県立津幡

文=鈴木健一郎 写真=日本バスケットボール協会、野口岳彦

「やってやるぞ、という気持ちでした」

ウインターカップ大会2日目、昨年のファイナル進出チームである安城学園が敗れた。県立津幡の東山耕平監督は「組み合わせを見た時は『ここが来るか』と思いました」と苦笑を漏らす。

それでも、選手に聞くとニュアンスが異なる。「安城学園と決まった瞬間、うれしかったです」と言うのは2年生ポイントガードの高本愛莉沙だ。安城学園は東海大会の優勝チームだが、自分たちいは北信越大会の優勝チーム。同じ優勝チームとして、必要以上に相手を格上に見ることなく、「やってやるぞ、という気持ちでこの試合に臨みました」と話す。

サイズでは安城学園が上、しかも相手は野口さくらという大会屈指のスコアラーを擁している。それでも津幡はフットワークの良いディフェンスでイージーシュートを許さず、トランジションで違いを生み出した。序盤はディフェンスばかりが目立つ重い展開となったが、走る展開に持ち込むことで津幡は安城学園に食らい付き、後半になってトランジションからオープンで放つ3ポイントシュートが決まり始めたことで2桁のリードを作り出す。

攻めでも守りでも走っている分、スタミナ切れが懸念されたが、スピードで振り回すことで安城学園を消耗させ、常に走り勝った。57-46と2桁のリードで迎えた最終クォーターも、津幡はトランジションで早く自分たちの攻めの形を作り出しながら、的確に空いた選手へとパスを出して優位を作り出していく。一方の安城学園は個々の選手が「自分が打開しなければ」との気持ちが強すぎて、自らタフショットを打ってはリバウンドから走られる悪循環に陥った。

県立津幡

「追い上げられても全員が逃げずに戦った」

それでも安城学園は簡単に倒せる相手ではなかった。残り4分を切って65-55と津幡が試合をコントロールしていたが、追い詰められた安城学園はオールコートプレスで流れを引き寄せる。強烈なプレッシャーを掛けてボールを奪うと、野口がエースの役割を果たすべく連続得点を挙げる。難しいミドルジャンパーに豪快なドライブレイアップ、さらにボールのないところでのポジション取りでファウルを誘い、フリースロー2投を決めて63-65と1ポゼッション差まで詰め寄った。

津幡は高本が「ゾーンプレスの対応は練習からやってきたので、準備していた分、慌てずにパスを回せました」と振り返るように、すぐにアジャストして簡単なボールロストはしなくなったが、プレスはかわせても良い形でシュートまでは持って行けず、得点が伸びない。それでも清水桃佳のスティールから高本が走り、フリースローで相手のランを断ち切る。

最終スコアは67-65。最後の1秒まで分からない大混戦となったが、それでも一度突き放した後は追い付かれることなく勝ち切った。高本は「追い上げられても全員がシュートを狙って、逃げずに戦ったこと」と勝因を語る。

その高本は持ち前のクイックネスを生かし、自らドライブを仕掛けて崩すゲームメークで安城学園を翻弄した。「先生から1番は2番、3番ポジションに点数を取らせるのが役目だと言われています。ドライブには自信を持っているのでそれを生かして、ディフェンスが寄ったところにパスを出すことを入学した時からずっとやっています」

野口さくら

「自分のところからチームが崩れてしまった」

安城学園のエース、野口さくらは40分間フル出場。25得点13リバウンドと数字は残したが、本来のオールラウンドな能力は発揮できず。相手の堅守、そしてトランジションオフェンスに振り回されてリズムに乗れなかった。

「リングに攻めなきゃいけない気持ちばかり出て、周りが見えなくなってしまった。自分のところからチームが崩れてしまったと思います」。試合後にそう話す野口の頬を涙が伝う。「いつもはディナイしてくる相手で、ドライブのスペースがあるんですけど、オープンで守ってきたのでギャップがなくて、攻めれない時に突っ込んでしまって、周りが見れずに終わってしまったところがあった」と、県立津幡のディフェンスに手を焼いたことを認める。

「最後まで自分たちのバスケットを出すことができませんでした。後半に追い付かなければという気持ちでやっていたんですけど、悔いが残る試合になってしまいました」

県立津幡は目標のベスト4まであと2つ。明日の3回戦では聖カタリナ学園と対戦する。「一戦一戦気を抜かずに、1分1秒が3年生とやるのは最後なので、思い切ってプレーして良い結果を残したいです」と高本は言う。全員がハードワークを徹底するディフェンスと、そこからのトランジション。公立高校で地元出身選手ばかりの県立津幡が、今大会の台風の目になりそうだ。