ユスフ・ヌルキッチ

文=神高尚 写真=Getty Images

スキルアップを重ねたシーズン終盤、左足開放骨折の大ケガ

トレイルブレイザーズのユスフ・ヌルキッチが、3月25日のネッツ戦でプレーオフも絶望となる大ケガを負ってしまいました。左足の開放骨折で、復帰時期はまだ明らかになっていませんが、かなりの長期離脱になることは避けられません。エースの片翼であるCJ・マッカラムが離脱していたチームとって大きすぎる痛手なのはもちろん、得点、リバウンド、そしてアシストといずれもキャリア最高の時間を過ごしていたヌルキッチ自身にとっても残念であり、一刻も早い回復を祈るばかりです。

高速化が進むNBAでビッグマンにもスピードと運動量が求められる中、それに合わせて身体を絞ったヌルキッチがブレイザーズのディフェンスで中心的な役割をこなすようになったのが昨シーズン。チームはディフェンス力を武器に好成績をあげたものの、デイミアン・リラードとマッカラムのガードコンビの突破力とシュート力に頼ったオフェンスは、プレーオフになると徹底マークに遭って通用しませんでした。

迎えた今シーズン前半、ヌルキッチのパスミスが目立ちました。オフボールで動いたリラードとのパス交換はディフェンスに読まれ、アウトサイドシュートの確率が良くないこともあって、ヌルキッチを経由したオフェンスはお世辞にも評価できるものではありませんでした。

しかし、ブレイザーズはこのパターンをあきらめませんでした。ベンチから出てくるセス・カリーやジェイク・レイマンも含めてシューターを中核にしたオフェンスを志向するようになったこともあり、ヌルキッチにはポイントセンター的な役割を求め、ミスを許容しながらスキルアップを要求し続け、そしてチーム全体にもオフボールでの動きを徹底しました。

ポイントガードとして得点力だけでなく、アシスト力もあるリラードを起点とした形は十分に機能していたものの、相手ディフェンスの視点ではリラードに集中すれば良い面がありました。それに比べるとスクリナーでもあるヌルキッチがリラードとパス交換しながら起点にもなる形は、ディフェンスからするとプレーが読みにくく、リラードと見せかけて他の選手がカットプレーでイージーシュートに持ち込む回数が大きく増えました。

例えばスターターのアル・フォンク・アミヌとモーリス・ハークレスへのパスは300本ほどしかありませんが、そのうち140本がシュートに結びついています。シーズンも終盤戦になるとヌルキッチがボールを持った時の周囲の動き出しは非常にスムーズになり、素晴らしいパスが連発されるようになりました。

テリー・ストッツヘッドコーチは、昨シーズンに鍛え上げたディフェンス力に、全員が絡むオフェンス力を加えるという信念を貫きました。ガードコンビに頼るのではなく、オフボールのポジションチェンジとシュート能力を使ったオフェンスパターンを作るのは簡単ではなく、時間もかかります。シーズン当初はお世辞にも褒められなかったのが、シーズン終盤になると手放しで褒めたたえたくなる水準へと進化。パス交換だけでディフェンスを切り崩せる魅力的なオフェンスが完成したところでした。

昨シーズンの反省を生かして描き上げた理想のオフェンス。その中心となるべくスキルアップを求められたヌルキッチは、見事に期待に応えました。ところが、いよいよプレーオフという時に起きた悲劇。チームの命運を握り、そして成功をもたらしたヌルキッチの今シーズンがケガという悲しい結末を迎えたことが、ただただ残念でしかありません。