ジェイソン・テイタム

「どれだけ長引いても戦い抜く覚悟が必要だ」

残り10秒でジェイソン・テイタムがボールを運び始めると、もうマーベリックスの選手たちはファウルゲームを続けようとはしなかった。セルティックスの勝利を告げるブザーが鳴ると、テイタムは目の前にいたドリュー・ホリデーとハイタッチし、続いてジェイレン・ブラウンとハンドシェイクして抱き合った。

テイタムはその時の会話をこう明かす。「どちらも興奮していて、疲れ果てていた。僕から『誇らしいよ』と声を掛けると、彼も同じことを言ってくれた。気を緩めず戦い続けるぞ、みたいなことを話した」と明かす。

彼が喜んだのはその時だけで、コート上でのインタビューを終えてロッカールームに戻る時には、「まだ満足していない」とつぶやきながら歩いていた。ブラウンも同じで、「3勝0敗は素晴らしく、この瞬間を大切にしたいけど、まだ仕事は終わっていない」と語る。

テイタムは31得点6リバウンド5アシスト、ブラウンは30得点8リバウンド8アシストを記録。ルカ・ドンチッチが35得点を挙げたマブスのほうが観客を沸かせるプレーは多かったかもしれない。第4クォーターにはセーフティーリードの21点差から1ポゼッション差に肉薄される場面もあった。簡単な試合ではなかったが、セルティックスは『バスケのお手本』のような攻守の強度の高さ、チームの連携、そして勝負どころでのテイタムとブラウンの両エースの活躍により勝利をもぎ取った。

「20点のリードが必ず安全かと言えば、そうじゃない」とテイタムは言う。「もっとシュートを決められたら良かったけど、何もかも思い通りにいくものじゃない。優勝したければそういう時こそ精神的に強くなければいけない。今日はそれができたと思う」

そのNBA優勝まであと1勝と王手をかけたが、テイタムは地に足を着けたままだ。「昨シーズンのカンファレンスファイナルで僕たちは0勝3敗と追い詰められたけど、そこから3勝した。立ち直ることはできると感じていたし、実際にそうだった。足首の捻挫がなければ優勝も狙えたと思う。だから今の状況でも気は緩めない。マブスはあきらめないだろう。僕らもこのままベストを尽くす。あと1勝だとは思わないよ。どれだけ長引いても戦い抜く覚悟が必要だ」

セルティックスは17回の優勝を誇る古豪だが、2008年を最後に優勝からは遠ざかっている。もちろん、テイタムもブラウンも優勝経験はない。悲願達成まであと1勝に迫っても落ち着きを保ち続けていられるのは驚くべきことだが、テイタムは穏やかな表情で腕を組み、こう語った。

「人生はジェットコースターのようなもの。上がったり下がったりの連続だ。バスケの試合も選手のキャリアも、どんな職業の人だって同じように浮き沈みを経験する。その最も厳しい瞬間にこそ、その人の本質が問われる。良い時も悪い時も僕はそう思っている。どんな時も誠実でありたい。息子にも同じことを伝えようと思う」