近畿大学附属

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

指導者が新しい発想を持っていれば、そこで異色の選手が育つのも当然なのかもしれない。近畿大学附属のキャプテンは、練習が休みになるとベースを持ってバンド活動をやり、カンボジアに短期留学した経験から「将来は海外で飲食店を経営して貧困層を助けたい」と夢を語る。大森健史コーチは「子供たちが勝手に成長しているだけ」と笑い飛ばすだろうが、こんな選手たちは他に見たことがない。独自のスタイルでウインターカップに挑む2人に話を聞いた。

熱血キャプテン、勝負どころで吠えてテクニカル?

──まずはキャプテンから自己紹介をお願いします。

野崎 野崎海斗です。若松台中の出身で、実績は秋の府大会でベスト8です。得意なのはリバウンドです。175cmですが、ガッチガチに飛び込みます。あとは吠えることです(笑)

岩崎 それでテクニカルファウルを取られるんです。吠えてベンチにハイタッチしに来たらテクニカルを取られました。しかもウインターカップ予選の決勝戦で……。

野崎 リバウンドを取った時に「うおお!」とか、チームメートがグッドディフェンスした時に「よっしゃ!」とかで、たまに取られるんです。はい、1回だけじゃないですね。ガーッとやっちゃうんです。ガッツポーズでテクニカルを取られることはないと思うんですけど、やりすぎるとダメです。以前、シュートを決めて高ぶりすぎて、ガーッと前の選手を押してしまってテクニカルを取られました。それも決勝戦でした……(笑)。

──どうしてそういうキャラクターになったんですか?

野崎 入学当初にさかのぼるんですけど、Aチームに上手い選手が多くて「これは勝てん」と思った時に先生からディフェンスを頑張れと言われて、自分の中ではディフェンスは気持ちでやるものだったので、声を出すようになりました。誰にも負けない唯一無二のものが声です。あとリバウンドは昔からデニス・ロッドマンが好きで、ルーズボールを追う姿とか、エナジーがコートに溢れているのがカッコ良くて、リバウンド王になりたいなと。

──続いて岩崎選手の自己紹介をお願いします。

岩崎 貝塚市第四中を卒業した岩崎光瑠です。ポジションは去年は外も構える4番だったのですが、今年は外で構えて中に合わせることをしています。身長は193cmですけど、大袈裟に言えば195cm(笑)。でもフィジカルがあまりないので、今のプレースタイルが良いと思います。外のシュートはまだ練習中ですが、ディフェンスには自信を持っています。

野崎 確かにディフェンスはうまいです。先生からも危機察知能力が高いと言われていて、誰も気付いていないところにカバーに行ったりします。

岩崎 留学生が相手でも守れます。手が長すぎる留学生だと無理かもしれないですけど、ゴリゴリ系なら止める自信があります。ディフェンスはフィジカルじゃなく技術なので(笑)。

──お互いがどんなキャラクターか、それぞれ教えてください。

野崎 岩崎の良いところは各チームの核の選手で、それが練習中にも出るところです。2年生をまとめる部分で助けてもらっています。プレー面ではさっきも言ったようにディフェンスで、オフェンスの繋ぎでもデカいのに頭が良いし動けるバスケの才能が発揮されています。

岩崎 自分は先輩にでも言いたいことは言うタイプで、この前はケンカしました(笑)。ウチは最後まで残った人が片付けをするルールなんですが、先輩がシューティングした後の片付けを1年生だけにやらせていたんです。忘れ物を取りに戻った僕がそれに気付いて「片付けないんですか?」と言って揉めました(笑)。

野崎 それで僕も煽ったのでガチのケンカになって、夜になってLINEで謝って……。

岩崎 次の日には仲直りしていましたけど。プレーだといつもポジティブシンキングで、自分の調子が悪くてもディフェンスもプレス気味に守ってチームを盛り上げてくれます。

近畿大学附属

野崎「ここに来たからにはこのスタイルで上を目指そう」

──バスケ部には77名もの部員がいるそうですね。全国でも一番多いぐらいだと思いますが、なんでこんなに部員が集まるんですか? 特待生は取っていないんですよね?

