「ディフェンスは自分の良さでもあるし、譲れない部分です」
バスケットボール男子日本代表は8月2日に行われたニュージーランド代表との強化試合を79-72で制した。第1クォーターで17-29と大きく出遅れた中、見事な逆転勝利を収められたのは、第2クォーターに入って守備の強度を高めることができたからに尽きる。特に河村勇輝、原修太と共に須田侑太郎の激しいディフェンスは、試合の流れを変えるのに大きく寄与した。
須田はこのように試合を振り返る。「出だしでリードを奪われるタフな試合でした。韓国戦に引き続き今日も劣勢の中での出場でしたが、チームにエナジーをもたらす、流れをこちらに引き込むところは自分の役割の一つです。気持ちをしっかりと入れ、チームとして守備のトーンをしっかり上げていく心意気でプレーしています」
振り返れば、7月23日にアウェーで行われた韓国代表との強化試合2試合目も日本代表は出だしでリードを許した。それでも、セカンドユニットが堅守で流れを引き寄せたことで逆転勝利へと繋げた。この時も須田の守備は光り、2試合続けてディフェンスでインパクトを与えたことになる。
現在、日本代表の参加メンバーは15名にまで絞られ、12名のロスター決定の最終段階を迎えているが、須田は当落線上にいる1人だ。生き残りへ向け、最後のアピールが求められるが、今の彼は「シュートを決める、決めないに関係なく、ディフェンスにフォーカスし、守備に振り切ってエナジー全開でやっています」と語る。
トム・ホーバス体制の日本代表において、3ポイントシュートは最重要事項の1つだ。須田も代表定着の大きなきっかけとなったのは長距離砲だった。アジアカップ2022のシリア戦において、3ポイントシュートを12本中9本成功させる大爆発で、代表のキャリアを切り拓いてきた。
そういった背景がある中でも、ディフェンスファーストを心がけているのは次の思いからだ。「常に崖っぷちの状態でシュートに一喜一憂していると、精神的にもなかなか難しいという気持ちがあります。そして、自分の持ち味を再確認した時、ディフェンスは良さであり譲れない部分です。一つディフェンスに絞って集中することで、いろいろと好循環になっていく。それを今までバスケットボールをやってきた経験上、感じています。初心に立ち返るではないですが、ディフェンスでリズムを作ることが必要不可欠だと思ってやっています」
「例え残れずとも、自分ができることはすべて置いてきたという思いで去りたい」
ホーバスヘッドコーチも「須田は激しいオンボールディフェンスをよくやっていました」と、好評価を与えたが、須田は守備において特に受け身にならないことを意識しているという。
「いかに先手を取るか、それができれば相手のやりたいことをなんとなく感じられます。逆に後手に回ると、相手に好きなことをやられてしまう傾向があります。駆け引きの中でも常に自分が先手を取りにいくアプローチができれば、今日みたいなディフェンスになっていきます」
また、この試合でも目立ったのは積極的に味方に声をかけ続け、好プレーに対して手を叩くなど、チーム全体の士気を高めていく姿勢だ。これは所属する名古屋ダイヤモンドドルフィンズでは馴染みの光景だが、「チームを同じ方向に巻き込んで一つにしていく。そして自分のスイッチを入れ、鼓舞する意味合いでもすごく大事な行動の一つと思っています」と、ルーティンとして大事にしている。
今回の強化試合を前にした公開練習において、ホーバスヘッドコーチは8月15日のアンゴラとの強化試合終了後に12名を決定し、17日のフランス戦、19日のスロベニア戦を戦って本大会を迎えたい考えを示している。須田はアピールの機会が残り2試合となったことについて「結果は僕がコントロールできるものではないので、特に意識はしていないです」と言う。そして次のように完全燃焼することだけを考えている。
「自分がやり切ったと胸を張って言えるプレーを心がけていきたいです。その結果、最終ロスターに残ることができれば素晴らしいですが、例え残れなかったとしても自分ができることはすべて置いていきたという思いで去りたい。今は常にメンタル的にもタフですし、ストレスがかかる状況ですが、そこだけはブラさずにやっていく。本当に毎日ベストを尽くすことだけを考えています」
ディフェンスに加え、3ポイントシュートも昨日の試合では2本を決め、シュートアテンプト自体も6本としっかり打ち切れている。対戦相手のサイズ、フィジカルが向上するなかで、より存在感を増していることは明るい材料だ。現在31歳とベテランの域に入っている須田だが、東京五輪が終わるまで代表とは無縁だった。それがホーバスヘッドコーチに見い出されたことで、フル代表でのFIBA国際試合出場は13にまで達している。彼が本大会への切符をつかみ、一つの大きなサクセスストーリーを完結させるのか。代表争いはいよいよクライマックスを迎える。