デビュー2戦目で15分出場、『らしさ』を見せる9得点
12月28日、ウインターカップ準決勝で東山が福岡大学附属大濠に完敗を喫した後、瀬川琉久は流れる涙を止められなかった。世代No.1プレーヤーの彼には取材が殺到。テレビ各局のインタビューを済ませてミックスゾーンにやって来た時、彼は東山のエースとして冷静に試合を振り返ろうとしたが、大濠の徹底したマークに封じ込まれた自分の不甲斐なさを思い出すたびに涙があふれ出た。
「頭が真っ白になってしまって、何もできませんでした。自分がチームを引っ張らなければいけないのに、全くできませんでした。情けないです」
その瀬川を少し離れたところから見守っていたのが大澤徹也コーチだった。完敗を喫して悔しくなかったはずはないが、泣き続ける瀬川を励ますように穏やかな笑みを浮かべる大澤コーチは、「この一つの負けで瀬川のやってきたことがダメだったと見てほしくないし、瀬川にもそう感じてもらいたくないです」と語った。「瀬川が東山に入学する時に、こういうことをやって、こういう選手になろうと話し合いました。それはすべて達成できているし、今の瀬川はそれ以上の選手になっています。そのことに自信を持って、次のステップに進んでも頑張ってほしい」
その時はまだ発表されていなかったが、大澤コーチには千葉ジェッツで活躍する瀬川の姿が明確にイメージできていたのだろう。それからわずか4週間後、瀬川はBリーグでプロデビューを飾った。
ファイティングイーグルス名古屋を相手に、1月25日のゲーム1は3分の出場でフリースローによる1得点を記録。ドライブで1人をかわし、その直後にもう1人をかわず流れるような動きからファウルを引き出して、短い時間でBリーグ初得点を挙げている。翌26日のゲーム2はプレータイムが一気に15分まで伸びた。最初の得点は並里成を相手に、ピックを使ってできたわずかなズレを突いてゴール下まで押し込んで決めたもの。これがプロ初のフィールドゴール成功となった。
その後も同じような形でピックからリムを攻め、ヘルプに来たショーン・オマラをかわすフローターを沈めた。さらにはマイケル・オウのスクリーンに相手ディフェンス2人が阻まれたのを冷静に見て取って、ドライブではなく3ポイントシュートを選択してこれも決める。同じくオウとのピックプレーから、今度は自分にディフェンスが寄るのを見て、ダイブするオウのイージーバスケットをアシストと、これがデビュー戦とは思えないスキルと視野の広さ、判断力の高さを見せた。守備に回ってはアーロン・ヘンリーの懐に飛び込んでドライブを許さず、すぐに立ち上がると中村浩陸に詰め寄って3ポイントシュートを叩き落とす。
物怖じしないプレーで積極的に攻め、フィールドゴール7本中4本成功の9得点。『鮮烈デビュー』と表現していいだろう。大澤コーチと瀬川が目指したのは、得点を奪って試合を支配できる新たなポイントガードのスタイル。外国籍のビッグマンが勝敗のカギを握ることの多いBリーグで、瀬川はこれまで磨いた自分らしいスタイルで、新たな価値を創造しようとしている。
勝利を決めた後のハドルでチームメートから笑顔で揉みくちゃにされた瀬川は、「昨日はデビューで気負いすぎていましたが、昨日やってみて『やれる』という自信がついて、今日は思い切ってプレーできました」と語った。
「まだまだ通用していない分、もっと磨いていかないといけな部分もありますが、思っていたより通用して自信に繋がったので、気をゆるめることなく毎日自分と向き合って成長し続けて、もっと活躍できるように頑張りたいと思います」