岩崎 学校が大きくて、学年あたり1000人以上の生徒がいます。バスケ部は楽しいイメージがあるので、それで人が集まるんだと思います。

野崎 中学でそれなりに勉強しないと入れないです。先生も学習意欲の高い生徒しか取らないので、僕も最初はここに来る予定じゃなかったんです。でも練習時間が短くて自分の時間もあるので楽しいです。バスケも楽しいし、スケボーとかベースとか趣味もやれます。

──いろんな学校で取材をしてきましたが、バンドをやっている選手は初めてです(笑)。

野崎 友達から「バンドやろうや」と誘われたのがきっかけで、仲間を集めて日曜に練習して、グリーンデイの『Holiday』を音楽の授業で演奏しました。

岩崎 日曜が休みなので寝れるのが幸せです。僕は通学に2時間かかって、遅くに帰って勉強しているので、日曜は遊ぶと決めているんです。予定があればどこかに出掛けますが、何もなければ昼まで寝て、夕方に近所のクラブチームで遊びのバスケをやっています。

野崎 他の学校のバスケ部だと、吐くまで練習するって話も聞きます。でもこれが僕らのスタイルで、ここに来たからにはこのスタイルで上を目指そうと思っています。先生が尻を叩くんじゃなく、ある程度の指示をしたあとは自分たちでやるので、クリエイティブなバスケットができているんじゃないかと思います。

──77人も部員がいると、全員が上を目指すというわけでもないですよね?

野崎 Bチームは盛り上がって楽しむスタイルで、先生も認めています。Aチームは上を目指すのですが、楽しみながらガチでやっています。Bチームには応援、企画部、審判、データ、コーチと仕事があって、試合前になるとデータ班が相手チームを研究して、企画部はネックウォーマーやキャップを作ります。でもBチームの中にもAチームを目指して頑張って練習をしている選手もいて、先生が認めればAチームになれます。上がるも落ちるも自分次第です。

──大森先生は全国的にもあまりいないタイプの指導者ですが、どう思いますか?

野崎 僕は「カンボジアに行っていいよ」と言われました。先生がバスケットだけじゃないぞと言うので、学校でやっている世界のビジネスのプロジェクトに参加して、年末年始に行って1日2ドルで生活する貧困の姿を学んできました。それで海外で貧困層をスタッフとして雇って助ける飲食店の経営をしたいと思うようになりました。

岩崎 先生は何かしら用事があると思うんですけど、僕らを試しているんじゃないかと思うぐらい遅刻します(笑)。遅刻は世間では良くないことですけど、自分も決められたことをするのが嫌いなので、そのルーズさが心地良いです。先生と話をしていても「自分で決めたならそれでええよ」と言ってくれます。何をするにしても自分で決められるのは良いです。

近畿大学附属

岩崎「まずはディフェンス、留学生をブッ倒す気持ちで」

──岩崎選手はアンダーの代表に参加しましたが、どんな経験ができましたか?

日本の選手で一番衝撃的だったのが福岡第一の河村勇輝選手で、小さくて線も細くて途中から入って来たのに一番声を出していました。一番年下の田中力選手も「誰よりもバスケが上手い」という自信に溢れていて、そこは自分も見習わなければいけないところです。

──岩崎選手の将来の夢はどんなものですか?

岩崎 バスケットで行けるところまでは行きたいです。プロ選手になりたいんですけど、その後は指導者になって、海外にはどこでもコートがあるので、それを日本にも作りたいです。

──夏のインターハイでは1回戦負け。ウインターカップに向けてどう調整してきましたか?

野崎 僕らの考え方ではインターハイは参加できればラッキーなんです。東海大諏訪はフィジカルも強くてデカくて、全国の壁は厚いと感じました。そこをどう詰めていくか。身体能力では劣るので、いかに効率を上げて外のシュートをどれだけ確率良く決められるか考えています。

──ウインターカップでライバル視しているチームはありますか?

野崎 インターハイで負けた東海大諏訪に勝ちたいんですけど、決勝まで行かないと当たりません(笑)。同じブロックには明成がいるので、明成に勝って行けるところまで行きたいです。

岩崎 明成に友達がいるので、勝ってメインコートで試合をしたいです。

──ウインターカップを戦う上で、ここは負けないという強みはどこですか?

野崎 チームとしてはバルセロナのパッシング、崩して崩して最後に3ポイントシュートを決めるプレースタイルを目指しているので、そこを見てもらいたいです。個人的には叫ぶ姿を。リバウンドを取って叫んで、会場がおおーっとなったらTwitterに上げてください(笑)。

岩崎 僕は体力が一番あると思うので、40分間フルで出ます。僕の場合、調子の良いのはディフェンスができる時なので、まずはディフェンスから、留学生をブッ倒す気持ちでやります。

野崎 パッシングバスケで、15人全員で戦うバスケをやっていきます。15人だけじゃない勢いもあります。ノリがホンマにヤバいんです。Bチームの応援が良いですし、僕が吠えればBチームが反応してくれてアドレナリンがより出ます。お互いに意識し合って、応援もダントツです。応援団は月バスのウインターカップの賞を狙っているそうなので注目してください(笑)。