[ウインターカップ・プレビュー]vol.23 福岡第一(福岡)井手口孝監督「男子のバスケットの環境を変えなければいけない」

2016/12/24
プレーヤー
2103

文・写真=古後登志夫

バスケットを理解している選手を育てていかなければならない

──渡邊雄太や八村塁など、高校を出て世界に挑戦する選手が出始めています。日本のバスケットボールが世界レベルを目指す上で、高校バスケのレベルアップは不可欠です。このあたり、いかがお考えですか?

日本のバスケットのスタイルを早く確立しなければいけない。そういう意味では、高校でやっているバスケが一番いいと私は思います。ミニバスはあまり見ていないのですが、中学校はゾーンディフェンス禁止のルールがはいってきて大変ひどい状況になってきました。大学は男子に限って言うと、一番練習していない。Bリーグの選手たちも専用体育館で朝から晩まで練習できるような環境はほとんどない。午前中だけとかお昼だけしか体育館が使えないところがほとんど。これが男子のバスケットです。この環境をまず変えなければいけない。

女子は高校を出るとWリーグに行きます。Wリーグのトップのチームはほぼ体育館があって、実業団だけど内容はプロです。いつだって練習できて、朝練も夜練もやっている。だから世界に通用しているんです。体格の部分は男子も女子も変わりません。男子は練習量が足りないんです。

──日本の男子バスケットボールのレベルを上げるにはどうすべきでしょうか。

随分前から5番ポジション(センター)は探すのが難しいから帰化選手にしましょう、と話し合ったことがありますよね。それでも全然間に合っていない。アジアや世界で勝つには帰化選手を何人も抱えて競わせるようなことがまず一つ。そして1番から4番をすべてができるオールラウンダーにする。ポイントガードもダンクができるような、195cmくらいの。みんなポイントガードとして育成すればいい。ゲームごとにインサイドで頑張らせたり、相手の4番とマッチアップさせたりして。

ポイントガードというのはボールを持ってパスして、ではなくてバスケットのことをすべて理解しているバスケットIQが高い選手という意味です。小さくてもいいんですよ。中途半端に大型化するんじゃなくて、バスケットを理解している選手を育てていかなければならないと思います。

──女子はリオ五輪でベスト8に進出するなど世界で頑張りました。

アメリカ戦では「もしかしたら」という夢が見れましたね。大会を通じて女子の日本が見せた、ハードなディフェンス、トランジションの速さ、アウトサイドのシュート、そして間宮(佑圭)と(渡嘉敷)来夢ちゃんのインサイドの強さ。そういうケミストリーが出ました。

男子はどこに向かっていくのか。長谷川(健志)さんなりにやられていたことがあって、確実に一歩ずつ進んでいたんだけど、これでまた流れが切れます。ジュニア強化はトーステン・ロイブルに任せていく。つながりがないのは気になります。女子は随分前から一本化して、良い選手がたくさんいます。本来、男子のほうが競技人口は多いのに、核となる選手が誰なのか。

高校バスケの指導者は天職、本当にそう思います

──それでも、強化のための環境は整備されつつあります。他に必要なものはありますか?

コーチでしょうね。私は20年以上ここでやっているから『福岡第一のバスケット』というものがある。大濠も40年かけて田中先生が作ったものがある。やっぱりそれはブレないです。日本代表の男子にそれはあるのかなと思います。女子はあるような気がしますね。女子の選手は必死にシューティングをしますよね。ステファン・カリーは1日8時間練習している。男子のプロ選手はそれぐらいやっているのか、と思います。

──高校バスケの指導者、先生というのはご自身の天職だと思いますか?

本当にそう思います。何時間練習をやっても苦になりませんね。「好きこそ物の上手なれ」です。だから好きなことだけは日本一だなって私はずっと思っています。誰かと比べているわけではありませんが、「バスケット好き」で誰かに負けることはないだろうなって(笑)。だから、是非子供たちにもそうなってもらいたいです。1つくらいそういうことがあったらいいじゃないですか。

──今回のチームで言うと土居光選手は、井手口先生のおかげで人間性からプレーまで、この3年間で全部が変わったと話してくれました。

ちょっと手のかかった子だけど、中学から秀でたものがありました。本当の意味で高校デビューの選手です。こういう子を育てあげるというのが福岡第一かなと。福岡第一の象徴的な選手は土居光かもしれない。

料理と一緒で、素材に触れなくても「良い選手」というのはいます。塩胡椒もなしで焼いて出すだけで大丈夫な選手。そして土居のようにハンバーグにして味付けもやらないといけない選手もいる。それを比べて「Aは良いけどBは悪い」と言ってしまうのは簡単ですが、ここでは見捨てません。私自身がそうだったわけですから。

バスケットをすることが世の中のためになるかどうかは分からなかったけど、そのおかげで今こうやって監督として選手たちを指導している。バスケットが好きな子だから、何とかうまく送り出してあげたい。それは私一人の力ではなく、担任の先生や授業を受け持つ先生、先輩たちの力を借り、迷惑をかけながら。そうしていろんなものがミックスしていくんです。

──天職であることがすごくよく分かります。

だから私は高校から離れられません。大学生だとちょっと遅い、中学生では早い。高校生の3年間は、子供から大人に変わる時期ですから。土居は日体大に行きますが、もしかしたら教員になるかもしれない。それは素晴らしいことだと思います。彼みたいにいろいろな経験をしていると生徒の気持ちがよく分かるから、きっと良い先生になりますよ。