スティーブ・バルマー「私はお金を払うつもりがある」
クリッパーズは新シーズンから新たな本拠地となるインテュイット・ドームを使用するが、そこでプレーするチームにどれだけの期待をかけてよいものなのかは意見が分かれる。
カワイ・レナードとポール・ジョージのコンビが誕生してから5シーズン、カワイが全休した2021-22シーズンを除いて、クリッパーズは常に優勝候補と見なされてきた。それでも成功と言えるのはカンファレンスファイナルに進んだ2020-21シーズンだけで、そこからチームは少しずつ失速。そして今オフ、ジョージがクリッパーズの契約延長オファーを蹴ってセブンティシクサーズへと移籍し、彼に代わるタレントの補強はないままだ。
オーナーのスティーブ・バルマーは「選手が稼げる期間は長くないから、最大の収入を得る選択をするのは自然なことだ。ジョージには残ってほしかったが、彼の今後の幸せを願っている」とジョージの退団に理解を示すとともに「クリッパーズは引き続き競争力のあるチームになるだろう」と語っている。
ニコラス・バトゥームが復帰し、デリック・ジョーンズJr.とクリス・ダンが新戦力としてチームに加わった。しかし、ジョージ退団のインパクトを補うには弱く、それはカワイとジェームズ・ハーデンのフル回転で補うことになるだろう。
35歳になったハーデンは、ロケッツ時代の2018-19シーズンに36.1得点を記録したような爆発力を失っている。だが、ネッツ移籍以降はプレーメークに比重を置いてプレーすることで平均得点が10近く落ち、クリッパーズ1年目の昨シーズンは16.6得点まで数字を減らしているものの、これはシュートアテンプト自体が半減した結果でもある。ジョージが担っていた16.7本のシュートアテンプトをチームで補い、そのかなりの部分をハーデンが持っていくと考えると、ハーデンが攻める機会はかなり増えるはず。ロケッツ時代の爆発力を取り戻すとまではいかなくても、ここ数年とは違った『主役』のパフォーマンスを見せるものと予想される。
ただし、ネッツ以降のハーデンはケガ続きで、特にハムストリングの肉離れがクセになっている。負荷が掛かれば掛かるほどケガのリスクは上がるし、シーズン正念場のプレーオフでどれだけコンディションを保てるかが懸念される。エースのカワイにしても同じで、昨シーズンもプレーオフで強硬出場するも、2試合のみに終わった。オリンピックもトレーニングキャンプに参加しただけで、すぐにアメリカ代表チームから離脱している。ずっとケガ続きのカワイは33歳になり、今後もケガと付き合いながら戦うことになるだろう。
スティーブ・バルマーはこれまでも強力なチームを作るのと引き換えに高額のラグジュアリータックスを支払い続けてきた。新アリーナが完成した今、彼はこれまで以上にクリッパーズへの投資に前向きだが、サラリーキャップの新ルールはカネで解決できない問題を増やした。
「私はお金を払うつもりがある。妻は嫌がっているがね」とバルマーは冗談を飛ばしたが、彼の投資は報われず、数年後にチームは再建に舵を切っていてもおかしくはない。彼はクリッパーズを買収して1年もたたないうちに、新アリーナ建設を夢見るようになった。時間はかかったが、ようやく『夢のアリーナ』を手に入れた。
しかし、そのタイミングでチームが競争力を失うのは皮肉なものだ。ただでさえ競争の激しい西カンファレンスは、グリズリーズやスパーズの成長により、さらに競争が厳しくなると予想される。その中でベテラン主体で『ピークを過ぎた』と見られるチームは、今の位置に留まるだけでもかなりの健闘が必要になりそうで、クリッパーズはその一つだ。
クリッパーズは9月30日にインテュイット・ドームに集まってメディアデーを開催した後、トレーニングキャンプをハワイで行う。