セルティックス

ボストン近郊で生まれ育った真のセルティックスファン

昨年春、セルティックスがNBA優勝を決めてパレードを行った数日後、セルティックス売却の話が出た。不確かな噂ではなく、オーナーグループの中心人物であるウィック・グルースベックが、その意向を表明した。

グルースベック家は2002年にセルティックスを3億6000万ドル(約580億円)で買収し、22年間に渡り運営を続けてきた。コロナ禍を乗り越えて経営は順調、若いコアを擁するチームが『王朝』を築く可能性もある状況でのクラブ売却は不可解だが、一家の主であるウィックの父、アーヴィン・グルースベックは巨額の年俸負担を嫌い、このタイミングだからこそ売り抜けるべきだと判断した。

それから9カ月、ウィリアム・チズムが率いる投資グループが61億ドル(9200億円)で交渉を成立させた。売却を表明した時点では50億ドル前後と見られていた資産価値を大きく上回る。NBAのクラブ買収ではサンズの40億ドル、北米プロスポーツ全体ではNFLコマンダーズの60.5億ドルというこれまでの最高額を上回る、史上最高額となる。

「ビル(ウィリアム)はボストン近郊で生まれ育った真のセルティックスファンで、チームとボストンへの愛情、他の経営陣との相性を考えると、彼が新しいオーナーになるのは当然の選択でした」というコメントをグルースベックは発表している。

チズムも声明の中で「私は生涯を通して熱烈なセルティックスファンであり、このチームがボストンにとってどれだけ重要かは理解している。ボストン市民のリーダーとしての責任を伴うこの挑戦に、私は立ち向かう」とコメントしている。

NBAの承認が得られればチズムのクラブ買収は完了するが、今後3年間はグルースベックがセルティックスに残り、CEOとしてクラブ経営に関与していく。その後もアドバイザーとして経営陣の一角に留まるという。チズムは「私たちはグルースベック家の23年に渡るセルティックスへの貢献をリスペクトしている。ウィックから学べることは多いだろう」とコメントしている。

『赤字体質』へ傾くセルティックスはどう改革されるか

ファンにとっての関心事は、オーナー交代によりセルティックスにどんな変化が起きるかだろう。ただ、楽観視はできない。今シーズンからはジェイレン・ブラウンの、来シーズンからはジェイソン・テイタムのスーパーマックス契約がスタートする上に、ドリュー・ホリデーとは2028年、デリック・ホワイトとは2029年までの大型契約を締結済み。来シーズンが契約最終年となるクリスタプス・ポルジンギスを加えた5人だけで、来シーズンのサラリーは2億ドル(約300億円)となる。

昨シーズンの時点でサラリー総額は1億8700万ドル(約280億円)で、4500万ドル(約68億円)のラグジュアリータックスを科された。これでクラブ収支はギリギリの黒字だった。サラリー総額は今シーズンが1億9500万ドル(約290億円)で来シーズンは2億2000万ドル(約330億円)。ラグジュアリータックスは繰り返すことで額が増えていくため、来シーズンにはサラリー総額を上回る2億8000万ドル(約420億円)となる見込みで、このロスターを維持するだけで5億ドル(約750億円)を要し、巨額の赤字を出すことになる。

この状況に耐えられないことが分かっていたからグルースベック家はクラブ売却を決めた。そしてチズムはこの状況を理解してセルティックスを買収する。

ただし、個人的としてどれだけ熱烈なセルティックスであろうが、彼らの行動原理はビジネスしかあり得ない。それはウィックがCEO、ブラッド・スティーブンスが球団社長という体制に変わりはなくても、ビジネス優先の判断が下されるはずだ。

2023年にオーナー交代のあったサンズは長い低迷期に築いてきた下積みをご破算にするチーム改革を行い、前体制からの選手はデビン・ブッカーしか残っていない。マーベリックスは先月に驚天動地のトレードに踏み切った。これらの例から学んでいるはずのチズムが、『超赤字体質』のセルティックスをどう改革していくのかが注目される。