開幕前のケガで出遅れ、戻って来た時にはキャメロン・ペインとジェボン・カーターが序列で先行していた。新型コロナウイルスでリーグの先行きが見えない状況で、彼は満足な出場機会を得られず、『バブル』での8連勝にもほとんど貢献できていなかった。
シーズン終了後にはクリス・ポール獲得のトレードの一部としてサンダーに移籍し、ここでも出場機会を確保できなかった。2年後の2022年にトレード先のロケッツで契約を切られ、2ウェイ契約でウォリアーズでプレーするも、存在感は発揮できなかった。そして2023年、2年500万ドル(約7億5000万円)の契約でキャブズに加入する。その1年目の昨シーズンはケガで2試合にしか出場していない。
そんなジェロームにずっと注目していたのがデビン・ブッカーだ。サンズが弱かった時代、何とかチームを盛り立てようとしていたブッカーは、ジェロームの才能とプロフェッショナル精神を信じていた。一緒にいたのは1年だけだが、ブッカーはその後もジェロームに連絡を取り、励ましていたという。
「プレーオフを見据えるのではなく、次の試合で勝つ」
キャリア6年目の今シーズン、ジェロームはダリアス・ガーランドに続く2番手の司令塔としてブレイクし、リーグ首位を独走するキャブズを支えている。ブッカーはキャブズ戦を前に『Arizona Sports』の取材に対し、「今の成功を誇らしく思う」と語った。「高いバスケIQを持つポイントガードとして試合をコントロールする。どんなシステムにも、どんな試合展開にも対応でき、多くの面でチームを高いレベルへ引き上げられる」
ジェロームの才能はようやく開花した。コート全体の状況を常に把握して、一手先を読んだ展開を作り出す。同じポイントガードでもガーランドの爆発力とジェロームの落ち着きは好対照で、キャブズの攻めに良いアクセントをもたらしている。
ブッカーは言う。「運動能力で言えば、今のNBAにフィットするタイプとは言えないかもしれない。でも、彼のバスケIQはすごいよ。キャブズのように彼の特徴を理解してくれるコーチがいれば最大限に力を発揮できる。今シーズンのキャブズがケガ人を出しても安定した戦いができているのは、少なからずジェロームのバスケIQのおかげだと思う」
不屈の精神で今の立ち位置を確保したジェロームを、ブッカーはこんな言葉で称えた。「NBAでは努力し続けるメンタリティがなければ生き残れない。ジェロームは絶対にあきらめない男なんだ」
ジェロームは負けず嫌いでもある。サンズを離れた後、彼がフットプリント・センターでプレーしたのはブレイク前の2試合だけ。今回は凱旋試合となり、ベンチから19分の出場で16得点5アシストの活躍を見せたが、古巣への感傷的な言葉は残さなかった。
「4連敗は受け入れがたい。慢心はなかったと言いたいけど、1試合、2試合と簡単に落として気付けば4連敗だ。82試合もあれば苦しい時期は必ずあるけど、それを言い訳にはしたくない。どのチームも逆境にぶつかり、乗り越えている。僕らも今こそ全員が団結して乗り越えるんだ。プレーオフを見据えるのではなく、次の試合で勝つんだ」
サンズが長いトンネルから抜け出そうとしている時期に一緒に努力した仲間であることに加え、このメンタリティがあるからこそ、ブッカーはジェロームを買っているのだろう。