ブランドン・イングラム

「僕ほど失望し、怒っている人はいない」

ペリカンズはクラブ史上2位となるシーズン49勝を挙げた。ザイオン・ウイリアムソンがキャリア5年目にして初めて70試合とコンスタントにプレーでき、上々のシーズンのはずだったが、『終わり良ければすべて良し』の正反対のことが起き、2023-24シーズンの印象は苦いものになってしまった。

きっかけはザイオンのケガだった。プレーイン・トーナメント初戦のレイカーズ戦、残り3分で同点シュートを決めた際の着地でハムストリングを痛め、そのままコートを離れることに。40得点11リバウンド5アシスト1スティール1ブロック。モンスター級のパフォーマンスを見せたザイオンは、またもケガに見舞われた悔しさのあまりタオルをフロアに投げつけてコートを去った。

続くキングス戦に勝って第8シードでプレーオフに進むことになったが、ファーストラウンドでサンダーにスウィープ負け。初戦こそ接戦となったが、その後は完敗続き。自慢の堅守はそれなりに機能したものの、ザイオン抜きのオフェンスは4試合を通して92得点以上を奪うことができず。もう一つの強みである選手層の厚みもサンダーとの違いは生み出せなかった。

失意のパフォーマンスを象徴するのがブランドン・イングラムだ。ザイオンに次ぐ得点源となる彼は、ファーストラウドの4試合を通してフィールドゴール成功率34.5%の14.3得点、3.3アシストに対してターンオーバーは2.3と低調だった。

レギュラーシーズンでの彼はフィールドゴール成功率49.2%で20.8得点、5.7アシストと好調だった。しかし3月に膝を痛めて3週間の戦線離脱。レギュラーシーズン最終戦で復帰したが、コンディションは戻っておらず、本来のプレーは見せられなかった。プレーイン2戦目のキングス戦では「膝の痛みはまだあるけど、問題ないと自分に言い聞かせた」と強行出場して24得点を挙げてペリカンズをプレーオフに導いたが、それが彼にできる精一杯だった。

サンダーとのスウィープ負けで、当然ながら彼は大きな批判を浴びることになった。これに対しイングラムは「自分が置かれている状況、このプレーオフとその前から起きたことについて、僕ほど失望し、怒っている人はいない」と言う。

「プレーした以上、言い訳はしない。コートには立ったが十分なプレーができなかった。プレーオフの雰囲気は素晴らしく、サンダーの会場でファン全員が同じTシャツを着て試合に夢中になっている様子を見て『これがプレーオフだ!』と感じ、ここまで来れたことを誇らしく思ったけど、結果はほろ苦いものになってしまった」

シーズン最後の会見でのイングラムは、コート上と同じような冷静さで自分の考えを語った。「どうすればゲームを楽しめるかを考えたシーズンだった。自分にプレッシャーを掛けるのではなく、楽しみながらプレーできたと思う。それだけにケガは本当に悔しかった。でも、そのすべてを次のシーズンに繋げたい。間違いなく正しい方向への一歩だった、と考えたいんだ。僕らは大きく成長したと思うけど、特別なチームになるにはもっと多くの改善が必要だ。そう考えると、シーズン中に大きく成長したからこそプレーオフでの失敗を経験する必要があったんだと思う」

イングラムはこのように、今回の経験を来シーズンに繋げることを強調したが、フロントの考えは違うかもしれない。球団副社長のデイビッド・グリフィンは今シーズンのチームの成長を認めた上で「過去ずっと継続性を重視してきたが、ザイオンがシーズンの大半で健康だった1年を経たからこそ、このオフに抜本的な改革が必要だと思う」と語る。

イングラムのポジションにはハーブ・ジョーンズ、トレイ・マーフィー三世と主力を張れる選手がいる。契約満了を迎えるヨナス・バランチュナスに代わるセンター、得点よりもプレーメークを主とするポイントガードを補強するために、イングラムとのトレードを決断するかもしれない。いずれにしても今オフのペリカンズは積極的に動くことになりそうだ。