ナゲッツ

文=神高尚 写真=Getty Images

目指すスタイルに対する考え方の『小さなズレ』

ジミー・バトラーがトレードを希望している理由の一つが若手選手との確執と言われています。バトラーに限らず若手とベテランに意識のズレを感じることがあります。試合を見ているだけでもズレを感じさせたのはナゲッツのニコラ・ヨキッチを中心とした若手とポール・ミルサップ。『完璧な補強』とさえ評価されたミルサップの加入は、予想された相乗効果を生み出せなかったものの、それでもお互いを尊重し合って解決策を模索した昨シーズンでした。

トリプル・ダブルを量産するセンターのニコラ・ヨキッチが中心のナゲッツは、シンプルなパスを繋ぎ、思い切りの良いアウトサイドシュートを打っていくのが特徴です。3ポイントシュートはアテンプトでリーグ8位、成功率で7位と高水準。それも特定の選手が打つのではなく、平均3本以上の選手が8人も並びました。

アシストでもリーグ5位の25.1本ながら、最も多い選手でヨキッチの6.1本に過ぎず、全員が満遍なくアシストするチームファーストのプレーが光ります。

ヨキッチ自身も得点よりもアシストを好み、複数の選手が絡んだチームオフェンスに喜びを見いだすタイプです。そこに高いシュート力と相手の逆を突くカットプレーが得意なゲーリー・ハリスや、2年目ながらフリースロー成功率が90%を超えるシューター系ポイントガードのジャマール・マレーが絡みます。この2人はガードながら個人で力強く突破するのではなく、シンプルなパスを連続で繋いでディフェンスを乱し、自分がフリーになるだけでなく時には囮となるオフボールムーブを繰り返し、空いた選手にヨキッチからパスが出てきます。パスの上手いヨキッチと相性の良いガードコンビという若手たちは、個人のエゴを出さずにオフェンスを組み立てていくのです。

ミルサップもまたチームプレイヤーとして評価を上げてきた選手であり、ヨキッチ同様にインサイドでもアウトサイドでもプレーする万能型なので、チームに完璧にフィットすると予想されていました。しかし、ベテランのミルサップが少し違ったのは、オフェンスの起点となるエースには、強引な仕掛けを求めていたこと。そのためエゴがなく、パスファーストのヨキッチのプレーを「物足りない」とさえ感じており、ここにズレが生じました。

例えばヨキッチがポストでボールを持つと、ハリスとマレーはパスを引き出すために「ボールを持った瞬間」に動き出します。これがヨキッチの好むタイミングでした。しかしミルサップの場合は逆サイドで傍観していることが多く、ヨキッチが個人で仕掛けることで「ディフェンスが動いた」時が動き出すタイミングでした。周囲に合わせるヨキッチと、エースに合わせるミルサップに微妙な考え方のズレがあったのです。

さらにこの逆サイドでミルサップが少しでもフリーになっていたらヨキッチは躊躇わずパスを出し、アウトサイドから打つことを求めますが、ミルサップの方はボールをもらってから遅れてマークに来たディフェンスと勝負することを好みました。仕掛けたいタイミングとシュートを打って欲しいタイミング、ナゲッツの若手たちとミルサップには、少しずつタイミングのズレがあり、ミルサップの存在は流れるようなオフェンスリズムを少しずつ乱してしまいました。

この問題はミルサップがケガで離脱したことで一旦落ち着き、2月のナゲッツは強豪相手にも勝利を収めて7勝3敗と上り調子になりましたが、そこからミルサップが復帰すると5勝5敗と調子を落としました。しかしナゲッツは空中分解することなく、プレーオフ進出に向けて立て直します。もう1敗もできない状況から6連勝し、ティンバーウルブズとのシーズン最終戦にしてプレーオフ最後の一枠を賭けた試合までたどり着きました。

チームとして立て直せた要因はそれぞれのやり方に歩み寄ったことにありました。ハリスがケガで離脱したこともあり、ヨキッチはより自分で得点を取りに行き、4月は平均25.7点、12.3リバウンド、3ポイントシュート成功率も43%を超え、ミルサップが考える『エースの仕事』をしました。一方でミルサップはオフェンスをヨキッチの流れに任せ、ナゲッツの弱点であるディフェンスにより注力し、失点を減らしていきました。それぞれのやり方を主張するというよりも、状況に応じた対応を見せましたが、それでも延長戦で力尽き、プレーオフ進出までわずかに1勝が足りませんでした。

今シーズン求められるのはミルサップが若手たちのオフェンスにアジャストすることです。勝った試合と負けた試合のスタッツを比較した時に、ヨキッチは得点よりもアシスト数に大きな差があり、勝ち試合の方が2.1本も多くなります。一方でミルサップは得点に差があり勝ち試合の方が4.6点多く、シュート成功率も7%高くなります。つまり、ヨキッチがエースとして得点を増やすよりも、そのアシストからミルサップがタイミングの良いカットプレーや小気味よいアウトサイドシュートを決めていくことが勝利に繋がるプレーなのです。

ナゲッツはこのオフにヨキッチと5年マックス契約を結び、若手を中心としたチーム作りの姿勢をはっきりと打ち出しました。その一方でサラリーキャップの問題もあってケネス・ファリード、ダレル・アーサー、チャンドラー・パーソンズといったベテランを放出しています。主力で1人だけの30代となったミルサップは、若手たちが作り出す連携プレーを習得する必要があり、その一方で若手たちはミルサップの言葉に耳を傾けながら、ディフェンス力を頼りにしているのです。

世代の違いから生じる考え方の違いは、どこの世界にもあるものです。試合を見ているだけでもそのズレ感じさせたナゲッツは、困難な状況の中で双方が歩み寄りました。それでも届かなかったプレーオフに向けて、お互いがもう一歩前へ進まないといけません。