比江島慎

文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

「前半は緊張で身体が重くなって、うまく動かなかった」

栃木ブレックスはシーホース三河との第1戦に98-77で勝利した。結果だけを見れば圧勝だったが、第1クォーターで33失点を喫するなど、序盤は栃木らしい強固なディフェンスが影を潜めた。

「前半は緊張で身体が重くなって、うまく動かなかった」。そう話すのは、今シーズン2度目の先発を任された比江島慎だ。三河のシュートタッチが良かったこともあるが、一瞬マークが甘くなり、外から射抜かれ悔しがるシーンが多々見られた。

比江島が緊張するのも無理はない。過去5シーズン所属した三河という特別な相手。『古巣との対戦』は彼にとっては初のこと。「顔見知りですし、初めての経験なのでどういう状態になるのかな」と、初めての感覚に身体がついていかなかったという。

元チームメートとの対戦が緊張を生んだ理由の一つではあるが、「スタメンということが大きいです」と、先発を任されたことから来るプレッシャーのほうが強かった。

栃木はリーグ全体2位と好調をキープしており、先発メンバーを無理に変える必要はない。「これまで以上のプラスアルファにならないと意味がない」と、結果を出さないといけない気持ちから、いつも以上に肩に力が入っていたのだ。

比江島慎

比江島か鵤か、安齋竜三ヘッドコーチの贅沢な悩み

比江島は11得点3アシスト3スティールで勝利に貢献した。「最初ナベさんが当たっていたので、今日はこれでいい」と、第1クォーターに18得点の荒稼ぎを見せた渡邉裕規にオフェンスの主役を譲ったが、「何より点を取ることを今日は第一に考えていたので、スタメンで出たわりには少ないのかなとは思っています」と、自己評価は辛口だった。

三河時代はもちろん、比江島は日本代表でも不動の先発を務める『日本のエース』だ。しかし、ディフェンス力を重要視する栃木では、決してディフェンスが苦手なわけではない比江島であっても、フィジカルやプレーの強度、チームデイフェンスへの順応を問題とされて先発が確約されない。「明日はスタメンがどうなるのかも分からない」と、比江島自身もそれを理解しているからこそ、与えられたチャンスを十分に生かせなかったという思いが強かった。

安齋竜三ヘッドコーチは以前から、「ディフェンスの課題もいっぱいあったので、スタートはまだ無理だと思っていた」と、比江島を先発に使わない理由を説明していた。

「比江島のこれまでやってきた部分だったり、慣れだったり、日本を代表するエースのプライドだったりとかも考えました。(鵤)誠司をスタートから外すというのも、ディフェンス面での不安が起きてしまうので悩みました」と、今回の決断に頭を悩まされたという。

それでも比江島を先発に据えたのは、「チャンピオンシップに行く前にやらないといけないことだと思っていた」と、チームをさらに進化させるために必要な決断だったと安齋ヘッドコーチは認めた。そして、「今はとりあえず、という感じ。だから完全にこれでスタートを決めたというわけではない」と、続けた。

栃木のルールを理解し、チームから求められる役割にも慣れてきた比江島。彼のオフェンスを牽引する能力は言うまでもないが、鵤の激しいディフェンスも捨てがたい。今日の第2戦では、どちらが先発を務めるのか。安齋ヘッドコーチの選択はいかに。