マイルズ・マクブライド

指揮官シボドーの信頼を勝ち取り、48分フル出場の選手に

ニックスのマイルズ・マクブライドは飛躍の時を迎えている。2021年の2巡目指名選手である彼は過去2シーズンのプレータイムが平均9.3分、11.9分と出番のない選手だった。それは今シーズンもつい先日まで変わらなかった。ニックスを率いるトム・シボドーは、ベストメンバーである先発の5人をできる限り長くコートに立たせるタイプの指揮官で、主力とそうでない選手でプレータイムに大きく差が出る。

今年に入ってRJ・バレットとイマニュエル・クイックリーの放出もあり、マクブライドの出場機会は少しずつ増え始めた。そしてある日、突如として彼はシボドーの『主力』となった。

ニックスはディフェンスとリバウンドでタフに戦うチームで、得点はジェイレン・ブランソンの個人技に依存するところが大きい。OG・アヌノビーはチームの特長を損なうことなく得点力も底上げできる良い補強だったが、肘のケガが長引いて2月以降はほとんどプレーできていない。ここをどう乗り越えるか、シボドーが試行錯誤して出した回答はマクブライドだった。

マクブライドは身長185cmの小さなガード。精力的に動いて相手ディフェンスをかき回し、クイックリリースで放つ3ポイントシュートが持ち味だが、これまではディフェンスの弱さから重用されなかった。シボドーがどこに重きを置くかを考えれば、この選択は理解できる。

しかし、ここでシボドーはブランソンとマクブライドを並べる『より攻撃的な布陣』を取り入れた。得点力を底上げするとともに、サイズによるディフェンスとリバウンドの低下には目をつぶる。ただ、相手のエースガードに対するハードワークを要求し、マクブライドはこれに完璧な形で応えた。

それが最高の形で表れたのが現地3月18日のウォリアーズ戦だ。マクブライドはステフィン・カリーをマークし、しつこく追い掛け回した。さらにオフェンスに転じればスペースからスペースへと休みなく動き続け、追うカリーが遅れれば3ポイントシュートを決めていく。この試合、マクブライドはキャリアハイの29得点でカリーの27得点を上回った。それだけではなくカリーは33分しかプレーしなかったがマクブライドは46分半プレー。カリーがベンチに下がった時にはクリス・ポールまで執拗にマークし続けた。

2月末のウォリアーズ戦では、欠場のアヌノビーに代わってプレシャス・アチウワを先発させたが、ウォリアーズのスピードに振り回されるばかりで完敗を喫している。それが今回はマクブライドを先発させる『より攻撃的な布陣』が見事にハマった。ニックスのファンは「まるでウチにスプラッシュ・ブラザーズがいるみたいだ」と大喜び。2人で63得点を挙げたブランソンとマクブライドのデュオにはそれだけのインパクトがあった。

そして現地3月23日のネッツ戦、マクブライドは交代なしで48分間を戦い抜き、26得点でニックスの105-93での勝利に貢献している。この試合ではブランソンのシュートタッチが悪く、フィールドゴール24本を放って7本とブレーキに。それでも26得点のマクブライドと31得点のドンテ・ディビンチェンゾの爆発力でロースコアゲームを制した。

プレータイムがもらえなかった長い時期をどう過ごしたか、マクブライドはこう語る。「練習を試合と同じだけ激しくやった。できることは何でもやって、個人トレーニングも誰より真剣にやる。自転車だって『ゲームライク』に漕いでいた(笑)。出場機会がないのはキツい。自分がチームに貢献していると感じられないのはキツいよ。でもチャンスは必ず来ると信じて、その時を絶対に見逃さないよう集中していた」

しかし、彼にとって『忍耐』の時間は2年半にも及んだ。NBAにはルーキーとしてやって来る全員がそれぞれ優れた才能を持っているが、『忍耐』できない者は脱落していく。マクブライドの『忍耐』はどこから来たのだろうか? 彼は笑顔でこう語る。「僕はバスケが大好きで、試合は好きだけど練習は嫌だ、とは思わない。試合に出れずに練習に打ち込んでいる時も、僕はそれを楽しんでいた。楽しめなければ限界に挑戦することはできないからね」

直近の3試合、彼のプレータイムは46分半、44分、48分と驚異的な数字になっている。ただその前のキングス戦は12分で、シボドーは彼を信頼しているものの『より攻撃的な布陣』を敷く際の手駒と考えている。ただ、マクブライドはそこに不満を感じることはなく「チャンスをもらえている今は、自分の努力が報われたと感じられてうれしいよ」と話す。

ただ、『攻撃的な選手』として見られるのは良くても、それとセットで『守れない選手』という評価が定着することを彼は懸念している。確かにサイズはないが、彼は自分を『守れない選手』だとは思っていない。カリーを抑え込んだパフォーマンスは偶然ではなく、自分本来のプレースタイルだと彼は信じている。「率直に言うと、僕はこのリーグに入った時から相手のエースを守る選手になるつもりだった。ステフに限らず、どのチームと対戦しても相手のエースガードをマークする。そういうディフェンスができることを誇りに思っているんだ」

サイズとウイングスパン、そして筋肉量を信奉するシボドーの認識を変えるにはもう少し時間が必要かもしれないが、ニックスファンはすでにマクブライドの真価を理解しつつある。