スペンサー・ディンウィディー

渡邊雄太やキャム・トーマスが活躍の場を失い、戦力を有効活用できず

ケビン・デュラントとカイリー・アービングを放出し、全く違うチームへと生まれ変わることを選んだネッツは、トレード以降は勝率を落としたものの、28点差からの大逆転を果たしたセルティックス戦から4勝1敗と持ち直してきました。

『スーパースターがいない』前提での戦い方へは移行できていない一方で、ビハインドを背負ってもあきらめずに戦うメンタリティが強みになっています。

ヘッドコーチがジャック・ボーンに代わってからのネッツは、コートを広く使うポジショニングとボールムーブが特徴になりました。デュラントとアービングの個人突破を基盤としつつ、ディフェンスがスターに引き付けられたところで適切にパスを散らすオフェンスでは、コーナーから高確率の3ポイントシュートを決める渡邊雄太の活躍も目立ちました。しかし、スーパースターの個人技がない状態で同じオフェンスをしても効果的ではないのは明らかで、トレードデッドラインの前後を比較するとパス数は10本減り、アシストは3.6本も減っています。

主たる要因はポイントガードのスペンサー・ディンウィディーがボールを持ちすぎることにあり、それまでチームで最も長い時間ボールを持っていたアービングでも1試合平均5.7分だったのに対し、ディンウィディーは7.5分も保持しています。ディンウィディー個人としては18.6得点、6.9アシスト、2.2ターンオーバーと活躍していますが、実力者を多く揃えたチーム事情を考えると、プレーシェアやオフボールでの仕掛けを増やすことが望ましいです。

同じことは選手起用にも言えます。プレーオフへの限られた期間でチーム作りを進めるために、起用する選手を絞りましたが、せっかくの層の厚さを生かせない事態を引き起こしています。特にセス・カリーやジョー・ハリスなど、渡邊も含めてシュート能力の高い選手を有効活用できておらず、2月に3試合連続で40得点オーバーを記録したキャム・トーマスも活躍の場を失っています。

バックス戦では大量ビハインドであきらめムードの中、ベンチメンバーで強烈に追い上げましたが、常にフレッシュな選手を投入していく戦い方や、相手の特徴に応じて選手を使い分ける戦い方をしなければ、個人能力の差で押し切られてしまうでしょう。

オフェンスとは対照的にディフェンスに関しては相手エースを封じるミケル・ブリッジスや、センター相手のディフェンスもこなしスモールラインナップを可能にするドリアン・フィニー・スミスなど個人の『スターパワー』で強烈に止めています。しかし、この数年間はオフェンスで打ち勝つことを基本方針にしていた影響でチームディフェンスが整っておらず、カバーリングやローテーションに難があることで特にインサイドを攻略されてしまうことが頻繁に出ています。

個人能力が足りていないオフェンスに個人能力の強さを生かし切れないディフェンスと、攻守で対照的な悩みを持っていますが、いずれにしてもトレードデッドラインでロスター構成が大きく変わり、チーム戦術が固められていない中でも、ハードワーカーが揃ったチームだけに集中力を欠かすことなく粘り強い戦いぶりが光っています。

現在38勝29敗で7位のヒートとは2.5ゲーム差ですが、残りが15試合であることを考えると十分なアドバンテージで、自分たちが崩れさえしなければプレーオフ進出は現実的な目標になってきました。しかし、これから3月中は強豪との対戦が続き、ヒートとの直接対決も組まれています。ここでチームとしてもう一歩成長できるのか、それともスーパースター不足で沈んでしまうのか、特殊なチーム構成だけにどんな変化が起こるのか楽しみでもあります。