町田瑠唯

「本当に勝ちたいと思った時、ルイはオフェンスでステップアップする」

タイムアップのブザーが鳴ると、町田瑠唯はうつむいて涙をこらえた。しかし、それはじわじわとあふれだし、止まらなくなった。

札幌山の手高から富士通レッドウェーブに加入し、13年目にしてようやく手にした日本一。優勝インタビューではうまく言葉が出て来ない様子をチームメートから茶化されつつ、うるんだ目で「入団してからずっと応援してくれたファンの方々、そして家族へやっと恩返しができました」と語った。

レギュラーシーズン1位で挑んだプレーオフは、セミファイナルでシャンソン化粧品シャンソンVマジック、ファイナルでデンソーアイリスと対戦。いずれも第3戦までもつれる激戦となったが、チームは遂行力と徹底力でこれを勝ち抜いた。町田はプレーオフ全6試合で平均9.5得点、11.7アシストを挙げ、ファイナル第3戦では両チーム最長となる37分20秒コートに立ち、8得点6リバウンド9アシストという素晴らしいパフォーマンスでチームを栄冠へと導いた。

試合後の記者会見、町田は勝因について「ディフェンスとリバウンドを40分間全員でしっかり意識して、声をかけ続けて、表現できたことが勝利に繋がったと思う」とコメント。一方でBTテーブスヘッドコーチは、「よくアタックした。ルイは(小柄だから)レイアップが大変。でも何点取ったより何本打った、それが1番大事。今日はよかった」と、町田のゴールにアタックし、シュートまで持ち込む姿勢を称賛した。

これは指揮官が、シーズンを通して町田に言い続けてきたことだった。

「ルイはパスファーストの選手。もちろんそれはこの人の特別の才能ですし、同じことができる選手はこのリーグにいないと思うんですけど、本当にトップレベル選手になるためには、そして、私たちのチームが強くなるためには点を取りに行かないといけない。レイアップまでのいろんなフィニッシュだけでなく、プルアップジャンプシュートや、ディフェンスに捨てられないための3ポイントシュートのフェイスアップなどについても、毎試合言い続けないといけないなと思っていました」

第3戦、町田は変幻自在なパスで仲間を動かしながらも要所で3ポイントシュートやレイアップを放ち、デンソーディフェンスに的を絞りにくくさせた。町田を「娘のような存在」と話すテーブスHCは「本当に勝ちたいと思った時…周りが大変な時とか、点が取れなくなる時は、この人はオフェンスでステップアップする。何よりもオフェンスですね、多分。そういうことを本人が気づくようになった。それは以前と全然違います」と話した。

町田瑠唯

移籍選手たちに支えられて育まれた自らへの自信

富士通一筋13年目、31歳のベテランポイントガードは今シーズン、もう一つ大きな変化を遂げた。記者に「自分の何が成長したから優勝できた、と言えるものはありますか?」と問われた町田は、次のように話した。

「このチームで絶対優勝できるっていう自信。信じることを改めて学んだと言いますか。今までももちろん信じてやってきてましたけど、今年は優勝を経験した人たち(ENEOSサンフラワーズで優勝を経験した宮澤夕貴、林咲希、中村優花)が多いっていうのもあって、そこは心強かったし、本当にありがたかったです。私より年下の選手ばっかりなんですけど、『ルイさん、やっていいよ』と常に声をかけてくれたので、今年は今までよりも自信を持ってやれた年なのかなと思います」

つまり、チームメートを信じられるようになったということかと確認されると、町田は「私自身のことを、ですね」と答えた。「もちろんみんなのことは常に信じてますし、自分は本当にみんながいての選手だと思ってるので。今年は自分のことも信じることができたかなと思います」

東京五輪で世界中を沸かせ、WNBAでもプレーしたスペシャルな選手が「自信がなかった」と言うのだ。記者が問い直したのもうなずける。『自分がいるチームを10年以上勝たせられていない』という事実は、どんなスターからも自信を奪わせる圧倒的な事実なのだろう。町田はこうも話していた。

「入団したころは(2007年の)優勝を経験してる先輩がいたんですけど、その先輩たちが抜けた後は本当に経験者がいなくて、私なりに必要であろうことを伝えてはきましたけど、伝えきれなかった印象はありました。宮澤選手、林選手、中村選手が優勝するために何が必要かってことを、しっかりみんなに伝えてくれてましたし、何より『このチームは優勝できるんだよ』って信じてくれて、みんなに自信を持たせるような声がけをしてくれてたことが大きかったと思います。 今年は特に、みんなが今までより自信を持ってプレーしたり、それぞれの役割を試合でも明確に出せていました」

町田が「自分のことを信じられるようになった」とコメントしたあと、キャプテンの宮澤がイレギュラーにマイクを取って明かした。

「町田選手って『優勝したい』とか『優勝できる』みたいなことを記者会見とかで絶対言わないんですけど、今年は『優勝する』って言い切ったので、『あ、ルイさん変わったな』って思いました」

頼もしい仲間たちに支えられ、町田は31歳にして自らの壁を破り、新たな世界を見た。これから代表選考が始まるパリ五輪を含め今後の進化がますます楽しみになった。