2022年に明星大を卒業した加藤嵩都はさいたまブロンコスでプロデビューを果たし、昨シーズンの福島ファイヤーボンズを経て今オフに名古屋ダイヤモンドドルフィンズへと移籍した。大学生からB3、B2、B1へと急成長を続けてはいるが、彼が目指すのは日本代表入り。高い目標へ到達するためには、人とは違う努力が必要となる。そこで彼が選んだのはアメリカでの武者修行だった。7月中旬のラスベガスには、NBAサマーリーグ開催に合わせてバスケ関係者が世界中から集まる。そこで加藤はショウケース(スカウトに見せるための練習試合に参加し、自分のスタイルをさらに磨き上げるためのヒントを見いだした。
サマーリーグ開催中のラスベガスでショウケースに参戦
──『バスケット・カウント』初登場ということで、まずは加藤選手の自己紹介から。続いてこの夏にサマーリーグの行われているラスベガスに行こうと決めた理由を教えてください。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ、ポイントガードの加藤嵩都です。プレースタイルとしては、0から100に達する最初のスピードはリーグトップレベルだと言ってもらうことがあり、自分でもそこは自信を持っています。
プレースタイル的に日本よりアメリカのほうが似通っている、逆に日本にはあまりないプレースタイルだと思っているので、B1で活躍するためにもアメリカのスタイルに近い、自分の爆発的な運動能力を最大限に生かしたプレーは一つ目指すべきものだと感じていました。
そういったことから現地のプレーを体感すべきだとエージェントの岩野健次郎からもともと誘われていて、今回は特にB1に挑戦するタイミングでもあり、6泊8日でラスベガスに行って海外のレベルで自分の立ち位置を確認しに行くことを決めました。岩野さんからはエージェントとして所属チームを探してもらうだけでなく、スキル向上についてアドバイスをもらったり実際に一緒にワークアウトをしていて、プロに入る時から二人三脚で仕事をしてきました。
Bリーグにも外国籍選手のガードはいますが数が多いとは言えず、実際にマッチアップする機会もあまりありません。アメリカ人のガードのサイズや身体能力だけでなく『長さ』の違い、そして彼らの爆発的なプレースタイルやそのテンポに基づくプレーの違いを実際に見たり、プレーして体感することが自分のキャリアアップには必要だという判断でした。岩野さんからも「これは実際にアメリカに行って五感で体感してみないと絶対に分からない」と言われていたのも大きいです。サマーリーグ観戦よりも現地のショウケースに出場するのが目的で、向こうの選手と対戦して、そこで自分がどれだけできるのかを楽しみにしていました。
──ショウケースではどんな経験ができ、どんな手応えを得られましたか?
着いたのが夕方だったので初日は何もしなかったのですが、次の日はサマーリーグを見て、夜に練習がありました。その翌日のショウケースに向けた、コーチが選手をチェックするための練習です。誰も知らないし言葉も通じない環境で、他の選手たちはトライアウトなので「自分を見せなきゃいけない」というマインドでしたが、僕はただ上手くなるために来たので、何でも吸収できるものを探そうという感じでプレッシャーはありませんでした。みんな自分のアピールに必死なので、パスを出したが最後、ボールが返ってきませんでしたね(笑)。
でもそこでまずディフェンスを見せて「こいつは頼りになるぞ」と思わせようと、試合ではオールコートでバチバチ当たりました。ファウルを3つぐらい取られたんですけど、特別ルールでファウルの制限はなかったですし、そこで信頼を得ることができて、ガードとしてゲームをコントロールできました。僕にとってツイていたのは、コーチとの相性が良かったことで、僕のディフェンスをしっかり評価してくれて、ショウケースでは最初から先発でした。
ITからの学び「瞬間的に0から100へと切り替わるキレ」
──知らない選手たちといきなりチームを作って試合をするのに、コミュニケーションの問題はありませんでしたか?
