J.B.ビッカースタッフ

「時には思い切ったリスクを取らなければならない」

キャバリアーズがJ.B.ビッカースタッフの解任を発表した。2019年オフにアシスタントコーチとしてキャブズにやって来た彼は、最初のシーズン途中にジョン・ベイレイン解任に伴いヘッドコーチに昇格し、レブロン・ジェームズ退団後のチーム再建を主導してきた。

19勝46敗、22勝50敗だったキャブズは、2021-22シーズンに44勝38敗でプレーイン・トーナメントに、昨シーズンは51勝31敗でプレーオフに進出。今シーズンは48勝34敗でプレーオフではファーストラウンドを突破した。ビッカースタッフの下でチームの成長は続いていただけに、この解任は意外にも思える。

ビッカースタッフ解任のリリースの中で、コービー・アルトマン球団社長はこうコメントしている。「J.B.のコーチとしての手腕は高く評価され、人間的にも素晴らしい。この4年間、選手たちが最高の自分になるための後押しをする、その文化をこの組織に確立してくれた。今回の決定は簡単ではなかったが、彼の下でこのチームの再建が始まったことを誇らしく思う。NBAでチームを成長させ、最終的に優勝を争うには、時には思い切ったリスクを取らなければならない。J.B.のキャバリアーズへの貢献に感謝している」

キャブズにとっての「思い切ったリスクを取る」とは、ビッカースタッフの下での安定した成長を投げ捨ててでも、優勝を目指せるチームへと成長を加速させることだ。それはビッカースタッフへの評価が『選手を育てるコーチ』ではあっても『チームを勝たせるコーチ』ではないことを意味する。

『The Athletic』はビッカースタッフの手腕と人間性を好意的に評価しながらも、その解任を早くから予見していた。ビッカースタッフは選手に優しかった。常に選手をサポートして、何かが機能していなくても選手に責任を負わせようとはしなかった。それはバスケのスタイルにも表れる。オフェンスはピック&ロール主体でペースが上がらず、選手の創造性に頼ろうとしなかった。ディフェンスは昔ながらのサイズとフィジカルを押し出すスタイルで、激しさは求められるが戦術的に高度なものではなかった。

選手に過度なプレッシャーを与えないのは優しさでもあるが、プロとして扱っていないことと同義でもある。それしか知らない若手は納得しても、ドノバン・ミッチェルのようなベテランは、それではチームが強くならないと知っている。そして若手たちは、プロとしてビッカースタッフの優しさではなくミッチェルの厳しさに従った。キャブズのフロントも、ミッチェルに従わなければならない。ミッチェルが契約延長に応じるかどうかが、今後数年のキャブズのチーム作りの明暗を分けると言っていいからだ。ミッチェルの契約はあと2年残っているが、キャブズにとっては今オフに新契約を結ぶのが理想で、そうでなくても来年オフ、あるいはその先まで引き伸ばす状況は避けたい。ミッチェルを納得させるだけのチーム作りが必要なのだ。

ビッカースタッフは解任されたが、それは彼のコーチとしての評価を下げるものではない。チームに良いカルチャーを植え付け、若い選手たちをプレーオフのレベルまで成長させ、ダリアス・ガーランドとジャレット・アレンはオールスターになった。十分な仕事を果たした彼は、クリーブランドとはまた別の舞台で『チームを勝たせるコーチ』という評価を勝ち取りにいくことになる。