「文化を変えたかった。ハングリーでチームのやることを信じる選手を集めました」

バスケ男子日本代表はワールドカップ予選最終戦となるバーレーン戦を95-72で快勝。これで5連勝を達成し、通算戦績を7勝5敗と勝ち越して2021年の11月から始まった長丁場の戦いを終えた。

バーレーン戦の日本は、第1クォーターで2桁リードを奪うなど、終始危なげない展開だった。しかし、トム・ホーバスヘッドコーチは余裕がある試合運びをしている感覚はなかったと語る。「バーレーンは難しい相手でした。オンボールでの守備は激しくて、こちらのリズムが少し崩れました。ガード、ウイング陣は波に乗った時の爆発力があり、(帰化選手の)デボン・チズム選手はミドルレンジを得意とするタフな相手です。23点差で勝ちましたけど、試合を通して競っている印象でした」

一方で指揮官は「ベストなプレーをしているとは思わなかったですが、スタッツで見ると悪いところは何もなかったです」と内容を評価する。「ターンオーバーは8本に抑え、28アシストに3ポイントシュートの成功率は39%、2ポイントの成功率も高かったです(63.3%)。リバウンドも互角に渡り合いました」

今回のワールドカップ予選の日本代表は、ホーバスの目指すスタイルをチームに浸透できていない状況で中国、オーストラリアと強豪国との連戦が続いたこともあり、2勝5敗と序盤戦に苦しんだ。すでに自国開催での出場権を確保しており、成績をシビアに捉える必要はなかったといえ、負けた試合は内容的にも良くなかった。

しかし、昨夏に強化合宿、アジアカップ、Window3と4と長期に渡って活動できたことで、チームの熟成は一気に進む。キャプテンの富樫勇樹、張本天傑、比江島慎など代表経験が豊富なメンバーだけでなく、ホーバスヘッドコーチの下で代表デビューを飾った河村勇輝、須田侑太郎、吉井裕鷹、西田優大、井上宗一郎らがコアメンバーになることで連携や共通理解が大きく向上した。こうしてチームに確固たる芯ができたからこそ、今回のWindow6ではジョシュ・ホーキンソン、渡邉飛勇、金近廉と新戦力もすぐにフィットして活躍することができた。

チーム発足当初からの変化をホーバスはこのように振り返り、成長ぶりに大きな手応えを感じている。「この1年半を通してチームの文化を変えたかった。ハングリーでチームのやることを信じる選手を集めました。みんな同じマインドセットを持てるようになっていて、新しい選手もすぐに適応してくれました。みんながそれぞれの役割を理解して、しっかり遂行する。そのことによるシナジー効果でシューターがしっかり打てています」

『Wユウキ』など新たなオプションに磨きをかける

半年に迫るワールドカップ本大会に向けてチーム作りの最重要事項は、海外組の渡邊雄太、八村塁、富永啓生、馬場雄大をどれだけスムーズにフィットさせられるかだ。しかし、これはチーム発足当初から分かっていた想定内の課題であり、海外組の融合以外では差し迫った問題点はないとホーバスは見ている。

だが、もちろん100%満足できる状況ではなく、改善の余地がある部分の一例をこう語る。「まだ、クエスションマークのところがいくつかあります。2番ポジションだと金近がイラン戦でアウトサイドからシュートをよく決めてくれました。ただ、3番、4番ポジションからの得点はまだ十分ではないです。私たちのシステムでは4番ポジションで、多くのオープンショットを打つ機会が生まれます。そこでしっかり決めないといけないです。」

「4番で井上はそれができますし、過去のWindowではシュートを多く決めてくれました。ただ、彼にはもっとステップアップし、より多くのシュートを決めてほしいです。一方で私たちには渡邊雄太がいます。これは緊急の課題ではないですが、ベンチから出て、アウトサイドからシュートを決めて相手ディフェンスを広げてくれる選手は必要です」

また、今まで以上に様々なオプションを練っていく必要がある。その1つがバーレーン戦の終盤で見せた富樫、河村の『Wユウキ』を同時起用するラインナップだ。サイズ面で大きな不利が生まれ、長時間使えるものではないが、「ワールドカップではすべてのポゼッションが大事です」とホーバスは語っており、クォーター終了間際の1ポゼッションなど限定的な場面で、相手ディフェンスを困惑することができる可能性を持っている。

1年半に及ぶワールドカップ予選を経て、本大会のメンバーの骨格は固まってきた。ポジション毎の人数について、ホーバスヘッドコーチは「ポイントガードは3名です。残り(のポジション)については言わないです(笑)」と留めている。ただ、ホーバスのスタイルにおいて司令塔以外のポジションは2番&3番のウイング、4番&5番のビッグマンと2つに分けられる。その上で、両方をこなせる渡邊雄太が絶対的な存在と考えると、残りはウイング、ビッグマンでそれぞれ4名と考えられる。

金近、渡邉と新戦力の存在もあり、「すべてのポジションは激しい競争の最中で、これこそ私が作りたい環境です」とホーバスは選手層の厚みにも自信を見せる。このようにいろいろとポジティブな要素が目立った実り多いWindow6となった。