吉井裕鷹

チーム5位の平均20.6分出場が示すホーバスHCの高い信頼

FIBAワールドカップ2023、日本代表はグループリーグを1勝2敗で終えると、順位決定戦ではベネズエラ、カーボベルデを相手に連勝を達成。通算3勝2敗でアジア1位となりパリ五輪への切符をつかんだことで、男子日本代表は新たなステージへと到達した。

今回、日本のインサイドは渡邊雄太、ジョシュ・ホーキンソンの2人に大きく依存した。特に80-71で競り勝ち、歴史を作ったカーボベルデ戦は2人とも40分のフル出場だった。もちろん、彼らの献身に大きく助けられたことは間違いないが、チーム全員にリバウンドやルーズボールへの高い意識がなければ今回の快挙は生まれなかった。

スタッツには残らないが、堅守の屋台骨となるハードワークにおいて輝きを放ったのが吉井裕鷹だ。サイズの不利を補い、持ち味の機動力を生かすため、日本代表は前から激しくプレッシャーをかけるディフェンスを重視する。そして吉井は3番、4番ポジションで、世界の屈強なフォワード相手に当たり負けしないディフェンダーとして奮闘した。

今大会、吉井のスタッツは1試合平均2.2得点、2.2リバウンド、1.6アシストと目立つところはない。だがチーム5位の平均20.6分の出場が、トム・ホーバスヘッドコーチの信頼の厚さを物語っている。カーボベルデ戦の第4クォーター、日本はオフェンスがまさかの失速となり、残り2分48秒にようやく初得点と悪夢の逆転負けがよぎるような展開となった。それでも逃げ切れたのはこのクォーターで16失点に抑える守備の踏ん張りがあったからで、吉井はこのクォーターで約6分半に渡ってプレーと我慢の日本ディフェンスに大きく貢献した。

「とにかくうれしいの一言です。2次ラウンドには行けなかったですが、パリ五輪の出場権を獲得できたことは夢みたいといったらあれですけど、日本開催でこうして勝てたことは幸せです」

こう喜びを語る吉井は、2得点3リバウンド3アシストとスタッツ的には地味だが、渡邊、ホーキンソン、河村のエース格に次ぐ24分46秒出場と持ち味全開だった自身のプレーを次のように振り返る。「タバレスという大きい選手にバスケット・カウントを取られましたが、守れる部分は守りきったと思います」

吉井裕鷹

「アルバルク東京の時から求められているディフェンスを5試合通して遂行しきれたと思います」

ホーバス体制が2021年秋に発足した後、2022年夏に若手の有望株が集められたデベロップメントキャンプが行われた。ここから抜てきされて代表に定着したのが吉井、河村勇輝、井上宗一郎だ。様々な武器を持った選手をパズルのピースのように組み合わせてチームを作るホーバスの考えの中、守備職人として確固たる個性を持つ吉井は存在感を高めていった。そして、アジアと比べ、対戦相手のサイズ、フィジカルが段違いとなるワールドカップにおいて、彼のタフさはより重宝された。

1年前、楽しみな若手の1人にすぎなかった吉井だが、今は48年ぶりの自力五輪を決めた代表の主力メンバーの地位を確立した。この飛躍の根幹となっているのは、「アルバルク東京の時から求められているディフェンスを5試合通して遂行しきれたと思います」と所属チームでの日々の活動にあると語る。また、「とにかく練習中から体をぶつけあい、練習から切磋琢磨しあったイメージです。なんなら練習の方が、試合より激しかったイメージでした」と普段のハードワークの成果を出せたと続ける。

これから束の間の休息を経てBリーグが始まる。アルバルク東京は、吉井と同じ3番ポジションにブラジル代表のレオナルド・メインデルを獲得と、代表以上の激しいポジション争いが待っている。だからこそ、A東京でしっかりした居場所を確保できれば吉井はさらなるレベルアップを果たせ、パリ五輪出場にも繋がっていく。

「アルバルクに戻っても、自分にどういった仕事を与えられ、何を求められているのかを常に理解してプレーできればパリ五輪への道が拓けると思います」こう語った吉井は、渡邊雄太、ジョシュ・ホーキンソンと代表を支えたビッグマン2人との共闘で学んだ部分をこう語る。「2人は勝ちに飢えていますし、しっかりとオフェンスに絡めています。そこは僕の成長できる部分だと思います」

これから吉井が、A東京でどんな進化を見せてくれるのか。それはA東京の命運だけでなく、パリ五輪における日本代表の行末にも少なくない影響を与える。