B1の強豪に勝利「良い成長の過程にあると思います」
9月16日、越谷アルファーズはプレシーズンで横浜ビー・コルセアーズとのアウェーゲームを行い82-72で勝利した。出だしこそ横浜BCに先行を許した越谷だが、ベンチスタートから18得点6リバウンド5アシストを挙げたLJ・ピークの爆発で試合の流れを変える。前半を互角の展開で終えると、第3クォーターにトランジションからのペイントアタック、さらに相手ディフェンスを収縮させての3ポイントシュートと内外バランスの取れたオフェンスを展開。28-15のビッグクォーターを作り出して抜け出すと、そのまま横浜BCの反撃を抑えて逃げ切った。
プレシーズンマッチはあくまで練習試合であり、ともにスカウティングなど相手の持ち味を消すための策を講じているわけではない。だからこそ越谷の安齋竜三ヘッドコーチは、勝ったことに大きな意義を見い出していない。それでも、B1でも前評判の高い横浜BC相手に、自分たちのやりたいプレーを遂行できたことには手応えを感じている。
「今は練習でもやりたいことができている時と、できていない時の差が激しいです。プレーの基準をどんどん上げていこうと毎日トライしているところです。その中で横浜さんのようなB1の強いチームを相手に、自分たちのプレーを出せたことは自信になります。(結果を出すことで)自分たちのやっていることが正しい、それをやらないといけない思いが強くなります。良い成長の過程にあると思います」
このように試合を総括した安齋ヘッドコーチにとって、今シーズンは約1年ぶりの指揮官復帰となる。2021-22シーズンに宇都宮ブレックスをB1王者に導いた後、昨シーズンは越谷のアドバイザーとして一歩引いたところからチームに関わってきた。しかし、レギュラーシーズンに45勝15敗の好成績を残しながらチャンピオンシップのクォーターファイナルで敗れてB1昇格を逃すと、今シーズンは指揮官就任と、戦いの最前線に立つことを選択した。
B1の宇都宮とB2の越谷、チームの規模や選手のタレントレベルなどいろいろな部分で違いはあるが、その中でも最も大きいのはチーム文化の有無だ。宇都宮においては安齋がアシスタントコーチからヘッドコーチへと昇格する時、すでに『ブレックスメンタリティ』と呼ばれるハードワークと自己犠牲を根幹とした確固たるモノが存在していた。しかし、越谷では、「まずはチーム文化を作るところがあります」と、ゼロからのスタートとなる。
「結果が出れば、それなりにチーム力は上がっていくと思いますが、僕にとって新しいチャレンジです。これまでブレックスでやってきた選手たちと個々のタイプも違います。どういうオフェンス、ディフェンスをやればいいのか。今日もいろいろなディフェンスをやりましたが、うまく対応し切れなかったのは僕の責任です。大変な挑戦ですが、一方で面白いですね。まず、良いチームを作っていき、最後に結果がついてくるイメージです」
LJ・ピークの活躍の鍵を握る井上宗一郎「LJと井上はセットで起用する考えです」
まだまだ開幕に向けて様々な組み合わせを試している段階だ。それでも今シーズンの越谷の大きな特徴となりそうなのが、外国籍スコアラーのピークを3番ポジジョン、日本代表のビッグマンである井上宗一郎を4番ポジションのセットで起用することだ。
安齋ヘッドコーチにとって、ピークはかつて宇都宮で一緒に戦った旧知の仲で、彼の特徴をよく知っている。また、「B2ならではの難しさは去年、まぁまぁ感じました。それでLJに来てもらったところもあります」と語るように、ピークは今シーズンの越谷において大きな鍵を握っている。そのピークの持ち味をより発揮するためには3番で起用する必要があり、そうなると井上も重要な役割を担う。
安齋ヘッドコーチは言う。「LJと井上はセットで起用する考えです。どちらかというと、LJはオフェンスにフォーカスしているので、ディフェンスではそれなりのポカ、疲れてリバウンドに行けないことが今日もありました。そこをちょっと許容しなければいけないと考えると、井上にはよりディフェンスを頑張ってもらう方向になると思います。他に日本人ビッグマンもいないですし、LJと一緒に井上を出すのが今の方針です」
今日のプレシーズンでもピークの出場時間は27分8秒、井上は26分14秒で2人は、ほぼ一緒にプレーしていた。昨シーズンはなかなか出場機会に恵まれなかった井上だが、指揮官は井上を主力に組み込んだチーム作りを推し進めている。ただ、一方で進化なくして出場機会は保証されないと愛ある厳しさも見せる。
「課題はいっぱいあります。正直、外国籍とマッチアップして、インサイドを攻めて来られたら1対1で守り切れなかったり、リバウンドを取り切れない部分はあります。本来ならオフは基礎を重点的に鍛える時期ですが、代表活動に参加していたので、井上はそれが十分にできなかったです。これからの彼は、厳しいシーズンの戦いをこなしつつ、基礎を上げていかないといけない。ここから上がっていかないと、パリ五輪には呼ばれないくらいの感じだと思います。それは彼が自覚しないといけないところですし、僕らも自覚させないといけないです」
「強みの3ポイントシュートだけでなく、ディフェンスもしっかりこなせてリバウンドも取れる。彼がそうなっていくためには、ある程度の時間は必要だと思います。ただ、彼には『良ければ使うけど、いつまでもプレータイムはあると思うな』と言っています。しっかり成長していってほしいです」
「良い選手ばかりですし、僕の叱咤激励にも耐えながら成長しています」
前任の宇都宮はB1でも屈指のタレント集団だった。そこからB2の越谷となれば、選手の能力が落ちるのは否めない。ただ、安齋は「コツコツと積み上げていかないといけないですが、目指すものはブレックス時代と同じです。そこは変えることはないです」と妥協することはない。だからこそ、モチベーターとして選手の力をいかに引き出していけるかにも神経を使う。
「どうやって選手たちのモチベーションを上げ、思いっきりプレーをさせてあげることができるのか。今は練習でめちゃくちゃキレているので、試合では自信を失うなと話しています。でも、試合中にやるべきプレーができていない現象が起きるとイラッとするので、抑え切れない時もありますけど……(笑)」
B1の優勝経験を持つヘッドコーチなため、安齋にはB1昇格は最低限のノルマといった大きな期待が寄せられている。もちろん、B1昇格は簡単なことではない。ただ、これまで幾多の修羅場を乗り越えて来た指揮官は「何を言われてもあまり気にならないです。プレッシャーはあるのが当たり前、結果が出なかったらもちろん僕の責任なので、それを取るだけです」と腹を括っている。
そして、次のように意気込んだ。「目標は高い位置にありますが、高みだけを見ることはないです。目標に辿り着くまでの過程をどう作っていくかが挑戦です。良い選手ばかりですし、僕の叱咤激励にも耐えながら成長しています。そしてファンの皆さんがいっぱい来てくれて今日みたいな満員の会場でやるのが僕らの目標の1つです。認知もまだまだなので、メディアさんにもたくさん来てもらわないといけないです。みなさんと共に頑張りたいのでよろしくお願いします」
右肩上がりで成長を続けているBリーグだが、B1とB2では成長速度に差が生まれてきつつある。観客動員の伸びに関しても、B1と比べるとB2は苦戦しているチームが少なくない。こうした状況で、越谷がB2からでも大きなムーブメントを起こせるか。B1優勝の実績と愛のある叱咤という明確なキャラクター、その発信力の高さから安齋ヘッドコーチには競技面だけでなく、ビジネス面においても大きな期待が寄せられている。