キリアン・ヘイズ

ケイド・カニングハムの戦線離脱を機に、ブレイクの兆しを見せる

2020年のNBAドラフトで、新人王に輝いたラメロ・ボールに続いて指名されたポイントガードはキリアン・ヘイズでした。フランスのクラブで経験を積んだ19歳は、現在アシスト王争いをしているタイリース・ハリバートンよりも高い7位指名を受け、再建へと舵を切ったピストンズの新たな中心選手として大きな期待をかけられていました。

しかし、アメリカのバスケになかなか順応できず、同じ年に指名されたサディック・ベイやアイザイア・スチュワートがルーキーシーズンにポジションをつかむ中で結果を出せませんでした。翌年にはドラフト1位でケイド・カニングハムが、さらに今シーズンはジェイデン・アイビーが加入し、同じポジションに次々と有望株が揃い、苦しい立場で3年目のシーズンをスタートさせました。

しかし、開幕1カ月が経過したところでカニングハムが離脱。その代役としてスターターになって以降、6.6アシストを稼ぎながら、2.0ターンオーバーとミスの少ないプレーを見せ、ポイントガードとしての能力の高さを発揮し始めました。また、ディフェンスでも読みの鋭さで1.4スティールも記録しており、攻守にわたってNBAでのプレーに順応し始めています。

アメリカでのプレー経験がなくNBAに挑戦するポイントガードのほとんどが、プレースタイルの違いに直面します。ディフェンスの状況を見て適切なプレーをチョイスしていく役割から、自らがアグレッシブに仕掛けてディフェンスを崩すことを要求され、パス能力に強みを持つヘイズも大いに困りました。

ルーキーシーズンのヘイズは、自分よりも身体能力の高いガードを相手に1on1での突破ができず、かと言って3ポイントシュートの成功率も低く、個人で得点する手段のないままチームメートへパスを出すだけで終わっていました。チームとしての戦い方が整理されていない連携不足のオフェンスに戸惑い、自信のなさがプレーに現れていたのです。

2年目の昨シーズンは、カニングハムと一緒に出場すればコンビで崩していく機会は増えたものの、ジャンプシュートやドライブでの得点力に乏しく、プレーを読まれるようになりました。判断力はあってもプレーパターンが少なく、再建チームでなければ早々に見切られてもおかしくない低調なパフォーマンスに終始しました。

ところが3年目の今シーズン、カニングハムの離脱を受けて個人のアタックで崩していく従来のスタイルが変わりました。シュート能力の高いボーヤン・ボグダノビッチがキックアウトを確実に決め、空いたスペースにジェイレン・デューレンらビッグマンが飛び込んでいくバスケになったことで、ヘイズの広い視野と判断力によるパス能力が生きるようになっています。

ヘイズは『自分らしく』パスファーストのプレーをしながら、相手ディフェンスがパスを警戒することでギャップを突くドライブも有効に決まりだし、しっかり状況判断して打てるようになったことで、スターターになってからの3ポイントシュート成功率が37%と改善し、平均12.3得点を奪うなど大きな成長を見せています。

アウトサイドシュートで確実に得点し、ディフェンスの隙を突くパスでアシストを量産、そしてミスの少なさと出足の鋭いディフェンスで、21歳のヘイズはNBAでも自分自身を表現し始めました。必要ならば強引にでも自分で仕掛けるプレーからは、ルーキーシーズンの弱々しかったイメージは消えており、堂々と自信を持った将来有望なポイントガードとしてブレイクの兆しを見せています。