「僕はキャリアを通じて、勝利を最優先にしてきた」
前半を終えて54-66。敵地でヒートと対戦したティンバーウルブズは、その少し前に最大17点差を付けられる劣勢にあった。ウルブズはスロースタートが課題で、4日前のマーベリックス戦でも前半に(試合開始からわずか3分で)15点のビハインドを背負っている。ただ、ダラスでもマイアミでもそこから盛り返し、逆転勝利へと持っていった。
ヘッドコーチのクリス・フィンチはチームのこの弱点を嫌っているが、ルディ・ゴベアは勝ったからこそ言えるジョークを飛ばした。「僕らは鼻先に一発パンチを食らわないと目が覚めない。もっとフィジカルに戦おう、そうすれば大丈夫だとハーフタイムに話し合って、実際にそうなった。最初からフィジカルに戦えればそれがベストだけど、そのためには試合前にチーム内で殴り合わないといけないかも(笑)」。昨シーズンの終盤、ゴベアはカイル・アンダーソンに守備意識の低さを指摘されたことに怒り、彼に殴ろうとしてチームメートに止められるという、チームの結束とはほど遠い醜態を見せた。これをネタにできると言うことは、今はチームがしっかりと結束しているということだろう。
ウルブズは激しさを前面に押し出すチームではない。ヒートはNBAで最も激しくタフに戦うチームで、そのリーダーであるジミー・バトラーは『ヒート・カルチャー』を体現するタフガイだ。そのバトラーはかつてウルブズに在籍し、自分の激しさを若手に植え付けるため、2018-19シーズン開幕前のチーム練習でチームメートを散々に打ち負かし、激しい言葉で罵倒した。ボロボロにされても立ち向かい、その中で成長していくタフガイぶりを求めるバトラーなりの檄だったが、ウルブズの選手たちはそれに応えなかった。この時すでにトレードを要求していたバトラーは、タフガイになれないチームに愛想を尽かし、セブンティシクサーズへと移籍している。
熱血漢を通り越して苛烈すぎるバトラーのやり方は当時こそ賛否両論あったが、シクサーズを経て加入したヒートで、チームと彼のカルチャーが見事に一致して2度のNBAファイナル進出という結果を出したことで完全に正当化されている。ここ数年、バトラーを擁するヒートが称賛を集めるのとは対照的に、ウルブズは勝者のメンタリティを持たないチームと見られてきた。その象徴がカール・アンソニー・タウンズだった。当時22歳、2015年のNBAドラフトで全体1位指名を受け、キャリア4年目を迎えようとしていたタウンズは、『バトラー事件』の時に散々やられた若手の一人だった。
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— Minnesota Timberwolves (@Timberwolves) December 19, 2023
勝ちたい気持ちはバトラーにも負けていない。タフに戦えないわけでもない。ただ、スマートなやり方があれば選択するのがタウンズのやり方だ。そして、この試合の重要な局面で、タウンズはバトラーを相手に自分の勝ち方を示した。ウルブズ1点リードで迎えた残り1分50秒からの攻め、タウンズはバトラーに1対1を仕掛け、肩で押し込むことでバトラーをよろめかせてスペースを作ると、冷静にジャンプシュートを沈めた。次のポゼッションではアンソニー・エドワーズの3ポイントシュートが外れると、そのリバウンドをバトラーの上で押さえる。そのままシュートに行かせまいと身体を当ててくるバトラーに怯まず、ヒートのディフェンスをよく見てゴベアへのアリウープを選択。クラッチタイムに2度に渡り、タフかつスマートにプレーすることでタウンズはバトラーを凌駕した。
「誰と対戦するかは関係なく、勝てば楽しい」とタウンズは言う。キャリア9年目を迎えた彼は、自分らしさを保ったまま成熟し、キャリアの全盛期を迎えようとしている。彼は余計な緊張感をチームに持ち込まず、『全体的に上手くやる』スタイルを続けている。同じドラフト全体1位指名のエドワーズとの間にライバル関係が存在しないのも、タウンズの性格によるところが大きい。エドワーズはこう言う。「自分のことよりチームの勝利。僕らを対立させようとする人は多いけど、みんなが思っている以上に僕らはよく会話している」
そしてエドワーズがタウンズを語るこの言葉は、タウンズのやり方をよく表している。「僕は難しいシュートを決める。そういうタイプの選手だ。でも彼は簡単そうに点を取る。そういうシュートに持っていくのが上手くて、僕はそれを見るのが大好きなんだ」
タウンズはチーム内における自分の役割を「太陽ではなくて、惑星の一つ」と彼らしい表現で語る。「僕はキャリアを通じて、勝利を最優先にしてきた。このチームができるだけ多くの勝利を得て、最高のプレーをする。そのために自分にできることは何でもやるつもりだ」
ゴベアへのアリウープは、タウンズ個人としてはバトラーへの最高のリベンジだったはずだ。それでもタウンズが気にしていたのはチームの勝利であり、チームが最高のプレーをすることだけ。彼は笑みをたたえてディフェンスに戻り、112-108で試合終了のブザーが鳴るまで気を抜かなかった。