須田侑太郎

今夏、FIBAワールドカップ2023における男子日本代表のパリ五輪出場権獲得は、歴史的な快挙として讃えられ代表選手たちは大きなスポットライトを浴びた。一方で名古屋ダイヤモンドドルフィンズの須田侑太郎は、大会直前に本大会12名のメンバーから落選を告げられる大きな悔しさ、喪失感を味わった。だが、須田は落選も含めて自分にとって貴重な経験ができたと振り返る。キャプテンを志願し、名実ともに名古屋Dのリーダーとなった須田に今シーズンへの意気込みを聞いた。

W杯落選で気づけたこと「まだまだ成長したいと思うハングリーさが自分にはある」

――トム・ホーバスヘッドコーチ体制の初期から代表活動に参加している須田選手ですが、最終選考でワールドカップのメンバー入りを逃す辛い経験をしました。ご自身にとってどういう夏でしたか?

すごくキャリアの中でも思い出に残るタフな夏だったと思います。ただ、得たモノは本当に多くありました。今年に限らずトムさんの体制になってからずっと代表チームでプレーさせてもらったことで、結果としてワールドカップのメンバーに残ることはできなかったですが、選手として大きく引き上げてもらいました。メンバー入りできたらベストでしたけど、残らなかったことで学べたこと、得られたモノはたくさんありました。だから今はこの経験を無駄にせず、パリ五輪出場のチャンスもあるので、毎日自分ができることを一生懸命やって成長を続けていきたいです。

――残れなかったことで得られたモノについて、具体的に教えてください。

今年32歳と、ベテランになっていく中で厳しいメンバー選考の競争によって精神的にギリギリまで追い込まれる。そして厳しい現実を突きつけられる経験をすることはあまりないと思います。ギリギリの中で戦って悔しい経験をしたからこそ、まだまだ成長したいと思うハングリーさが自分にあると強く感じることができました。

苦しい時にどうやって自分を奮い立たせて乗り越えていくのかについて、すごく自問自答する時間が多かったです。これは厳しい状況の中でしかできないことで、それをできたことは今後のバスケットボール人生だけでなく、引退してセカンドキャリアを始める時にも生きる。自分の内面の深いところを見つめることができたのは、これからのためにも良かったと思います。

――天皇杯2次ラウンドでは、いつも通りの安定したパフォーマンスでチームの3次ラウンド進出に貢献していました。しっかりと気持ちを切り替えて、心身ともに状態を上げていくのは大変ではなかったですか。

切り替えには少し時間がかかりました。コンディションがなかなか上がってこなくて、思い通りのプレーをずっとできずに苦しみました。(代表メンバーから離脱した後は)すごく喪失感というか、燃え尽きた感覚がありました。このままだと特にメンタル的に厳しいと感じていたので、チームに合流する前、2週間くらい本当に何もしない時期を過ごして自然とエネルギーが湧いてくるのを待っていました。その中でワールドカップの試合を見たりして、少しきっかけがあって今はすごく良い状態になっています。

須田侑太郎

「代表活動で自分を大きく引き上げてもらった感謝の気持ちが第一にあります」

──日本代表の活躍を心から願う一方、大きな喪失感があったのは間違いない訳で、ワールドカップの試合を見たくない、といった気持ちにはならなかったですか。

僕の場合は、本当にやり切ったという自負がありました。もちろん自分の最高のパフォーマンスは出せなかったですけど、そのための過程において死力を尽くしたと胸を張って言えます。もちろん落選は辛かったですが、ある意味で清々しい気持ちでもありました。それに先ほども言いましたが、代表活動で自分を大きく引き上げてもらった感謝の気持ちが第一にあります。だからこそ、代表チームが結果を残してくれたことは心から自分のことのようにうれしかったです。代表の活躍には100%ポシティブな思いしかなかったです。

――今は気持ちを切り替えて、トムさんにパリ五輪代表のリストから自分を外させないプレーを見せるといった思いですか。

そういう思いもあります。何より自分の主観で言えば、仲間がパリ五輪へと繋げてくれました。これからは五輪出場に向けて、いつもと同じですが先を見過ぎずに日々、自分のできることを積み上げていく。その結果として、来年の夏の代表合宿に呼ばれて自分のパフォーマンスを発揮できる準備をしていきたいと思っています。

――今シーズンの名古屋Dですが、開幕直前になってスコット・エサトン選手がインジュアリーリスト入りし、走力が持ち味のエサトン選手とは異なり、名古屋Dのアップテンポなスタイルとは違った部分を強みとするジョシュア・スミア選手が加入しました。彼のフィット具合についてどんな感触ですか。

やりやすいですし、フィットしていると思います。僕たちは昨シーズンも故障で途中から新しい外国籍選手が入ってきた経験があります。その都度、アジャストしてしっかり結果を出してきたので心配はしていません。実際、天皇杯で一緒にプレーしてみて、2つのチームがあるような面白い戦いができると感じています。スミス選手がいる時はスローテンポで守備ではゾーンを使いつつ、オフェンスでは彼を起点とすることができます。一方でロバート・フランクス選手、ティム・ソアレス選手の2人が揃ってコートに立つ時はよりアップテンポなバスケットボールができます。2つの真逆な戦い方ができるのは、僕が相手だったらすごくやりづらいと思います。相手によって大きくスタイルを変えられるのは強みで、そこに不安要素はまったく感じていません。チーム全員が手応えを得ていると思います。

須田侑太郎

「今シーズンは優勝して、悔し涙をうれし涙に変えていきます」

――過去2シーズン続けて、名古屋Dは故障者に苦しみながら勝ち星を積み重ねチャンピオンシップ出場と高いチーム力を見せてきました。ただ、チャンピオンシップでも2年続けて多くの主力が欠場する戦いを強いられ初戦で敗れています。

過去2シーズン続けてケガに泣いているので、そこに対するアンテナみたいなものは常に張っています。オーバーワークによる故障は間違いなく減ってくると思います。不運な怪我もありますが、防げるものはしっかり防いでいかないといけないです。ただ、仮に怪我人が出ても勝てることはこれまでに証明しています。いろいろな選手が故障した選手の穴を埋め、全員でカバーしながら戦えるのが自分たちの良さです。

――昨シーズン、チャンピオンシップの初戦で琉球ゴールデンキングスに負けた後、涙がこぼれていました。やりきって届かなかった悔しさ、それとも故障者が多くてやり切れなかった悔しさ、どちらの涙でしかたか。

どっちも混在しています。ケガ人を言い訳にせず最後まで戦い抜けたことへのやり切った思いはありますが、それ以上にベストメンバーで戦えなかったこと。昨シーズンはキャプテンではなかったですが、チームリーダーとして最後の最後でまとめきれなかったなど、やりきれなかった思いの方が大きいです。今シーズンは優勝して、悔し涙をうれし涙に変えていきます。

――あらためて、今シーズンへの意気込みをお願いします。

昨シーズンを通してドルフィンズは、大きな熱量を持ったチームであることを示せた思います。今シーズンは、それを最初から体現していきたいです。優勝することに加え、もっとドルフィンズとしてバスケットボールで名古屋を盛り上げていくことも目標です。皆さんが熱いモノを感じ、誇りに思うチームにしていきたい。その思いからキャプテンを志願しました。ただ、勝つだけでなく、自分たちの大切にしているモノをしっかり伝え、皆さんにより愛されるチームになって優勝することが最高の形です。

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