桜花学園

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

高校バスケ界の『女王』桜花学園は、代替わりして下級生主体のチームになった今年もチーム力を落とすことなく、インターハイと国体を制して3冠に手を掛けている。しかし、井上眞一監督に言わせれば「この半年にも満たない期間で急成長したチーム」であり、実際に新チーム立ち上げからしばらくは苦戦が続き、インターハイではシード権を取れなかった。それでも留学生のアマカをセンターに置き、下級生中心のメンバーで試合を重ねるごとにチームとしての完成度を増している。井上監督に、開幕が近づくウインターカップへ向けた自信と意気込みを聞いた。

台湾遠征での実戦経験がチームの自信に

──新チームになってから、ここまでのチームの歩みはどのようなものでしたか?

ウインターカップが終わって1年生が来るまでは苦しい試合ばかりでした。4月になって1年生の江村(優有)をポイントガードにして、キャプテンの坂本(雅)を1番から2番に変えて流れができるようになって。そこに留学生のアマカが入りましたが、最初はバスケットをよく理解しておらず、キャッチングもできない。言葉が通じないところもあったんだけど、センターの伊森可琳がひざの前十字をやってしまったので、思い切ってアマカを使いました。

昭和学院との試合ではアマカが相手のドライブに抜かれまくって、ディフェンスで足を引っ張って苦戦しましたが、2年生の平下(愛佳)や岡本(美優)が頑張りました。最後は残り2.4秒で岡本のシュートがリングの奥に引っ掛かって、ジャンプボールになるかなと思うぐらい止まっていたのですが、それが決まって逆転。それで選手たちが「やれるぞ!」となりました。試合を通して、大会を通してチームが成長することはこれまでもありましたが、今回もそうやって昭和学院に勝ってから急に戦う姿勢が前面に出るようになりました。

決勝の相手は岐阜女子でしたが、これはアマカの21リバウンドで勝ったような試合です。向こうにはアマカより大きい留学生の選手がいたのですが、アマカがリバウンドで上回って、それでインターハイ優勝ということになりました。半年にも満たない期間で各ポジションの選手が急成長して、それぞれの仕事をしてくれました。

──アマカ選手はどのような経緯で桜花学園に入って来たんでしょうか。

今まではこちらから留学生を取ることはしなかったのですが、地元開催のインターハイで負けられないと学校にお願いしました。ナイジェリアから来たのですが、英語が通じるのでクイックやスピード、ターンというバスケット用語はそのまま理解できて、そこからどんどん日本語を覚えるようになりました。性格が良くて、チームメートともよく馴染んでいます。インターハイの後に肉離れをしたのですが、素直に頑張っているのでウインターカップでも期待しています。

──チームの成長はこのウインターカップ前にも見られますか?

国体が終わってから実戦経験を積むために台湾に遠征しました。基本的なことをやらずに試合をしてもうまく行かないので、もちろん基本もやります。試合での失敗をフィードバックして、内容の悪かったことを基本練習で修正して、そしてまた試合に臨む。自分たちよりも強いチームを相手にこれを1週間やれば力がつきます。台湾の大学とやってプロチームとも試合をして。プロに勝ったことは自信になりました。ここでは2年の(田中)平和が急成長しているので、ウインターカップでも楽しみです。

桜花学園

「今後も若い選手を育てていくのが我々の使命」

──Wリーグが20周年を迎えたということで、開幕前のパーティーで井上先生が功労者として表彰されました。日本代表でもWリーグでも桜花学園の卒業生がたくさん活躍しています。

やっぱりバスケットにどれだけの意欲を持っているか。ナショナルチームに入りたいとか、そこでスターターになりたいという欲がある選手はWリーグに行っても成功します。今は27人がWリーグでプレーしています。Wリーグは20周年だそうですが、その前の日本リーグ時代から選手を送り出しているので、そこも含めれば100人は超えるでしょう。その中でバスケットに取り組む真摯な姿勢で言えば、大神雄子がダントツでした。才能では渡嘉敷来夢ですね。

──高校生だからこそ意識して指導していることはありますか?

高校生だから勉強もしなければいけないことはまず分からせないと。生活面の問題はあまりありませんが、全員が寮生活なので親代わりをしなければいけない。お父さんというよりおじいちゃんだけど(笑)、親御さんから子供を預かっている責任はあります。バスケットで成功してほしいですが、まず途中で挫折しないように生活面もそおっと見ています。そうやって卒業した子たちがシーズンオフになると次々に顔を出してくれるのはうれしいですね。

コーチと親代わりの切り替えは、もう長くやっているので自然にやれます。意図的にやっていると取り繕った感じになってしまいますが、自然にできるのは中学校で長く教えていたからかもしれません。私はチームの上下関係も大嫌いだし、1年生から3年生までがこの寮でファミリーのように生活するということがしたかったんです。

──全国での優勝回数が64回で、3冠達成も13回あります。3冠で特に思い入れがあるものは?

思い入れと言っても、10何回もあるのであんまりねえ。それよりも4冠のチャンスを逃したことを覚えています。ウインターカップができた年はまだ春の選抜があって、選抜、インターハイ、国体、ウインターと4冠のチャンスがあったんでが、インターハイだけ落としました。もともとは能代工の全国優勝58回を破ることを目標にしていたのですが、抜いてしまったら今は目標がないんです。

──それでも、日本代表で多くの卒業生が活躍していることは励みになると思います。女子の日本代表が国際大会でも結果を残せている要因はどこにあると思いますか?

U16からU18のレベルが相当上がっていて、世界のベスト4やベスト8に入ります。だから層が厚くてメンバーが揃わなくても安定して結果を出せています。そういう意味ではアンダーカテゴリーの強化がうまく行っていることで日本代表がうまく回っているということでしょう。ただ、例えば渡嘉敷が抜けたらどうなるか、頭の痛いところもあります。今後も若い選手を育てていくのが我々の使命です。私も次の人が見つかるまでは頑張らないといけない。

桜花学園

「とにかくディフェンスがしっかりできるように」

──ウインターカップに向けてチーム作りは順調に進んでいるようですが、ここから最後の仕上げで大切になることは何でしょうか?

トレーナーと一緒に練習後のケアや、ケガしている選手のリハビリなどに取り組むことですね。これから気を付けないといけないのはインフルエンザをどう防ぐか。今は外出も避けて学校でも気を付けて、まず風邪をひかないことです。風呂から上がって髪を濡らしたままぼーっとしている選手がいれば注意します。そういうことも含めて全員が同じ方向を向いて、すべてがうまく回っていないと良い勝負ができません。

──今年のチームの集大成として、どんなバスケットを展開したいですか?

本当はトランジションが一番やりたいんです。ですが、向こうも分かっていて早く戻るので、なかなかトランジションが出ない。でも、40分の間に何本か出ればそれはすごい勢いになります。

インターハイと国体を勝っていて、3冠のチャンスではありますが、簡単ではないことも理解しています。私は石橋を叩いて渡るタイプなので、しっかりとスカウティングをして、相手の弱点を見つけてアジャストしていきます。まずはじっくりビデオを取り寄せて研究します。どういうバスケットを見せたいというよりも、とにかくディフェンスがしっかりできるように。あと1カ月、チームを引き締めていきたいと思います。