ニコラ・ヨキッチ

指揮官マローン「よりアグレッシブなチームが勝つ」

ナゲッツをホームに迎えたウォリアーズは、第3クォーターを44-24と圧倒して波に乗っていた。第4クォーター残り8分21秒にステフィン・カリーが3ポイントシュートを決めて、117-103とリードを広げる。この時点でウォリアーズは3ポイントシュート31本中15本成功と絶好調。カリーは12本中5本を決めつつ、相手ディフェンスを引き付けて味方の3ポイントシュートをお膳立てし、試合をコントロールしていた。技術だけに頼らないバランス感覚、バスケIQの高さもカリーのスターたる理由だ。

その後、ブランディン・ポジェムスキーのアシストを受けたカリーは左コーナーからナゲッツ守備陣の裏を突いてアタックし、ゴール下のイージーバスケットを決める。その数秒後、ニコラ・ヨキッチの気の抜けたパスをポジェムスキーがカットし、そのままレイアップへ。121-103となりナゲッツ指揮官のマイケル・マローンは怒りのタイムアウトを取る。チェイス・センターを満員に埋めた観客は、もうお祭り騒ぎを始めていた。

しかし、そのタイムアウトはナゲッツの反撃開始を告げるものだった。マローンは言う。「とにかく第3クォーターが悪かった。ウォリアーズは超アグレッシブで、我々は圧倒された。あの時点で壁際まで追い詰められ、それで『もうやるしかない』と開き直った。ウォリアーズのような才能あるチームとの対戦では、よりアグレッシブなチームが勝つ。あきらめてもおかしくない状況だったが、勝負が懸かっている時にどちらがアグレッシブだったか。我々だった」

ここから攻守にアグレッシブな姿勢でチームを活気付けたのは愛犬に噛まれての欠場から復帰して2試合目のアーロン・ゴードンであり、ルーキーのペイトン・ワトソンだった。ゴードンはこのタイムアウト以降、パワフルな突破から13得点を叩き出す。ワトソンは残り2分を切ったところで、この時間帯にはウォリアーズが打っても打っても決まらない3ポイントシュートをねじ込んだ。マローンは言う。「屈しない、あきらめない。何があってもロープから手を放さない。ポゼッションごとにその信念を持ち、ひたすら相手を止めてシュートを決める、フリースローを打つ。気付いたら12点差で、8点差、5点差だ」

ヨキッチがダリオ・シャリッチのマークなど存在しないかのようにジャンプシュートを沈め、残り26秒で127-127の同点に。そして次の攻め、落ち着いて1本取りにいったはずのカリーが、この時は自分で行くべきところをパスするなど本来の積極性を出せなくなっていた。逆サイドに振ったパスをジャマール・マレーにスティールされて、ポゼッションは再びナゲッツへ移る。ただ、マレーがボールを奪った瞬間にマローンはタイムアウトを要求したつもりだったが、ドリブルをついた後だと判定され、残り3.1秒で自陣からのリスタートとなった。

左のマレーは囮で、中央のヨキッチにボールを預ける。ヨキッチが逆サイドから駆け上がるコールドウェル・ポープへのパスを狙うか、自分で右にドリブルして3ポイントシュートを狙うのが、ナゲッツのデザインしたプレーだった。そして実際、その通りのプレーが行われた。ヨキッチにはケボン・ルーニーが付いていたが、間違ってもファウルはできない場面で、ほとんど妨害はしていない。約12メートルの距離があるシュートが入る可能性は決して高くはないはずだったが、マローンはこう振り返る。「リングとヨキッチの延長線上にちょうど私はいた。打った瞬間、入ったと思った。後ろにいたコーチも同じように叫んだ」

最終スコア130-127。あのタイムアウト以降27-4というビッグランは、ヨキッチの信じられないゲームウィナーで決着した。普段はどれだけ驚異的なプレーをしても平然としているヨキッチが、この時ばかりは喜びと興奮を爆発させてゴードンと空中で抱き合い、次の瞬間にはチームメートの歓喜の輪で見えなくなった。

それでも試合後のヨキッチはいつもの平静さを取り戻していた。決勝ブザービーターについても、彼は簡潔なコメントしか残していない。「ただ打っただけ。他の選択肢はないから、一番簡単なシュートだったよ」