デビン・ブッカー

スターパワーをかき集め、チームの戦力バランスが激変

サンズはスパーズへキャメロン・ペインを送るトレードを決め、これで2021年のNBAファイナルに進んだメンバーはデビン・ブッカーとディアンドレ・エイトンだけとなりました。長く低迷していたチームがドラフトを中心に戦力を強化し、優勝を争えるチームへと成長したと思ったら、今度は戦力と未来のドラフト指名権を使ってスーパースターを集めたパワーハウスを形成してきました。積み上げてきた連携よりも、個人能力を信じるスタンスが明確に出ています。

今オフのサンズの動きを振り返ると、まずヘッドコーチにフランク・ボーゲルを迎え入れました。これはディフェンスの立て直しと柔軟な戦い方へのシフトを目指したと思われましたが、続いてクリス・ポールを放出してブラッドリー・ビールを手に入れるトレードを実行し、ブッカー、ケビン・デュラント、エイトンという豪華なカルテットを形成しました。スターパワーをかき集めたことで、サラリーにしてもポジションにしてもチームの戦力バランスは大きく変化しました。

フリーエージェントが解禁になると渡邊雄太を含め、サラリーの安いロールプレイヤーを一気にかき集めました。フリーエージェント序盤はチームの基盤となる選手と契約していくのが普通ですが、すでに核が決まっており、サラリーキャップに余裕がないサンズならではの素早い動きでした。ただ、ディフェンス面の補強といえるのは渡邊とケイタ・ベイツ・ジョップくらいで、どのようなチームにするのは読みづらい現状です。

その後にベテランのエリック・ゴードンやボル・ボルを獲得。オフェンシブかつ個人技で点を取っていくタイプが増え、さらにペインのトレードによりポイントガードは削られました。『積み上げてきた連携』どころかパサーそのものを不要とし、コンビプレーよりも個人技で構築する考え方が見て取れる動きです。

プレーオフではブッカーとデュラントが個人技で仕掛け、ディフェンスが寄ってくればパスを出してアシストを記録しており、この考え方が絶対的に間違っているわけではなく、ビールも加わったことで個人技の起点は増え、それぞれの負担が減ることでチームとしてのクオリティが上がる可能性も十分にあります。

しかし、二コラ・ヨキッチを中心として一つのプレーに3人以上が絡むチームオフェンスのナゲッツに負けたプレーオフでは、1試合あたりのパス数で40本もの差が出るなど、個人技とチームオフェンスの対比が明確に出ていました。ヨキッチのパス能力から次々と生み出される効率的なプレーを目の当たりにしながら、個人技の割合を強めるというのは驚きの方向性です。

しかも、どんなチームも欲しがる決定力を持つデュラントと、そのデュラントすらしのぐ成功率で1on1を決めたブッカーは『リーグ最強の個人技コンビ』と言っても過言ではなく、ボールをシェアすることでチームとしての効率が落ちる可能性すらあります。長いシーズンを戦う上でバックアップは欠かせませんが、まさかビールをバックアップ役とするはずもなく、指揮官のボーゲルはスーパースターのプライドを傷つけることなく、一つしかないボールをシェアする方法を考えなければいけません。

圧倒的な火力と分厚いスーパースター陣はシーズンの戦いを楽にしてくれるはずです。昨シーズンのサンズはケガ人が続出しており、アップダウンの激しいシーズンになりましたが、ブッカー、デュラント、ビールのうち1人でも試合に出れるならば十分に戦えるはずです。ただし、そんな状況が続くとケミストリーを作り上げられないままプレーオフへと突入し、個人技の限界を示すことにもなりそうです。

ファイナルまで進んだチームを大きく変更したのは目標が『優勝』だけだからで、レギュラーシーズンでの好成績は何の意味も持ちません。プレーオフで個人技の割合が高くなるのは事実ですが、それは高いチーム力があるからこそ個人技が違いを生み出すのであって、個人技主体で勝ち抜けるものではありません。スーパースターを集めたチームがケミストリー構築に失敗して崩壊するケースが続く中、サンズは成功を収められるのか。良くも悪くも新シーズンで最も注目すべきチームになりました。