20年以上保持してきたオーナシップを2023年に手放す
マーク・キューバンはマーベリックスにおけるルカ・ドンチッチの庇護者だった。2018年のNBAドラフトで1巡目5位で指名したトレイ・ヤングに翌年の1巡目指名権を合わせることで、すぐさまホークスが1巡目3位で指名していたドンチッチを獲得した。ドンチッチの才能に惚れ込み、ドンチッチ中心のチームを作る方針を主導した彼が意思決定権を持つ限り、ドンチッチの退団はあり得なかったに違いない。
しかし、チームにサイクルがあるようにオーナーシップにもサイクルがある。2000年に新進気鋭のIT企業経営者としてマブスを買収したキューバンは、インターネットやテクノロジーの知識を生かしてクラブ経営に様々な変革を打ち出した。だが、それから20年以上が経過して、彼の持つノウハウは特別なものではなくなった。そしてマブスのオーナーシップはカジノチェーンを経営する一族へと譲渡された。
キューバンは今のマブスの株式の27%を保有するが、意思決定権はない。ドンチッチの放出を事前に相談されていれば何が何でも阻止しただろうが、彼は決定事項を伝えられただけだった。
ドンチッチへの愛情が消えたわけではないからこそ、彼は苦しんでいる。地元テレビ局の『WFAA』に出演したキューバンは「マブスがルカをトレードするのなら止めることはできない。私は意思決定に関与していないからだ」と語り、こう続けた。
「しかし、もっと良い条件をまとめられたはずだ。アンソニー・デイビスに失礼な発言はしたくないが、デイビスとマックス・クリスティにノンプロテクトの1巡目指名権4つで交渉をまとめることもできたはず。そうなっていれば話は変わっていたはずだ」
トレードの成否が分かるのは早くても数か月後、遅ければ数年後となる。それでもドンチッチ獲得からレイカーズは13勝2敗と絶好調で西カンファレンス2位と躍進している。一方でマブスはデイビスが1試合に出場しただけで戦線離脱し、ドンチッチとデイビスの穴を埋めるべくフル回転していたカイリー・アービングも今シーズン終了のケガを負った。年末の時点でドンチッチはケガで戦列を離れていたが、トレード以降は6勝9敗と低調で、直近の7試合で1勝しかしていない。
レイカーズは何としてでもドンチッチを欲しがっており、1巡目指名権を追加で要求するのは簡単だったはずだ。1巡目指名権を1つしか持たないレイカーズ以外のチームにドンチッチ放出を持ち掛け、有利な条件を引き出すこともできただろう。だが、マブスはレイカーズとだけ秘密裏に交渉し、成立までもっていった。「もっと良い交渉ができたはず」という主張は間違いなく正しい。
そしてキューバンはこう続ける。「かつて我々はスティーブ・ナッシュを放出した。移籍先のサンズで彼は2度のMVPに輝いた。しかし、マブスは優勝した。同じようなことは経験済みなんだ。違う点を挙げるとすればSNSがあることだ。SNS全盛の今、マブスが抱えている最大の問題は、社交的でコミュニケーション能力に長けた人物がいないことだ」