精華女子

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

8年ぶりのウインターカップに出場となった昨年、精華女子は2回戦で大阪桐蔭の高さに屈した。それでも、1年生プレーヤーを先発で3人起用していたチームは良い経験を積み、激戦の福岡県で2年連続でインターハイとウインターカップに出場している。大上晴司の下、若いチームは負けを糧に成長し、全国ベスト8という目標に再挑戦する。

「良い顔をして良い言葉を出して良いアイデアを」

──前回大会から1年、ウインターカップに向けて今どう過ごしていますか?

去年は8年ぶりで経験のないところへの挑戦でした。「絶対に勝つ」と言いながらも勝ったことのないプレッシャーがあり、私自身も不安と期待が入り混じった状態で大会を迎えました。県立足羽(福井)に勝ち、大阪桐蔭(大阪)に力の差を見せ付けられ、とにかくもう一度この舞台に戻り、全国ベスト8を絶対に成し遂げようという1年間でした。

インターハイでは三浦(舞華)がずっと代表に行っていたので、三浦なしでチーム作りをしていました。チームの底上げはできましたが、大会直前に三浦が合流してチームとして噛み合うところまで行きませんでした。高知中央の留学生の高さ、技術があり対応に苦しみました。昨年の大阪桐蔭の竹原(レイラ)にしても高さ対策をしたつもりでも、それ以上のものがありました。

今は対策として、これまで以上にトランジションを徹底しています。ウチの高さで留学生プレーヤーを全部止めるのは無理がある。逆に留学生に決められた瞬間にやり返す。そういうトランジションで、個人の役割を具体的に、そして明確にしています。これまでは闇雲に急げとかただ走れとか、そんな感じがありましたが、トランジションを具現化するように取り組んでいる成果を選手たちも体感しています。また高さ対策でも、今はセンターの木村(瑞希)が大学生との練習試合でもやり合えるようになっています。そこは負けたおかげでの成長です。

──昨年は選手たちの自主性とチームワークだったチームの強みはどこにありますか?

コート内の問題を自分たちで何とかしようという姿勢は、先輩が残してくれたものをうまく生かしています。試合中はなるべく本人たちに任せたいんです。練習も昨年までは私がリードしていましたが、自分たちで会話をして解決できるようにしています。県予選でも、準決勝や決勝では「発表会なんだから楽しめ。良い顔をして良い言葉を出して、良いアイデアが出てくる状況を作りなさい」と声を掛けて試合に臨みました。ベンチも含めていつも通りのプレーをしようと。そのためには練習中から意図的にそういう雰囲気を作っていこうとしました。

ウインターカップの県予選でも相手をどうするかよりも、自分たちが練習してきたことをどう発揮するか、そこに選手の意識を集中させました。とにかく練習してきたことをやるだけだと、選手たちも全くブレずにやってくれました。

精華女子

「意見を出して認められるという安心感」を作る

──練習を見ていても和気あいあいとしていて、チームワークの良さがうかがえます。

今年は3年生でスタートで出ているのはキャプテンの矢野(聖華)だけで、あとの3年生は出場機会が少ないです。サポートしてくれている選手の中に3年生が3人いて、その子たちが朝練から球拾いをしたり、マネージャーがいないので時間を逆算して練習を抜けて、ご飯を炊いておにぎりを作ってくれる。彼女たちが「チームの役に立ちたい」と全部やってくれます。下級生としては彼女たちを絶対に東京に連れて行こうと。先輩たちも後輩の背中を押してくれます。

──そんなファミリーな雰囲気を作る上で、監督が気を遣う部分はありますか?

選手たちを信用して自分たちでやらせることです。先日も、練習中に電話が掛かってきて、コートに戻って来たら選手たちがボソボソと話し合っている。どうしたのかと思えば、私が指示したフィニッシュよりもこっちのほうが多分うまくいきます、と言われて。私もそれを認めました。大学生と練習試合をした時も、相手がこういうプレーをしたから、自分たちもやってみたら守りづらいだろうと。それがうまく行くかどうかは別として、本人たちが意見を出して認められるという安心感は作っておこうと。

昔と変わってきた理由の一つが情報です。昔は先生の知識しかなくて、あとのバスケット情報は月バスを読むしかなかった。でも、今はYoutubeを見れば試合でもスキルドリルでも、いろんなコーチのクリニックでも、いくらでも見ることができます。そういう中で指導者に求められるのは、技術指導だけでなくコミュニケーションの力が一番になっていると思います。

私もここに来たばかりの頃は、自分がやられたスパルタ指導をして、「やるからには全国だ」と言うけど根拠もないし計画もできていない状況でした。やっぱりそれでは勝てません。それでメンタル的なトレーニングを自分で初めて変わっていきました。選手の良いところに注目するようになった時、選手からは「大上先生が変だ」、「言うことがおかしい」と言われました(笑)。それでも、そうやって生徒を信用して、今まで縛ってきたものをほどけばほどくほど、うまく行くようになっています。

──JX-ENEOSサンフラワーズの林咲希選手など、Wリーグで活躍する卒業生がいます。Wリーグに行ってもやっていけるような選手に共通することはありますか?

今はWリーグに選手が4人とマネージャー1人がいます。一つ共通するのはみんな素直で、人と比較しないで頑張ることができる、自分が決めたことをブレずに努力し続けられることです。もう一つは、よくしゃべりますね。コートでも一番しゃべって一番笑って、仲間に声を掛けていました。練習にもたまに来てくれますが、私が「ああいうのを目指せ」と言っている選手像が、そのまま彼女たちの姿ですから、選手たちも「先生の言ってることは嘘じゃないな」と納得するし、そうなろうと意識してくれます。

精華女子

「チームとしての挑戦をやりきりたい」

──ウインターカップに向けてどんなチーム作りを行っていますか?

昨年は桐蔭さんに負けて、今年は国体でも大阪に負けました。今回は薫英さん(大阪薫英女学院)が出場しますが、ウチは『大阪の壁』を乗り越えないといけない。福岡の予選が終わってから、ファンダメンタルにこだわり、状況判断のミスを減らす練習を取り入れています。あとは走り合いで負けないように。選手が一番キツいと言う練習があるんですが、それを何分に挑戦するか、選手が決めています。私が言うのは「当たり前に10分できるようになったら全然変わるよ」だけ。選手たちは自分で少しずつハードルを高くしていこうという意識でやっています。

──全国の舞台でリベンジの機会です。意気込みを教えてください。

県で一つしか出れないところに2年続けて出られるのは本当にありがたいチャンスです。今回、福岡第一さんと大濠さんの男子の決勝戦を見て、私自身も県の代表になることの責任、重みを感じました。あの日はすぐに帰って来て練習したのですが、選手たちもその重みを感じていました。県の代表だから、ウチに負けて引退した3年生の子たちの思いを全部背負おうと。チーム福岡の代表としてウインターカップを戦うことがまず一つです。もう一つは、自分たちで立てた目標に挑戦する権利を自分たちで勝ち取りました。チームとしての挑戦をやりきりたいです。去年とはまた違う重みを選手たちも感じているので、その思いを持ってウインターカップに行きます。

──ウインターカップで見てほしいチームの姿を教えてください。
去年1年生だった三浦(舞華)と樋口(鈴乃)がこの1年間でいろんな経験をしてキャリアを積んできました。ただ、それを脇で支える影の存在がチームの一番の強みじゃないかなと。ベンチの子たち、応援席の子たち。みんなで戦うチームであることが一番のウチの武器です。去年よりも走ること、ディフェンスに力を入れています。いろんな部分でレベルアップした精華女子に期待してください。