秋田ノーザンハピネッツは昨シーズン、チーム初のチャンピオンシップ出場と大きな功績を残した。だが、初戦で激突した琉球ゴールデンキングスには2試合とも地力の差を見せつけられて連敗で敗退。着実な成長を遂げる一方で、目標とする日本一にはまだまだ超えないといけない高い壁があることを痛感させられた。さらなる進化を目指す今シーズンもチームリーダーを務めるのは古川孝敏だ。チームで最も勝利の味を知る百戦錬磨のベテランは昨シーズンで3年契約が満了しており去就が注目されていたが、秋田に残留を果たした。前編では、その理由と秋田への思いを聞いている。
昨シーズンは秋田初のCS出場も上位との壁に「すごく悔しいシーズンでした」
――あらためて昨シーズンはどんなシーズンでしたか?
秋田としては初めてチャンピオンシップに出られて良い経験ができた部分はありますが、まだまだ全然力が足りないところが露呈されました。結局チャンピオンシップでは、正直なところ琉球さんに歯が立たなかったです。そういった意味ではすごく悔しいシーズンでした。僕個人としてはチーム3年目で、もちろん毎年覚悟を持ってやっていますが、特に昨シーズンは一つしっかりと結果を残さないといけない思いは強かったです。その中で自分のパフォーマンスを振り返ると、後半戦はすごく不甲斐ない部分が多かったです。悔しい、という言葉で片付けるのは当たり前で嫌ですけど、それでも試合後のインタビューで込み上げるものはありました。
──「後半戦で不甲斐なかった」とは、具体的にどんなところでしょうか?
ムラがありすぎるような気がしました。個人的なパフォーマンスとして数字の部分もそうですけど、うまくチームのためにできなかった部分が大きかったかなと思います。
──数字に関して、特に意識するところはありますか?
平均してスタッツを残すような選手でないといけないなとは思います。1試合20得点を取れても、その前後の試合で全く得点を残していなかったら違う。例えば平均10得点としたら毎試合、安定してそれに近い数字を挙げていく。0点と20点で平均10得点というのはいけない。そういうムラが出てしまうのは良くないと考えています。
――3年契約が終了して迎えた今オフ、最終的に秋田残留を決めた要因を教えてください。
3年経ちましたし、チャンピオンシップに出たというところで移籍するんじゃないかと、みんな予想しているとは思っていました(笑)。もっとこのチームで勝ちたい、秋田のバスケットが好きだし(前田)顕蔵さんとやるのが好きだし、このチームでなんとしても結果を出したい。そういった思いが一番の決め手です。
──引き続き、秋田でプレーを続けたいと感じる居心地の良さはどういったところにありますか?
居心地が良いというのは、僕の中ではあまり良い表現ではないと思っていて、自分がやりやすいという感覚とは違います。秋田は加入した当初はリーグ(B1)下位のチームでした。ただ、顕蔵さんを始めとしたコーチ陣、選手たちを見てこの人たちとやってみたら可能性があるんじゃないか。このチームでプレーしたい、自分がやってきたことを伝えていくことで、みんなと一緒にチームを作ることができたら自分の成長にも繋がるんじゃないか。そういう思いもあって秋田に来て、ここまでやっていく中で少しずつですけど前に進んできましたし、もっと良くなっていく可能性があると信じています。それに顕蔵さんが話している『日本人主体でバスケットをやりたい』、そのバスケットで結果を残したいという気持ちが大きいです。だから、移籍の考えはなかったです。
秋田で勝つことへのこだわり「どんな形でもチャンピオンなれたら良いとは思わない」
──NBAの世界では、ベテランになると戦力が整ったより優勝の可能性が高いチームに移籍するケースは少なくないです。そういった発想はなかったですか?
全くないですね。勝てればいいっていう感覚はあまりないです。何が良くて悪いのか、それは一概には言えないですけど、自分がプレーしていて面白くないチームに行って勝っても嫌です。どんな形でもチャンピオンになれたら良いとは思わなくて、みんながまとまっているチームで勝ってチャンピオンになりたい。もちろん他のチームが悪いと言っているわけではないですけど、自分は秋田で勝ちたいんです。
──ただ、勝てばいいとは思わないのは、昔からずっと変わらないものですか?
昔と比べると、ちょっと変わったと思います。若い頃は、もちろん勝ちたい気持ちがある中でも個人のメリット、デメリットをすごく重視していた時期もありました。自分が成長していくためにも代表で活躍したい。国を背負ってプレーできるように上手くなりたいという思いを持ちながら突き進んできました。ただ、秋田への移籍を選ぶ時には、そういう個人の部分だけではなくて、今まで自分が追求してきたものを周りに伝えていくことが大事じゃないかと、急に強く思ったところはあります。
自分の成長について意欲がなくなったわけではないですが、そこまで自分中心ではなく今は自分が持っているものをみんなと共有して、それぞれが良い選択をしてチームとして成長して行きたい。みんなとコミュニケーションを取って、チームのためになれることをより意識しています。
――その気持ちの変化に至るきっかけは何かありましたか? 年齢を重ねることで自然と変わっていったものですか?
琉球で(橋本)竜馬と一緒にやったことが僕にとっては大きかったです。彼から感じるものはたくさんありました。もう自分のことだけを考えてプレーする歳ではないという思いはすごく強いです。それは琉球でプレーしたからこそ、そう感じられるようになった部分もあると思います。
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