木下七美

文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

相手の特長を出させないディフェンスが機能

ウインターカップは今日からセンターコート、女子では準決勝の2試合が行われた。岐阜女子は県立津幡と対戦。安城学園を皮切りに強豪校を続々と打ち倒してきた津幡には勢いがあったが、岐阜女子は安江満夫コーチの言う「相手の特長を出させないディフェンス」が機能。立ち上がりから大差を付け、そのまま勝ち切った。

それでもゴール下の大黒柱であるハディ・ダフェがコンディション不良でベンチにも入らないという状況、もう一人の留学生、184cmのイベ・エスターチカンソには立ち上がりからダブルチーム、トリプルチームの厳しいマークが仕掛けられる。ただ、岐阜女子はこれに即座にアジャスト。ツインガードの木下七美がボール運びを担当し、池田沙紀がスコアラー役となり得点を重ねる。池田に外から連続得点を許したことで、イベへのダブルチームを続けられなくなると今度はインサイドにボールを集め、ゴール下のイベの1on1でリードを広げていく。

県立津幡のトランジションオフェンスの要はポイントガードの高本愛莉沙。彼女のドライブから起点を作らせないために、ドライブのタイミングとコースを読み切って飛び込むきっかけを与えない。速い展開の攻めもハリーバックで対応し、第1クォーターで28-12と圧倒する。

高本、さらには赤穂かんなに思い切りの良いアタックで得点を許しても、岐阜女子のディフェンスの遂行力は落ちず、反撃を単発で終わらせる。逆に速攻から島田望歩、佐藤ももの3ポイントシュートが連続で決まり、第2クォーター半ばにして38-18と20点差に。

木下七美

「去年の3年生の涙は一日も忘れられなかった」

後半に入って県立津幡は、センターの中道玲夏がイベを1on1で止めるようになったのを機に持ち味である速い攻めが機能し始める。高本がスティールからのワンマン速攻を決めて35-49。それでも岐阜女子は走りが自慢の県立津幡に走り負けず、抜け出されてもプレッシャーを掛け続けてイージーシュートを許さない。

最終クォーター残り6分半、ダヴィ不在で出ずっぱりだったイベが足を痛め、さらに個人ファウル3つ。これを機に県立津幡が猛烈に巻き返すも、56-79から追い付くのは難しかった。岐阜女子は最後まで試合をコントロールし続け、86-70で完勝を収めている。

安江コーチによれば、ハディ・ダフェの欠場は「大事を取って休ませた」とのこと。ただ、昨年のウインターカップでの岐阜女子は、留学生センターのバイ・クンバ・ディアサンがひざを痛めるアクシデントに見舞われた。これでチームが動揺し、良いところなく敗退を喫している。インサイドの大黒柱を欠くことが平気なはずはない。だが、ここで力を発揮したのが1年前の悲劇を先発として経験している池田沙紀と木下七美だ。

木下は言う。「池田選手と私はそれを経験して悔しい思いをしているので、『こういう時こそ私たち2人で点を取らなくてはいけない』と話しました。もうあの悔しい思いはしたくない。毎日毎日、去年の3年生の涙は一日も忘れられなかったので」

木下七美

「明日は何が何でも絶対に自分が出て行くつもりで」

その木下は前述の通りボールハンドラーとして県立津幡のプレッシャーをはねのけ、持ち前のエナジー全開のプレーを披露。ガードながらイベと並ぶ10リバウンドをもぎ取り、さらにはゲームハイの6アシストも記録。文字通り身体を張ったプレーでチームを引っ張った。

「去年はクンバさんや石坂(ひなた)さんが攻めて、私は何もやっていなかったんですけど、今はドライブもできるようになって、それが自信になっています。あとは気持ちの部分で動揺しない、焦らないようになりました。みんなが焦っている時にも『自分が落ち着かせよう』と考える余裕が持てるようになりました」

木下はそう言うが、実際のところ去年の時点で身体を張ったオールラウンドなプレーには光るものがあった。そこにボールハンドリングとドライブが加わり、3年生になって精神的にもタフになった。木下はガードとして大きく成長している。

ハディもイベも、100%のコンディションで明日の決勝に臨むことは難しいかもしれない。だが、去年の悔しさが彼女たちの強さになっている。日本一まであと1勝。きっと明日のコートではガンガン仕掛けて攻守にファイトする木下の姿が見られるはずだ。「明日はプレッシャーを掛けられても、何が何でも絶対に自分が出て行くつもりでやります」と木下は気合い十分。悔しさをバネに成長した岐阜女子が、ファイナルに挑む。