そこはあまり感じませんでした。英語は全然できないんですけど、コミュニケーションって意思の疎通ができていればいいので。今回参加したショウケースの選手たちは能力はすごいけど組織的なバスケは結構下手で、言葉を上手くしゃべれるわけではなくても通じる言葉を駆使して自分からコミュニケーションを取って、自分がキャプテンみたいにやっていました。
──コミュニケーションが苦にならなかったのは大きいですね。
そこはBリーグで外国籍選手と一緒にプレーするのと同じ感覚でした。コミュニケーション以外の部分でも、Bリーグで3年間やっている自信は大きくて、フィジカルでは負けていても他では勝てる、全体としてはちゃんと通用するという手応えを得られました。
──4試合に出場したそうですが、通用した部分とそうでない部分を教えてください。
エースとして活躍した試合もあればボールに絡めなかった試合もあって、「通用するぞ」という手応えはあったのですが、日本とアメリカでのバスケの違いは間違いなくあって、そこのアジャストメントに難しさも感じました。
「能力を最大限に生かせ」という、もともとの考え方が日本とは大きく違います。日本は今まで身体能力の差もあって一対一で打開する能力に乏しく、チームで戦うバスケに偏っていったんだと思います。アメリカではフィジカルであったり高さであったりを最大限に生かすプレーをしてきて、少しでも油断すると身体能力で全部やられてしまいます。僕が参加した試合は正直レベルもそこまで高くなかったですし、僕も日本では1対1が得意な選手なので、そこでは全然止められる気はしませんでした。ただ、身体の使い方や強弱の付け方はすごく学ぶものがあって、僕の能力を生かすにはこのスタイルだと感じられたことは、今後に向けて大きな指針になると思います。
──アイザイア・トーマスのワークアウトを見学したと聞きました。
自分の試合の空き時間に、近くの会場でIT(トーマス)のワークアウトが見れると聞いて急いで行きました。すごく参考になりましたね。やっぱりボールスピードやムーブメントの速さは爆発的ですが、それでいて常にアンダーコントロールされていて高いレベルでボールと身体の動きがしっかりシンクロされているんです。
もうベテランでケガもしているので「全盛期に比べると結構落ちちゃったね」なんて声も聞こえてきたんですが、それでも抜く時と攻める時で急に段階が上がる、0から100へと瞬間的に切り替わるキレが日本では見たことのないレベルで衝撃的でした。目の前で見ると、テレビやネットでは得られない『勢い』や『音』など、実際の感覚に気付きます。サマーリーグの観戦やショウケースの参加ももちろんためになりましたが、ITのプレーを見て実際に『大きな気付き』を得られたのが一番の収穫でした。
「ギアチェンジして、身体能力を最大限に生かす」
──その学びは自分のプレースタイルにどのような形で反映できそうですか?
日本のバスケは一度落ち着かせてゆっくりプレーすることで正しい判断をするのが良い場合が多いですが、それを突き詰めるだけでは限界があると感じました。どこかでギアチェンジして、身体能力を最大限に生かすのを武器にしてもいいんじゃないか。それは自分の中でずっと考えていたことでもあるのですが、それがラスベガスであらためて発見できたと思います。もちろんチームとして決められたルールの中でプレーするわけですが、もっと自分の特性を生かしたプレーを展開できる余地があると考えました。
──毎年のようにステージを上げて、ついにB1に挑みます。しかも名古屋Dは優勝経験こそありませんが、昨シーズンも優勝を狙うに十分な質の高いバスケをしていました。新シーズンに向けた意気込みを聞かせてください。
はい、僕もドルフィンズは今シーズン優勝するチームだと思っていますし、そこに加入するからにはチームを勝たせられる選手でなければいけないと感じています。ただ、やることは今までと変わりません。これまでやってきたことが正しかったからこの舞台に立てると思いますし、アメリカでも自分のやり方が間違っていないと確かめることができました。そこは自分のやり方を信じて、これからもやるだけだと思っています。
僕の目指すところは大学の頃からさいたまでも福島でも変わっていなくて、日本代表に入ることです。ドルフィンズには齋藤拓実さんという代表レベルのポイントガードがいて、代表を目指す僕にとっては良い目標になると思います。拓実さんから吸収できることは多いと思いますし、練習でマッチアップすることも多いので、この1年で追い付ければと思っています。
──自分のどんなプレーに注目してほしいですか?
アメリカまで確かめに行った運動能力を最大限に生かしたプレーです。リバウンドを取ってそのまま5人抜いてダンクに行く、みたいな(笑)。極端ですけど、先ほどの話にもあったように、そういうプレーをするガードはBリーグにあまりいないじゃないですか。見てて楽しいプレーをするのはすごく大事だと思っています。試合でやったことはないんですけど、行ける状況であればダンクに行きたい気持ちは持っています。
僕としてはがむしゃらにプレーするだけです。選手として一番大事にしているのは人の心を動かすプレーをすることなので、誰よりも走ってぶつかって声出してハッスルするプレーを見てほしいです。
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