文=鈴木健一郎 写真=本永創太

自然体で試合に入り、勝つために最善を尽くし、勝利する

オールジャパン4連覇。終わってみれば危なげない勝利だった。昨日の決勝戦、ヘッドコーチのトム・ホーバスは富士通レッドウェーブの底力を警戒し、最初から最後まで警戒心を緩めることなく戦い切ったが、渡嘉敷来夢はまた違うアプローチで試合に臨んでいた。

「こういう言い方はあまり良くないのかもしれませんけど、ビデオを見て『勝てる』と思いました。1対1で来る印象が強かったので『1対1なら負けない』と。自分たちがやってきたことをちゃんとやれば勝てる相手だなっていうのがありました」

もっとも、アプローチは違えど油断はなかった。「自分たちも去年以上に一人ひとりが自信があるので大丈夫です」と渡嘉敷は言う。自然体で試合に入り、勝つために最善を尽くし、そして勝利する──まさにJX-ENEOSと渡嘉敷の『完勝』だった。

他のチームが『打倒JX-ENEOS』を掲げて強化に励んでいるにせよ、自分たちもレベルアップしているので負けない、というのが渡嘉敷の論法だ。「JXはメンバーはほとんど変わってないですが、個々がスキルアップしています。アース(宮澤夕貴)が去年と比べて化けていたり、新しいポイントガードの藤岡(麻菜美)が入ってきたり。またそれに負けたくないという選手も増えてきて。そうやってレベルが上がるんだと思います。負けず嫌いの集団であることが、チーム全体がレベルアップするところなのかなと思います」

もう日本では『綺麗なバスケット』はできないと思いました

だがその一方で、渡嘉敷は自分自身のレベルアップが話題になると「まだまだですよ」と控え目だ。「唯一変わったことは、結構ボールに飛びつくようになったかな。去年よりもリバウンドは多いかもしれません。すごくマークされるので、もう日本では『綺麗なバスケット』はできないと思いました。すごくマークされていたら綺麗には点は取れません。だからオフェンスリバウンドのポジション取りから争って。その1対1で取るしかないと思っています」

その言葉通り、渡嘉敷はオフェンスリバウンドを取ってのゴール下、という泥臭い得点を積み上げた。準決勝のトヨタ自動車アンテロープス戦では6つ、決勝では9つのオフェンスリバウンドを記録。「今日はポストアップもしたのですが、昨日は本当にオフェンスリバウンドだけで点を取ったという感じで。綺麗な形では打てなかったんですけど、良いところで1本外が決まったので、それは自分としてはまあまあかな」

決勝では32得点18リバウンドという突出したスタッツを残したが「チームが優勝することに貢献できたので、それは良かったかな」と一定の評価はしつつも、それでも満足はしていない。2ポイントシュートは26本打って13本決めているが、それについて「もったいないミスもいっぱいありました。50%しかない、と自分では思うんです。50点は取れました」と言う。

その飽くなき向上心はどこから来るのだろうか。そう質問すると、渡嘉敷はサラリとこう答えた。「自分は日本で活躍することがゴールではないので。日本でトップにいることはスタートラインでしかないので、だから頑張れると言うか、向上心が生まれるのかなと思います」

JX-ENEOSと日本代表のエースはオリンピックとWNBAで『世界』を知り、そこに向けて飽くなき挑戦を続ける。オールジャパンは見事に優勝で幕を閉じた。コートネームどおり「タクましい」渡嘉敷の挑戦は続く。